第17話:サーチャー
グラハム及びエジソン皇子一行は、熊を探して森の浅部を探っていた。
「うん、気配があるね。
ちょっと、釣って来るよ」
グラハムはそう言って、少しだけ森の中部に入り込んだ。
待つこと暫し。
「釣れたよ!リンカーン君、熊を止まらせて!」
そうは言っても、走る熊一頭を止めるのは、走る軽車両を止める位の力が必要だ。
「為せば成る為さねば成らぬ、何事も。
成らぬは人の為さぬなりけり!ってか!」
その、無謀とも言える行動を、リンカーンは大型の盾を以て為し遂げた。
「クッ……!ノックバックが入らぬかよ!」
リンカーンは絶妙なタイミングで『ノックバック入り』のスキルを行使したようだが、熊の勢いと相殺、と云った具合だったようだ。
「この熊畜生めが!掛かって参れ!」
言葉が完全に通じた訳では無いだろうが、熊の方でも立ち上がって叫び、挑発して来る。
「エジソン君、熊の眉間を貫け!」
「──こう、ですか!」
会心の一撃!!
熊は眉間を貫かれて、少し暴れて刺さったままの剣をエジソンから奪うものの、やがて力尽きて倒れた。
幸いにも、エジソンの剣はその後、折れること無く熊の眉間から引き抜けた。
「やあ、予想以上に余裕だったねぇ」
「教授の教え通りに動いたのみですが……」
「否、リンカーン君がお手柄だったねぇ」
「……は?」
「普通、あの勢いの熊を止められるものではない」
「そ、それはそうかも知れませんが──」
「エジソン君のトドメも良かったよ。
無駄に争わずに戦いを終えられた」
「そ、そうですか……」
エジソンは赤面し、顔を明後日の方向に向ける。
「どうかな?
一応、敵のテリトリーでなく、コチラの陣形に敵を引き寄せて討つ、と云う形を見せたつもりなんだけど」
「えっ?!あっ!ハイ、重々承知致しましたが」
「ただ、この位の大物を狩るには、リンカーン君のように止めるか、或いは止まるまで避けて待つしかないんだけど」
だがグラハムには、『リンカーンならば出来る!』と云う確信があって任せた。
リンカーンはその期待に応えてみせただけで、『お手柄』とまでは思わなかったようだが、難しい役割であったことを実感していた。
「リンカーン、君は凄いのだな。
僕はその才能も見抜けず……」
「エジソン君は、自責の念に駆られず、自らの功績を、もう少しだけ誇ってもいいよ」
「──は?」
エジソンは言われる理由を判らずに居るが、グラハムが助け船を出す。
「トドメに関して言えば、エジソン君の一撃だったのだからね!」
そう言うと、グラハムは「サッサと解体しようか」と、熊の血抜きと解体を進めた。
野生味が強いが、好む者には十分に旨い肉になるのだ。それを無為にする理由は無い。
エジソンも、グラハムが作ってくれた解体用ナイフで、解体を手伝うのであった。
流石、龍牙ナイフ。解体初心者のエジソンが、然程苦ともせず解体を手伝える。
「上手い、上手い。
コレなら、近々、五人で協力して、熊の一頭位は捌けるようになるよ」
グラハムは、『褒めて伸ばす』タイプだった。
自らが、貶されて伸びたタイプだから、そんな苦行を人に押し付けるつもりは無かった。
それに、エジソンのナイフ捌きも、グラハムの指導の下であるし、それを失敗しないのならば、十分に褒めて然るべき才能だった。
「そうそう、急がず焦らず、慎重に。
早く捌くのは、数を重ねれば出来るから」
ココで、意外な才能を示したのがナイチンゲールだった。
「ナイチンゲールさんも上手いねぇ。
皮に脂を殆ど残していない」
「はっ?ああいえ、革に鞣す時に楽かと思いまして」
「女性らしい心遣いだね。
初心者とは思えないよ」
「──ジュニアスクール時代に、熊ではないですが、捌いた経験がありましたもので」
「うん。それでも、誇ってもいいだけの腕前だよ」
ソレを聞いて、キュリーとケネディがため息をついたのだが。
「うん、いいチームだ。
キュリーさんは内臓まで無駄にしないように捌いているし、ケネディ君もリンカーン君が盾で受ける時に回復魔法を掛ける準備をしていたようだからね!」
「うぇっ?!」「は、はい……」
グラハムの褒め言葉に恥ずかしげに反応するケネディとキュリーだが、少しだけ、それが誇らしくもあった。
「うん、エジソン君が釣る役目を果たせれば、五人で熊の一頭位は楽に狩れると思うよ!」
だが、ソレを任せる訳にはいかない四人は、代案を出せないものか、考えてはみるのだが。
唯一人、エジソンだけはその役目を果たす覚悟を決めようとしていたのだった。
兎も角、五人の抱える事情は、簡単にグラハムの言葉で判断を下せるような、そんな関係性では無く、よって、五人で考えて状況を判断する事を後に行なう事になる。
だが、四人の失敗は、エジソンが今回の件で妙な自信をつけてしまった事にあった。
中々に、立場を考えた立ち回りと云うのは、難しいものであった。
グラハムでも、そこまでの機微は判らないのであった。
もしも、エジソンが犠牲になった場合、四人の責任は……。
そう考えると、身震いする。
少なくとも、公爵夫人にはなる定めの子。
その子が傷物だったとしたら。
──エジソンは、不幸な道を歩まねばならぬのかも知れない。
その責任を、四人が取れるか?
──否!生命を以て償う位しか出来ない。
ましてや、皇太子時代に『暴君子』として名を馳せた現皇帝の寵愛を受ける子。
皇帝陛下が黙っているとは思えない。
生命を以て償っても、尚不足と言われたら。
だが、四人の意に反し、エジソンはサーチャーと云う役目に興味津々で、グラハムから教えを請うのだが、四人はどう止めたら良いものか、真剣に悩むのだった。




