ハイレベル
「私の扱い酷くないですか??」
そこそこ大きな車内に、一人の少女の声が響いた。運転席に座っている大男……鬼頭重喜が、苦笑いしながら助手席にいる少女、黒崎比奈に話しかける
「すまんな嬢ちゃん、助手席にしか乗せてやることしか出来なくて」
「い、いや……大丈夫です。そこまで気にしてませんから」
まさか謝られるとは思っていなかった為、体全体で大丈夫というアピールをする。しかし、それとはまた別に、不服そう……というか、カチコチに緊張してしまっている男が一人……
「俺Sランク二人に挟まれてんだけど」
金髪でパーカーを着ている彼は草薙渡。異能都市6位という異能都市の中でもかなり上位の人間なのだが……その両隣には彼をも凌駕する男が二人いた。
「そういや、ゾン。久しぶりだな。病院の時は言いそびれたが」
草薙がカチコチに緊張していることなど、つゆほども知らない日本最強の看板を掲げている京宮新一は、異能都市最強の学生という看板を掲げているゾンに対してそう言った。
「ええ……お久しぶりです」
ゾンは端的にそう言って、瞬時に会話を終わらせようとする。現在、第一国立研究所に向かっている彼らは、真正面から戦って敵の気を引くという役割がある。だから緊張を崩さない為にも、ゾンは会話を終わらせようとしたのだが……
「リーダーとは会ったか?」
京宮は話し続ける。それが純粋に聞きたいことなのか、それともただ単に緊張をほぐそうとしているのか……真意は京宮にしか分からないが、ゾンは文句の一つも言わずに、最低限だけ答えた
「いや……前の集会からは会ってません」
「え、Sランクにリーダーなんているんですか?」
比奈はその言葉に興味を持って、振り向きながら訊く。京宮は特に嫌な顔もせず、淡々と『リーダー』について説明をする。
「いるよ。世界最強。日本最強の僕とは比べ物にならない強さだ」
「世界最強って……一体何の能力なんですか?」
勿論比奈はその言葉に驚愕し……更に疑問が深まったようだ。しかし京宮はそれに対して答えるつもりはないようで
「ん〜最強ってことだけ言っとく」
と言った。そんな時、丁度いいタイミングだったのか、車がゆっくりと止まる。
「仲良く喋ってるとこ悪いが……着いたぞ」
鬼頭のその言葉で、車に乗っている全員が第一国立研究所の真正面に降り立つ。京宮は軽く辺りを見回して、草薙の背中を叩いた。
「じゃ、草薙頼んだ!」
「えぇ……俺っすかぁ……?」
草薙はあまり乗り気ではないようで、どうやらゾンや京宮が先陣を切ってくれると思っていたようだ。その様子を見た比奈は、草薙を元気付けようと、精一杯の笑顔で言い放つ
「草薙さん!初めましてですけど、期待してます!」
「よし頑張るか」
草薙はその言葉で元気が出たのか、腕をブンブン回して、門に手をかざす。
「単純だな……」
ゾンは呆れながらそう呟いたのだが……
「おっしゃぁああああ!草薙様の登場だぜぇえええ!!」
草薙は門を〈収束爆発〉一発で破壊していく。そして、研究所に備えられた警報が作動して、辺りが騒がしくなっていくのだが……
「……草薙さんだけで良くないですか?」
草薙が次々に現れてくるロボット、能力者、全員を爆発で薙ぎ倒していく。その様子を見た草薙を元気付けた張本人が、思わずそう言ってしまう。
「爆発……いつも戦ってる相手が悪いんだろうが、能力の性質だけで言ったら本当に高いな」
京宮も敵を蹂躙していく草薙を後方で見守るが……ゾンは驚いているようだ。
「俺は初めて見ましたけど……かなり実力者なんですね、ランキングに入っている人達は」
「お前一位だけどな」
すかさず京宮がツッコミを入れる。そんな中同じく様子を見ている鬼頭が、ずかずか進んでいる草薙に協力する為に走り始める
