第16話:熊狩り
エジソンは実は、学園の一般的な支援は受けつつも、国からは取り巻き四人と云う人材以外に、例えば金銭的支援等は受けていないのだった。
なので、毎日ポットを作成する材料の費用の捻出は難しかった。
が、五人の余裕を蓄積すると、毎日一人分のポットを作成する費用は捻出出来た。
そして、更なる費用の捻出の為に、グラハムを狩りに試しに誘ってみたのだが。
「狩り?いいよ。休日の方がいいだろう?
メインのターゲットはどのモンスターで、どこら辺で狩りするつもりかな?」
快く了承を得られたのだった。
「熊のモンスターを、森の深部まで追跡しようかと──」
「否、森の浅部か、深くても中浅部迄しか認められない。
単体の熊のモンスターであれば、人数の優位で狩れるだろう。
けど、深部になると脅威的なモンスター、それも数の多いモンスターの可能性を考えると、死人が出かねない。
正直、エジソン君の実力を見ていなかったら、熊のモンスターも認められなかった。
因みに、タンク役は誰?」
ケネディが手を挙げるが、「ダメだ」とグラハムが駄目出しし、リンカーンを推挙し、「君の方が頼りになる。ケネディ君だと一瞬の隙で討ち死にしかねない」とまで意見する。
「失礼ですが、教授。リンカーンを推挙した理由は?」
「立ち回りが、周囲を良く見えているし、盾を合わせる時の技の繰り出しのタイミングが良い」
「ケネディの欠点は?」
「良くも悪くも、メインターゲットに集中し過ぎている」
「成る程……」
エジソンはリンカーンに「頼めるかい?」と聞くが、「勿論」の一言。
「逆に、ケネディの果たすべき立ち回りは?」
「多分……ヒーラー」
「「「えっ!」」」
エジソン、キュリー、ナイチンゲールの三人が驚きの声を上げた。
「開花しているのは自覚しているだろう、ケネディ君?」
「はい。
タンクとして立ち回るのに有効かと思っていたのですが……」
「もっと全体を見て、タイミングを計ってヒーリングを掛けるようにすると良い。
自分のライフの管理に集中するのは負担だったろう?」
「はい……彼我のライフバランスに集中するのが精一杯で。その上、ヘイト管理をするのは……」
「うん。自覚していたなら、パーティーメンバーには相談するべきだったね」
「殿下の指示に従っていただけなのですが……」
パァンッ!
グラハムが手を打ち鳴らした。
「はい、上のミスの可能性を考えて、情報のフィードバックをしないと、生命を落とすよ?」
「ムゥ……」
グゥの音では無く、ムゥの音が出た。
「──で?熊を誘い込む策は?」
グラハムの質問に、五人が目を合わせた。
「深部まで探せば、居ない事は無いと思っておりましたので……」
「うん、サーチャーが居ないのは、君たちのパーティーの欠点だね。
良しッ!僕がお手本を見せよう」
五人は話について行けず、動揺したが、代表してエジソンが質問をする。
「スミマセン、『サーチャー』と云うのは……?」
「文字通り、対象モンスターを探知して、釣り上げる役目の人だよ?
因みにファーストヘイトを稼ぐから、下手な内は真似しないこと!」
「え……?ソレはタンクの役目では?」
「敵のテリトリーに足を踏み入れるのがタンク、味方の陣形に引き込むのがサーチャー。
わざわざ敵の優位な場所で戦う事は無い」
「し……しかし、教授が居ない時に、その役目を果たせるメンバーが……」
「うん、この策を提案すると、大いに反対されるだろうけど、エジソン君が適任かな?」
「ええっ!僕が?!」
守るべきエジソンを危険に晒すとか、取り巻きの護衛四人の立場的に涙目な提案である。
「うん、だから、スリングとかで投石してファーストアタックを当てて、その先は、回避タンク兼物理アタッカーを熟せるエジソン君には、退きながら全部回避とか、正直、余裕でしょう?」
「そりゃまぁ、動きの然程疾くない熊が相手でしたら……多分、もう余裕ですけど……」
「なら、狩りの時に見本見せるから、そのうち体得して」
「あの……」
エジソンは、唐突に湧いた考えを確かめずには居られなかった。
「教授は、一体何処を目指して居られるのですか?」
「──真面目な質問なんだよね?」
グラハムは真面目な顔をして問い質した。
「──はい。相応には」
「──世界の裏側から糸を引いて、そこそこ平和に暮らして行ける世界を築くこと、かな?」
「──裏の世界のトップ、と云う事ですか?」
「そこまで大した存在じゃないけど、時代を動かす位の影響力を持ちたいね!」
「時代が動く?!」
「うん。
シュバルツシルト陛下が頑張って、腐敗の膿を出し切ってはいるけれど、その代わり、取り締まりが厳し過ぎる。
勿論、腐敗するのは論外なんだけど。『必要経費』を考えた場合、本来は『腐敗』と言われる要素を、その中から有効的な『発酵』している部分に関しては採用すべきだと思うんだ。
将来的に目安箱に意見を投書しようと思っているのだけれど。ルールとして、勿論厳しい審査にも通った例のみに限って、政治的な金策としての献金等を合法とする事を提案したい。
あと、世界の裏側で、『義賊』は認めるけど、犯罪行為の助長を抑えたい。
