第14話:ポット その2
「エジソン君は何らかの訓練を積んでいたのかな?」
グラハムのその言葉に、夕食の熊のモンスターのお肉を咀嚼してから飲み込んだ、エジソンはこう返す。
「はい。一人でもあの位のモンスターなら、倒せるように、と。
でも、実際にその訓練の成果が実ったのは、あのドラゴンステーキを食べた後でした」
(そうだった……)
グラハムは、レベル上昇の効果は、何らかの訓練を積んだ後の方が効き目が強いと云う事を思い出した。
「毎年、一年生の最初の食事の際に振る舞っていると聞いておりますが、そんなに簡単にドラゴンを狩れるのですか?」
「否、最初は苦労したよ」
グラハムは、最初にドラゴンを狩った時の、三日三晩の不眠不休の戦いに、一瞬だが想いを馳せた。
だが、その時はある意味最強種の白龍であったことを思い出し、一般に最強種と言われる黒龍と比べ、やはり戦い方も知能が高かったなと想い起こす。黒龍は、凶暴過ぎるが故に、攻撃は熾烈なれど単調なのだと言われている。
パターンに嵌めて戦うグラハムとしては、未だ戦った事は無いが、初戦であれば厳しかっただろうが、搦手を使って来る白龍は余りにも強かった。
そして、ソレ以降は白剣と白鎧があったが故に、装備的にも充実していたし、相手も白龍とは二度と戦う事は無かったし、水龍・火龍・風龍の三種を多く狩り、召喚魔法を体得してからは探しに行く手間も無かったが、やはりしばらくはその生命を狩る事に、抵抗する力が強かった。生半可な者がドラゴンを召喚すると、生命を持って行かれると云う噂は、本当であった。
その辺りの話を、召喚魔法の事は伏せて、ネタとして話題に挙げたら、「静かに!」と注意しなくちゃならない位に白熱した質問が飛び交った。
「──それで、教授は二年目のコース選択、どちらをお進みになられるおつもりですか?」
「ん~~……決めてはいないけれど、治癒術コースが今のところ、目標かなぁ……」
「またまた、ご冗談を。
既に、その技術は極めていらっしゃるではありませんか!」
「──正確には、『ポット作成』への道かなぁ……」
ポット。ポーションの略称だ。
猛者は、ポットガブ飲みで狩りを行うとされているが、グラハムの目的がその為のポットでは無い事は明らかだった。
「『一家に一本、ポットの備え』と云うレベルで広めたいんだ。
その為には、現状の一般市民が作成法を知らないと云う状況は改善しておきたいんだ」
確かに、緊急時や医者の居ない地方等には、一家に一本、ポットの備えがあれば、心強いだろう。
──だが。
「ポットは我が国では、国が管理する取り決めになっている筈ではないですか?
一般市民がポットの作成をするのは、禁じられている筈では?」
「うーん……『治療院』に所属していれば、ポットの提供は禁じられて居ないんだよねぇ〜。
この、良い具合に『ルールの抜け道』を作る政治は、俺は嫌いじゃないよ?」
「では、教授の行く末は、イチ治療院の『ポット作成師』の予定なのですか?」
「うん。回復魔法も掛けるし、病気の治癒術も掛けるけど、基本的にポットを作って配って行きたい」
「……見返りも無しに?」
「ハッハッハ。大丈夫だよ、それなりに流通する迄は、かなりの金額でも支払って家に備える富裕層は多く居る。
その儲けを利用して、将来的に安価で提供し、最終的には、国の事業としてポットの配布と云う政策を国に願い出ようと思っているよ。
幾ら、俺が他の人に比べて欲が少ないと云えども、無償で求められる限り限界まで提供するなんて、そんなにも無欲では無いし、ソコまで一方的に奉仕するほど善人では無いよ」
「──でも、ポットのレシピを普及させたら、違法に作る人が多発するのでは?」
「薬事法違反の問題だね?
大丈夫。治療院の皆に、効果的なポットのレシピを提供する程度に留めるから」
エジソンがゴクリと唾を飲み込んだ。
「つまり、現状より良いポットのレシピを、教授はご存知でいらっしゃる……?」
「うーん……良いと云うより、手っ取り早くてその代わりに、効果が病の予防作用が一日作用する、程度のものなら、市販の材料で作れてしまえるね!」
「……は?」
エジソンの頭がフリーズした。
立ち直るまで、三分を要した。
「──ん?レシピ?
一番簡単なのなら、教えても構わないよ?」
エジソンが我に返ると、取り巻きがポットのレシピを教えて貰えないか、交渉にも至らずに教えて貰える話になっていた。
「教授、待った!
ソレは、流石に教わる訳にも行かないものかと!」
「いやぁ~、一番簡単なのは、必要な栄養素で摂る機会がそう多くはない野菜が主原料だから、病気の予防効果程度は発生して当然レベルのものだから、全く問題無いよ!
いい?一度しか言わないよ?
春菊と小松菜と蓬蓮草を同量ずつを用意して、それらを擂鉢で少しずつ擂り潰して、そのままだと飲めた味にならないから、ブドウ糖をひと欠片だけ一緒に擂り潰して、ペースト状になったら、少しずつ水を足して混ぜて、沈殿しない位にしたら、もう完成。
尚、効果を疑う人に対する効果は低い。
あとは瓶にでも詰めて、ソレだけでも、安くなら売れると思う。
因みに、粗悪品は養分が沈殿するから、一目瞭然。
コツとしては、『魔力』を込めてやる事かなぁ……」
「そんなに簡単な手順で?!」
グラハムは人差し指を左右に揺らし、チッチッチと舌打ちした。
「沈殿しない位に仕上げるのは、至難の業だよ?
俺でも、ソコまで丁寧に作る事は滅多にないね。
でも、毎朝早起きして、一本仕上げたら飲み干すようにして、余裕があったら、沈殿しないレベルのを時間を掛けて作るね!
実は、ソレラの野菜に秘められた栄養素こそが効果の秘訣だから、作って直ぐなら、沈殿する前に飲み干せば効果はあるんだ。
因みに、薬効は成分が沈殿するまで。
沈殿するまでの時間が、そのポットの品質。
時間が経ち過ぎると、最悪腐るし、成分が分離するし、沈殿したら成分に全てを摂取出来ないし、効果の保証が出来ない。
ハイグレード品を作りたいなら、ブドウ糖の代わりに蜂蜜を使うと腐敗の軽減作用が期待出来るよ?」
聞いた。
聞いてしまった。
効能の原理を突き詰めれば、一種の健康法に過ぎないのかも知れない。
だが、確かに効能は期待出来そうだ。
ただ、毎朝飲むとなると、材料の問題になるのだが……。
「教授、その材料の調達をどうやって……?」
「学食のお姉さんにお願いして、卸値に色を付けて大量に仕入れて、空間魔法で保存して、足りなくなる度に仕入れのお願いしてるよ〜」
まさかの学食経由。しかも空間魔法まで使って。
──真似は難しいな……。
エジソンはそう思った。
「教授、因みに僕にオススメの進路はありますか?」
「リーダーシップトレーニング1択。
皇帝の後継者候補として、ちょっと期待しちゃうなぁ〜」
「──は?」
エジソンは、再び相対的時間の旅立ちを経験する。
七垓年程を過ぎて、エジソンは『世界の終わり』を感じたが、再構築を確認し、自らの生きる地が、贈り物であると知る。
流石に、長過ぎる旅立ちだとは思ったが、世界の真理の欠片を拾って来た錯覚を覚えた。
エジソンの合図で、取り巻きの四人も引き際を悟り、夕食を平らげて引き上げた。




