第9話:指導者への道
その日は、剣術の訓練だった。
ココでも、グラハムは先生を超える先生、『教授』若しくは『師匠』の呼び名を縦にしていた。
「じゃあ、また最初からやるよ?
君が俺に袈裟懸けに斬り掛かる。ソレを俺は避けながら、剣を横に薙ぐ。
そして君は、どう動く?」
「後ろに引いて避けます!」
「そう、ソコに俺は踏み込みながら、逆方向に薙ぐ。
その時、君はどう動く?」
「木刀で受けます!」
「成る程。木刀だから通じるけど、『白龍牙剣』が相手なら、普通の真剣ならば、剣ごとバッサリ、だからね。
じゃあ、俺は後ろに跳んで距離を取ろう。
その時、君はどう動く?」
「構えを直して、呼吸も整えます」
「うん、ココまでを少しゆっくり流して、徐々に速くして繰り返そう」
学生が袈裟懸けにゆっくり斬り掛かる。グラハムが避けて、横一文字に斬り掛かる。学生が退いて避ける。グラハムが踏み込んで逆方向に横一閃。学生が木刀で受ける。グラハムが後ろに跳び退く。学生が構えを直して呼吸を整える。グラハムも姿勢と構えを直す。グラハムに呼吸が荒れる気配は無い。
「もう一度、もうちょっとだけ速く!」
「はい!」
学生が袈裟懸けに先程よりちょっと速めに斬り掛かる〜〜〜〜……。
「もう一度、もうちょっとだけ速く!」
「はい!」
学生が袈裟懸けに先程よりちょっと速めに斬り掛かる〜〜〜〜……。
……
…………
………………
やがて、呼吸が整えられなくなる迄に至り、休憩を挟む。
それから。
「じゃあ、最後に出来る限り速く、やってみようか」
「はい!」
学生が袈裟懸けに斬り掛かる。グラハムが避けて、ややゆっくりと横一文字に斬り掛かる。学生が退いてギリギリで避ける。グラハムが逆方向に横一閃に剣を振り、学生が木刀で受けようとして──
ビキッ!
──その木刀が砕けた。
「はい、ココまで」
グラハムはそう言い、ゆっくりと学生の頭に木刀を軽く当てる。痛くない程度に。
「──参りました」
「うん、次回は違う立ち回りを考えて、ソレを殺陣として試してみようか♪♪
はい、じゃあお次!」
等と、各自が考えた立ち回りを試すように、息が上がるまで繰り返しては、最速の殺陣を繰り広げるべく、休憩を取ってから試し──結果、木刀で受けざるを得なくなり、砕かれる。
心が折れるような相手には試さない。だが、糧となるならば、グラハムは相手に合わせて、全力のドン底の中に潜む潜在能力と云う奴を引き出してみせる。
結果、挑んだ学生は『剣術レベル』が上がったかのように実力を伸ばし、そう云う学生は、騎士として有能と見做される。
勿論、剣の腕だけでは騎士にはなれない。
だが、剣の腕が立って、作るポットも高品質。更に、魔法でも治癒術でもグラハムによって鍛えられれば……。
かなり、その狭き門を潜り抜ける為の印象が良くなる。
だからこそグラハムは、『先生』であったり『教授』であったり『師匠』であったり、敬称で呼ばれるようになるのだ。
そして、何故かグラハムは、一つだけ成績がイマイチな科目があった。
それは、騎士になるならば重要な、『マナー』の科目だった。
──何故か。
ソレは、グラハムにとってはマナーの科目は面白いものでは無いからだった。
要するに、グラハムはエルフとして長寿な分、その人生の約56年を、学生として面白い科目ばかりを上達しているのであって、少なくともあと約7年を道楽として学園に属するのであった。
そして、モンスター狩りではグラハムは、他者の協力は仰がないものの、他者から協力を求められたら、二つ返事でソレに応じる。ダブルブッキング等が無い限り。
但し、この段階では先生の許可が下りない限り、新入生たちの狩りの実戦は厳しく禁じられている。
狩りに於いては、グラハムは積極的にタンクの役目を背負う。序でに、ヒーラー役も。
結果として、学生達は安全に攻撃に専念出来るのだが。
コレは、学生の腕が未熟な場合に限る。
少なくとも、半年はグラハムは様子を見る。
故に、グラハムは授業で『立ち回り』を覚える迄は「手を抜いているのではないか?」との疑いを持つ者も居るのだが、確かに、敵を倒すと云う目的のみを見れば手を抜いている。
しかし、グラハムが本気で攻撃したら、討伐が終わってしまう。
故に訓練として、グラハムはヒーラータンクの役目を果たすのだ。
いずれ授業で習えば、皆が知る事。しかも、一番危険な役目を果たして居たのだ。皆、一目を追加して置く事となる。
そもそもが、学園で狩りを推奨する前に狩りに出掛ける者達は、血の気の多いやや無謀な者であり、グラハムがその一番危険な役目を果たしていた事を知る前は、学園の許可を得ていなければならない。
そして、その許可が下るのは、グラハムが同行する場合のみである。
当然、疑問と不満が出る。
しかし、その理由が『死人が出るから』と云うのであれば、言葉を飲み込みざるを得ない。
そこでグラハムは、平等に順番に、血の気の多い若者を率いて狩りに出るのだ。
当然、グラハムの疲労は溜まる。
しかし、回復魔法で疲労をも回復させながら、グラハムは血の気の多い若者を気が済むまで連れ回す。
それは、実戦に勝る経験は無いからでもある。
そして、満足した者は余計な騒ぎを起こす事も無くなり、ちょっとした収入も得られる。
そうして、グラハムのお陰で無傷で帰れていた事を知った者の中からは、タンクやヒーラーの役目をグラハムから習う者も出て来る。
そして、コツを学んで実戦でも試したメンバーが、タンクやヒーラーの役目を果たして、後続の狩りに出る者達を導いて行く。
勿論、その為にはグラハムから合格の判を貰わなければならない。
特にヒーラーは、学園で習った上、才能が無ければ成れる役目ではない。
このようにして、騎士の卵達は自分の役目を見付けて、安全に狩りに出掛けられるようになるのだ。
殻を破るのが早いか遅いか、その違いはある。
でも、脱落者を出さない。ソコにグラハムの存在意義はあった。
間違い無く、指導者の才覚がある。そして、ソレを裏付ける実力もある。
果たして、グラハムは卒業後、何を目指すのか。
学園としては、出来れば教職員として招きたい気持ちがあったのだが、ソレは強制してやらせることでは無い。
だから。
「おい、グラハム。
ちょいとコイツの面倒見てやってくれよ」
教員はそう頼み込んで。
「ああ、はい。
で、どのような方針で?」
訊ねては来るものの、断わりはしないので、グラハムの方にもそのような考えがあるのでは無いかと、学園側ではそう認識するのであった。




