ピンチとチャンス
「あはは、最初から私に騙されてたんだよ、星乃君は」
目の前に立って、狂気的な笑みを見せている雨翔先輩を睨む。……刺された腹を、抑えながら。
「どういうことだ」
「そんな怖い顔しないで、優しい顔が台無しだよ」
狂気的な笑みから一転、優しい笑みを見せる彼女は……雨翔先輩にしか、見えなかった。
「……俺のことが好きなのは嘘ってことか?」
「うん、嘘だよ」
「……………」
……違う
「怒りと絶望に満ちた顔だね、あはは」
違う……違う違う違う違う違う!!!こいつは雨翔先輩なんかじゃない!!雨翔先輩のガワを被った……化け物だ!!
「おい」
俺は今一度、雨翔先輩に似た何かを睨みつける。
「……ん?」
「お前は誰だ」
腹を抑えていない方の拳を強く、強く握り締めながら……
「……私は雨翔心だよ?星乃君」
その答えを聞いた瞬間、確信した。……こいつは絶対に雨翔先輩じゃない。
「雨翔先輩の一人称は……僕だ。お前今、私って言っただろ」
〈波動〉によって血の流れを制御して、軽い応急処置を終える。両手が使えるようになった俺はすぐさま戦闘態勢に入った。雨翔心ではないその女は、もう笑ってはいなかった。
「……つまんないの」
「雨翔先輩を返せ、クソ野郎」
「じゃ、一つだけもんだーい。私は誰でしょうか?」
その女は特に俺に攻撃を仕掛ける訳でもなく……そんな問いをしてきた。
「……知るか、そんなこと」
俺はそう吐き捨てて、彼女の様子を伺う。……どこからどうみても……雨翔先輩なのだが……。でも、どうすれば良い……。どうやったら雨翔先輩を取り返せる……?
「つれないなぁ……面倒だから答え言っちゃおっか」
「…………」
俺が問われたことと別のことを考えている間に彼女は、更に思考がこんがらがることを言い始めた。
「羽鳥詩織。雨翔心のオリジナルだよ」
「羽鳥……だと」
羽鳥……羽鳥詩織。最低最悪の科学者、羽鳥真也に子どもがいたのか……?それにオリジナルって……雨翔先輩は……。
「あ〜お父さん殺されちゃったんだっけ?京宮新一に。京宮も殺さなきゃな」
「殺させねぇよ。雨翔先輩の身体で、そんなことさせてたまるか」
今は、考え事をしている暇はない。今、やるべきことは決まった。雨翔先輩を助ける。どうにかしてこいつを気絶に追いやれば、一時的には抑え込めるはずだ……。
「……まずは君を殺さないとね?」
その女……羽鳥詩織は笑いながら、俺をさっき刺したナイフを構える。……相手は少なくとも異能都市4位の実力者。雨翔先輩の身体を十分に使えるなら……俺に勝ち目は薄いかもしれない。でもやるしか……
「何があったか、端的に説明してくれよ。鈴子ちゃん」
……どうやら、最高の助っ人が来たようだ。
紗耶、アッシュ、モンブランがそれぞれ並んで小走りして警備室に向かっていく。そんな中、アッシュが口を開いた。
「もう大丈夫なのか?」
「はい、泣いてばかりではいられないので!」
紗耶は胸をドンと叩いて、アッシュの心配を払拭するのだが……少し神妙な顔付きになる。
「でも……アッシュさん、聞きたいことがあるんですけど……」
「どうした?」
「なんで……私の妹って言ったんですか?」
「あ〜……それは……」
額を軽く抑えて、アッシュは事実を告げようかと悩む。すると今度はモンブランが口を開いた。
「それはね〜」
「黙ってろモンブラン」
アッシュが軽くモンブランを睨む。観念したかのようにモンブランは首を縦に振った。軽く咳払いをしたアッシュは事実を告げることに決め、紗耶の方を向く。
「……私が、紗耶の姉なんだよ。星乃凛音、それが私の本当の名前だから」
「え、ええええええ!?!?」
驚愕してしまう紗耶。それは当たり前と言わざるを得ない、至って普通の反応であった。照れたのか、アッシュは紗耶から顔を背けてしまう。
「多分もう覚えてないだろうけどな。私が紗耶に最後会ったのは、ずっと昔だし……」
「……そうなんですか……」
シュンとしょげてしまう紗耶を見て、アッシュは紗耶の頭を撫でた。
「ま、昔話は後だ!今は警備室に向かってハッキングしないといけないからな」
「そろそろだよ、二人とも」
モンブランがそう言ったすぐに三人は、何やら物々しい雰囲気を感じさせている扉の前まで着いた。
「……ここが警備室か」
モンブランが扉に手をかけて、引いたり押したりするのだが……
「鍵がかかってるね。アッシュお姉ちゃん」
物ともしないようで、アッシュの後ろにまで下がる。アッシュはトントンと、つま先で地面を叩き……
「オッケー。紗耶も下がってろ。」
紗耶に忠告をした。誰がどうみても、人間にはどうにも出来ないその扉なのだが……
「わっ……!?」
モンブラン同様、後ろに下がった紗耶は思わず飛び退いてしまう。アッシュが鉄なんかよりも数倍硬そうなその扉を、蹴りで容易に破壊したからだ。
「……誰もいないね」
モンブランが先に部屋に入り込んで、中の様子を見渡す。物々しい雰囲気を感じさせていた割には、おかしい点はなかった。アッシュと紗耶もその部屋の中に入ろうとする。
「……屈め!!」
アッシュが何かに気づいて叫んだのだが、もうその時には遅かった。
「スミマセンネ……ん“ん”、仕事……なので」
「がっ……あっ……!!?」
モンブラン並の背が小さな、スーツを着込んだ黒い肌の少年に……アッシュは両足を綺麗に切断され倒れ込んでしまったのだから。
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