現代は、未だ犯罪行為が多過ぎる。
合法でも悪質な稼ぎをする者からは金品を奪い、貧しいながらも善人である者達に配る、『義賊』と、『義賊の紛いもの』としてただ奪うだけの者達とは、区別して裁かねばならない。
その為には、世界の裏側での権力が必要になる。
俺の考えている方法は、病を利用する方法だ。因果律に干渉する事で。
悪人には、病に依る罰を受けてもらい、実質、活動を出来なくする。
何せ、ただ『奪う』ばかりでは、生産する側が最悪の場合、生産する事を止めてしまうからね。
そうなると、必要な物が生産されなくなる社会になる。ソレは正当な手段で防がねばならない。
中には、悪質な生産をして、高値で捌いているタチの悪いのも居るから、その『見極め』を出来る者だけならば、正しく『義賊』である者達は見逃すけれど、得た物を独占するなら、正しい『義賊』では無い。
その辺りの正しい情報を得て、正しい処罰をする必要はある。
中には、どちらが正しいと判断出来ない例もあるだろう。
でも、ルールが全てでは無いし、定めねばならぬ例外的なルールもある。
少なくとも、『悪』とか『罪』とかを生み出すばかりで、ソレを取り締まる者達は、もっと問題意識を持たれるべきだ。
そもそも争う理由として『悪』を生み出す者は、ソレ自体が既に『悪』であると言える。
例え『正義の味方』でも、その存在意義の為に、わざわざ『悪』の存在を生み出すのは考えものだ。
例え想像の世界の話であっても、『争い』の原因になるのは、『正義』と、ソレとは別の『正義』との衝突であらねばならない。
わざわざ『悪』や『罪』の概念を生み出して、ソレを討伐する『勧善懲悪の正義』は、『完全超悪』に近しい」
「小難しい事は判りませんが──」
エジソンは要点を纏めてこう言う。
「モンスターは、『悪』では無く、間引く事で数を減らし、『害』になるのを予防しているだけであって。増え過ぎねば狩り過ぎるのも良くない、と。
この世界にはある程度、『意味』や『役割』を持って存在しているから、存在を許されるのであって。例え想像の世界でも、ワザと『悪』を存在させる事は、例え退治しても、『悪』の存在を生み出す事そのものが既に『悪』と云う事でしょうか?」
「世界の何処かには、その『罪』を持つ『悪』の存在を生み出していながらに、『聖人』扱いされている、『罪』の強過ぎる存在が、そう在るべくして処刑されている。その『罪』に相応した『悪』として産み堕ちた者からしてみれば、そもそもがその存在を預言された事そのものが、納得がいかぬ。犠牲者となったが故に、ロクな人生を送れない事に責任取ってくれるのでもなければ、その『聖人』扱いがそもそも間違っていると主張したいのだよ。
例え、『罪』と云う概念と向き合った時に、他人を犠牲者にする位ならば、全て自分で背負う!と粋がった事で、『魔王』扱いされるならば。その『聖人』扱いされた奴と、やっている事がどれだけ違うかよと云う話だし、そもそも『魔王』なんて恐ろしい存在にされてから、不本意な犠牲者を次々と生み出すと云う哀し過ぎる運命を前に、どう先を進めば良いのか……。教えられても、一度裏切られていながらに、信じる事すら出来ぬ自分を、呪ったのは後悔しようとも、仕方の無い行ないであり。その呪いの犠牲者が他に出たのは、果たしてそもそもの間違いを先にしたのはどちらだと云う話になる。
過去に行なった者が『聖人』で、未来で行なった者は『魔王』など、余りにも扱いが違い過ぎて、納得なぞ出来るか!とは思う。犠牲者を出した『罪』は確かに、自ら一生後悔する覚悟を決めても、そもそも『預言』さえ無ければ、『罪』を犯す事も無かったかも知れない事実を前に、『聖人』たる『預言者』を恨む位は許して欲しいものだよ」
「……魔王や魔族は犠牲者なのですね……」
「たった一人が、神の前に屈した上で『預言』を遺した事が原因ならば、少なくともその一人を『聖人』扱いは辞めて欲しいものだよ。
そして、そのように世界を創った全知全能神は、その存在そのものが十分に『悪質』であるよ」
「神に屈する『預言者』が『聖人』なら、神に対抗する『ドラゴン』は『魔王』?否、『龍神』なれば、『この物語世界』では、確かに『龍神信仰』が主流となれど、『全知全能神』と『龍神』と、どちらの方がより『悪い』のかの判断も難しいですね……」
「はぁーーーー、気分転換に、熊狩りに行くか?」
「少し嫌な話題でしたからね……。
今日出立して、明日の早朝までに戻り、仮眠を取って講義。──と云う予定で如何ですかね?」
「俺も、今日行って憂さ晴らしに熊狩りたくなった!
スケジュールはそれでいいとして、晩飯に熊鍋……。
唆られるな。
全く、『龍神信仰、万歳!』だよ!」
「その割にドラゴン肉を毎年調達する教授が、『龍神信仰、万歳!』って言うのは、イメージとしてそぐわない気がしますけれど」
「ドラゴンは肉と強さを与えてくれる存在なのだよ、俺にとってはね!」
その恩恵を被ったエジソンにしてみれば、それに反する言葉など、あろう筈も無かった。