「とりあえず進んだ方がいいだろう。草薙に続いて正面突破するぞ」
「…………」
比奈もゾンも続いて行くが、ただ京宮だけ……第一国立研究所の高い屋上を見上げていた
「雨翔が目立つな。想定外だった」
姉さんがそのような言葉を小声で放つ。確かに……雨翔先輩は現在でも変わらず、『悪』のオーラを放っている。そもそもなんて呼ぶかは分からないから雰囲気だけでオーラと言っているのだが……なんなのだろう。けど……
「慣れると気にならなくなるし、今は敵もいないし、大丈夫じゃないか?」
「そうだな、バレないように動けばいいだけだ」
姉さんは俺の言葉に同意して、そのまま明るい道を走って進んでいく。今の所敵の気配は感じられないが、警戒は怠らない方が良いだろう。
「確か、こっち側が警備室への道だったはずだけど……」
姉さんと並んで先頭を走っているモンブランが、右側にあるドアの前で止まって開けようとすると……
「……危ない!!」
「おわっ……!?アッシュお姉ちゃん……!?」
唐突に姉さんがモンブランを抱きかかえながら、前方から飛んでくるナイフを蹴り落とす。
「あと少しで殺せたんだけど、やっぱ人間じゃないだろ。アッシュ」
奥からそんなことを言いながら歩いてくる赤髪の少年が一人。
「誰だ!」
俺が吠えると、すぐに答えは返ってきた。
「僕の名前はレース。久しぶり、ゴッドチルドレン。……それとも星乃龍弥の方がいいかな?」
あの時の……京宮に殺されなかったのか!?こいつは危険だ。早く倒さないといけない!
「全員警戒しろ!!」
「遅い」
姉さんがモンブランを抱えたまま呼びかけるが、既にレースは無数のナイフを投げて、モンブランを殺そうとしていた。その瞬間だった。
「〈淵広魚大〉……『凸』」
数十もの種類の魚が俺たちの間を通って全てのナイフを弾き……レースの方へ向かっていく。
「んなっ……!?」
そして、俺たちの目の前に一人の男が立った。
「まぁ……この程度なら僕でも勝てるから。任せてくれ」
親指を立ててウィンクするその男は異能都市5位、檜山海斗。
「ふ〜ん……もしかして舐められてる感じ?」
しかし、レースも負けてはいない。もう何十匹もいた魚が全て塵と化している。
「お、やるねぇ」
二人の視線が交錯する。その間に姉さんは目線で俺たちに『今のうちに行け』と伝えて、警備室の方への道へ向かった。俺は雨翔先輩を連れて、左側にあるドアを開けて進んで行く
「無限に湧いてくるなぁっ!!」
草薙が目の前に溢れてくる敵を片っ端から爆破させながら叫んだ。いくら倒してもキリがないというくらいまで。そんな大変な時に京宮は……
「みんな、僕ちょっとお呼ばれされちゃったから行ってくる」
京宮はそのまま地面を蹴って飛んだ。
「えぇ!?」
勿論、その場にいた全員は驚くが……
「鬼頭、ゾン、黒崎妹。草薙のカバー頼んだ!」
そんなものはお構いなしに京宮はその場から離れてしまうのだった。しかしそれには理由がある
「さて……お前とはあんまり会いたくなかったんだけど?」
第一国立研究所の屋上で、もうそろそろ夏だと言うのに冷たい夜の風が吹いている中、京宮は赤い瞳で一人の男を睨みつけていた。その男は毎度の如く赤いマフラーを身につけていて……怪しい笑みを浮かべながら京宮に言葉を返した。
「ワイは決着つけたかったんやけど、嫌か?」
鉈包丁のような剣を両手に持ち、構える。それを見た京宮は腰から円形のナイフを指で回しながら取り出した
「俺も本気で殺るから、お前も本気出せよ」
「しゃあなしやな〜」
互いに準備は万端である。そして両者共に一歩踏み出して……この世界トップクラスの戦いが始まるのだった。
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