第15話:マナクルの秘密
翌朝早朝。
エジソンは敢えて早起きして、グラハムに対して「おはようございます」と挨拶してみた。
「ん?ああ、おはよう。
珍しいね。──っと。
ゴメン、ポット作成中なんだ」
昨日の話が、ある程度は本当だと判明した。
「教授、対価を支払いますので、僕にもポット作成をさせていただけませんか?」
「ん?いいけど、ちょっと待って」
待つこと暫し。
「よっ、と。完成。
飲む前に、エジソン君、材料と道具を貸し出すよ」
「対価は如何ほどで──」
「ん、初回は提供する。
有用だと思ったら、自分で一式揃えて、自分で出来ることは自分でやること。
まぁ、毎日と云うのは、中々に面倒だからね」
「え?よろしいので?」
「高が健康法に価値を見い出してくれるのならば、その位はサービスするさ。
それに、材料は量を仕入れないと手間だからね」
それから、グラハムは「ああ、そうそう」と言い。
「仮眠取って様子伺ってる人、目覚めるならついでに自分の分のポットを作るなら、材料を提供するよ?」
グラハムがそう声を掛けると、ナイチンゲールのみが起き上がった。他の者は、仮眠を取って身体を休めたいと云ったところだろう。
「……?
教授、何故、道具が二組あるのですか?」
ナイチンゲールと共にポット作成をしようとしたエジソンが、材料は兎も角、道具も二組用意された事に疑問を抱いて質問した。
「あー……俺、劣化とかする道具なんかは、予備を備える癖があってねぇ……。
因みにもう一組あるよ?」
「不要でしたら、買い取らせて頂けませんか?」
「うーん……それがねぇ。こう云う風に、人を巻き込んでポット作成する事もあるから、別に無駄と云う訳でも無いんだ。
だから、ちょっと譲れないかなぁ?」
と、言いつつもグラハムは、「待てよ?」と考え込んだ。
「俺、今回の学生生活を境に、今度は卒業する予定だった。
……うん、道具を譲っても良いか知んない」
そう言うと、ちょっと考え込んで。
「ピンクカード一枚……いや、中古だから、ピンクコイン三枚でいいよ?」
「では。……コチラで」
エジソンが差し出したのは、ピンクコイン六枚。グラハムは「いやいや」と言って。
「二組でピンクコイン三枚。
だから、三枚は返すよ?」
「……そうですか」
「因みに、ピンクのコインやカードは、魅了の魔法の発動体になって、ランクダウンする事はご存知かな?」
「な……ッ!」
「使わないけどね!」
その言葉に、エジソンは心底安心した。
そして、そんな代物が1,000マナクル・5,000マナクルと云う安価で取り扱われている事に、エジソンは不安を抱いた。
「ああ、不安になる事は無いよ。
ソレ相応の技術が無いと、効果が安定しないから。
逆に、自分を嫌わせる事すら可能な事は、流石に知る者が少ないけどね!」
そう言ってから、更に「敵を作るだけだから、やらない方がいいよ?」と忠告も入る。
「教授、他のコインやカードも、それぞれに魔法的な効果が伴うのでしょうか?」
「ん?ああ、先に手を動かして。
で?他のコインやカードの効果?勿論あるよ?
何なら、マナクルは魔力結晶だからね」
ゴリゴリと野菜──薬草を磨り潰すエジソンとナイチンゲールは、その事実が如何ほどの脅威になるかを想像し、戦慄した。
「──ただ、その効果を制御する事は、恐らく君たちの想像以上に難しい。
ロクに魔法を使えない者には、効果を引き出すだけでもひと苦労。
引き出す効果と同等の魔法の使い手にのみ、安定して引き出せる。
つまり、自分の魔力を消費する代わりに使う位でなければ、制御は出来ないね。
そして、制御しなくとも十分に目的を果たせてしまうレッドマナクルの価値が高めなのは、ソコに秘密がある」
レッドマナクルの暴走。即ち、放火やソレに類する効果。ソレは、価値が高く、マナクルを使わなくても同様の目的を果たせてしまうから、わざわざレッドマナクルを使う者が居ないのにも納得がいく。
ならば、ソレより上位の白・黒・虹色は?と云う疑問に行き着く。
「白は回復魔法、黒は精神魔法、虹色は気象魔法と云う使い道がある。
因みに、勘違いしないように言っておくと、黒の精神魔法は、精神的な病を回復させる使い道が存在するんだ。勿論、精神にダメージを与えて病にする事も可能だけど、白の回復魔法にも、アンデッド・モンスターにダメージを与えたり、浄化する効果も発揮出来るんだ。
気象魔法に関しては、まぁ、そんな大規模な魔法が如何に難しく、効果的な面もありながら、脅威的な面も持ち合わせている事は、想像に難くないとは思うけれど……」
「待って下さい!
ブラックマナクルに、精神的な病の回復効果を発揮出来る事は確かなのですか?」
「その魔法の行使能力の持ち主に限って、ね」
「……」
返って来た答えの内容に、エジソンは『そんな魔法の行使能力者が居るのか?!』と疑問に思ったが、確かに、平静な精神を齎す魔法の行使能力者の存在については、話に聞いた事がある。
「その魔法、教授は行使出来るのですか?」
「うん。何なら、ワンコイン・ワンカードにつき年に一度、マナクルの価値を一段階上げる事も、出来なくはない」
返って来た想定外の答えに、更なる脅威を覚えつつも、確かに、珍しく父帝から直に、グラハムと云う人物に『絶対に敵対するな!なるべくなら親しくなれ!』とのお言葉を頂戴する筈だと得心が行くのであった。
次回より不定期掲載となる予定です。




