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チャレンジャー

「『凸』」


更に数十匹の魚がうねりながらレースに向かって凸入していく。


「厄介すぎ……!!」


レースは口ではそう言うものの、笑顔で魚を切り裂いていくが、魚の物量はドンドン多くなっている。檜山はどうやって目の前の少年を倒そうか考えていた。


「ま、何人も人殺してそうだし……死んでも文句言うなよ?」


檜山はニヤリと笑うが……その目の前からいつの間にかレースは消えていた。鏡が割れたような音と同時に消えた。


「さぁ……なんのことかな?」


「『凹』!」


背後からレースの声が聞こえた瞬間にほぼ反射で檜山は叫んで、魚を自身の身に纏わせて迫り来るナイフを防御する。


「邪魔臭いなぁ……」


「なんの異能だよ、それ。」


もう、互いに笑顔は崩れていた。互いを強敵と認めて真剣に戦い始める……


『否』


彼ら二人は似たもの同士である。いつでもどんな時でも笑顔で、楽しみながら、相手の調子を狂わせながら戦う。それが彼らだ。


「仲間は助けに来ないのかな?明らかに複数で戦った方が効率が良いと思うんだけど〜?」


「一対一で十分でしょ?君、僕より弱いし」


互いの間合い、一歩手前の距離を保って笑顔で睨み合う。先に動いたのは……


「一対一……ね」


レースだった。


「……んお」


レースは檜山の周りに四体、〈鏡が割れた残響〉で分身を生み出した。その分身全員がナイフを持って檜山海斗を囲む。


「さて、五対一だけど……どうする?」


五人いるレースの中の一人が檜山に訊く。


「倒す」


檜山はその一言だけ言い放って……笑うのだった










「とりあえず紗耶と黒崎を探さないと……」


俺は雨翔先輩と一緒に走っていた。目的は紗耶と黒崎の救出の為。……しかしそれ以外にも、やらなければいけないこともある。


「地下に囚われてる子どもも助けなきゃ……」


雨翔先輩の言った通り、それもやらないといけない。俺は頷いて、雨翔先輩と一緒に更に奥へと進んで行くと……


「……ありました。地下に行く為の階段」


一歩踏み出そうとすると……雨翔先輩が何故か震えていた。


「なに……これ……」


何かに怯えているのだろうか。俺は心配して雨翔先輩の手を握る。


「大丈夫ですか?」


「う、うん……!大丈夫……」


手先はひんやりと冷たくて震えていたが、俺に手を握られると雨翔先輩の震えは収まった。


「何かあれば俺も協力しますし、他のみんなも」


俺は雨翔先輩を安心させる為にそう言って、雨翔先輩と手を繋ぎながら、その階段を降りて行く







「あれ任せて良かったの?」


モンブランがアッシュに抱えられながら訊く。レースを檜山に任せた件についてだ。


「多分強いからレースくらいなら大丈夫だろう。とりあえず私達は警備室を目指さないと」


アッシュは爆速とも言える速さで研究所の中を駆け抜けて進んで行く。すると、目の前の道が壁に阻まれ、アッシュは急停止する。


「どっちだ?」


左右にドアもない、完全に行き止まりだが、アッシュは道が隠されていると確信していた。


「右」


アッシュはその答えを聞いた瞬間に右の壁を蹴り上げ破壊する。破壊した先は……


「やけに広い部屋だな」


能力練習場のような、真っ白で、体育館よりも広い部屋だった。


「……僕間違えたっけ」


モンブランは首を傾げ、アッシュはそれに驚く。


「え、間違えたのか?お前が?」


「天才とはいえ完璧人間ではないから!!」


「だが実際ドアはある…………っ!!?」


モンブランは大声で誤魔化す。アッシュがその白い部屋の先にあるドアを見つめて、モンブランをフォローしようとすると……扉の先から誰かが歩いて来る。……その誰かは、二人が知っている人物だった。








「やっと中に入れたな」


鬼頭がやれやれといった感じで、静かな研究所の中を先を進んで行く。


「比奈さん、頼む」


ゾンが走る少しスピードを落として、比奈の隣で走る。比奈はゾンの言葉を聞いて鴉を数匹、研究所の中に飛ばし、鴉と視覚を共有して辺りの状況を観察する。


「敵が急にいなくなりやがった?」


「……そうみたいですね。もしかして向こうがバレたんじゃ……」


草薙の言葉に比奈は頷いた。先程まで大量に湧いていたのだが……もうそこにいなかったかのように、パタリと消えてしまったのだ。


「……嬢ちゃん、とりあえず奥に進めそうな道を見つけられるか?」


「今のところ……二つありますね」


鬼頭に訊かれ、比奈は先に飛ばした鴉の視界を覗き、端的に答えた。ゾンは少し頭を悩ませる。二人ペアで別れるか、四人まとまって行動するか。


「……どちらか片方に進むしかないな」


ゾンはその判断を下した。赤いマフラーを巻いている男のような強敵が現れたら二人じゃ対処しきれないと考えてのことだ。だがそんな決断もむなしく、崩れることになるのだが。


「下がれ、何か来る」


先頭を走っていた鬼頭が急に止まり、片腕を広げて後ろにいる三人を制止させる


「あら、さっきぶりね。異能都市6位」


その場に居た全員が驚愕した。目の前に居たのは……異能都市3位、黒崎佳奈だったのだから。


「あなたは久しぶりね……異能都市1位。あと二人は誰かしら?」


黒崎佳奈は首を傾げ、本当に分からないと言った様子で訊く。比奈は声を震わせて、佳奈に近づこうとする


「お姉ちゃん……なんで……」


「鬼頭さん」


ゾンが比奈の腕を掴んで佳奈に近づくのを止め、鬼頭が佳奈に対して接近する。


「あら、せっかちね」


「黒セーラーの嬢ちゃん……操られてるな」


鬼頭が拳を振るが、佳奈は〈深淵〉を使うことによってその攻撃を回避する。


「戯言はそこまで」


回避した先は鬼頭とゾンの間。ゾンが攻撃を仕掛けようとするが、その時にはもう遅かった。


「なっ……!?」


草薙の驚いた声だけがそこに響いていた。何故なら……ゾンも鬼頭も、その場から消えてしまったから。そのまま佳奈は比奈に近づいて、触れようとする


「で、私に妹なんていないと思うのだけれど」


「そんな……こと……」


佳奈はゆっくりと比奈に向かって隠し持っていたナイフを突き刺そうとするが、それを遮るように草薙が前に出た。


「下がってろ、比奈。……黒崎先輩は俺がやる」


佳奈は大きく下がって草薙の方を確認すると、小さな火の粉が舞っていた。佳奈が比奈に、あのまま攻撃を仕掛けていたら……


「あなたが私に勝てるのかしら?異能都市6位」


ジロリと佳奈は草薙を睨んで、ナイフを突き付ける。草薙は不敵に笑って、髪を掻き上げた。


「勝つ。お前の目ぇ覚まさせてやるよ」

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