共同戦線
「後3分で終わりだったね」
車にみんなで乗りながら、モンブランがからかうように言った。現在は丁度22時。作戦はその3分の間に告げられた。しかしそれよりもツッコミたいことが……
「モンブラン……お前が運転するのか!?」
モンブランがなんと運転席に乗っているのだ。いやいや駄目だろ。子どもは運転出来ないだろ。しかもなんで姉さんはツッコまないんだ?
「え?やっぱダメ?」
「ダメに決まってるだろ!?」
全力でモンブランの行動を否定する。というか、やっぱってことは多少自覚があったってことじゃないか。モンブランはわざとらしく舌打ちして、姉さんと運転を変わり、パソコンを弄り始める
「ちぇ、久々に運転出来ると思ったのに。アッシュお姉ちゃん」
「はいはい」
そして、姉さんは車のアクセルを踏んで……進み出した。この車の中には雨翔先輩、モンブラン、姉さん、それと……檜山と俺がいる。深夜になりかけているのにも関わらず、明かりで照らされている1区は闇に抗おうとする一筋の希望のようにも見えた。
……そんなことを思いふけっていると、唐突に緊張感のない言葉が檜山から浴びせられる
「星乃は女装しないの?」
「……なんでその話を今ここでするんだよ」
こんな状況でその話をするのは正直言って頭がおかしいと言わざるを得ないのだが……。いや、もしかしたら緊張をほぐそうと思って言ったのだろうか。……それならもうちょっとマシな話題を出してほしいものだが……
「いやぁ、ちょっと気になっちゃって」
「実は……僕も割と好きだったり……」
……思いもよらぬ伏兵がいた。
「雨翔先輩まで……」
そんな話をしていると、運転席の方からいつもより低くなった姉さんの声が聞こえる
「緊張感ないなお前ら。死ぬかもしれないんだぞ」
「…………」
その声を聞いた後部座席の俺含め三人は黙り込んでしまう。しかし、その様子が可笑しかったのか姉さんはその状況を笑い飛ばした
「ふふっ、それは緊張しすぎだよ。私は誰一人死なせるつもりはない。ただ、今回の作戦を気楽に捉えないでほしいってだけだ」
「塩梅が難しいね」
檜山がやれやれといった感じで首を振る。とりあえず、雰囲気は良い感じに戻ったな。……けどやっぱり、妹に会うとなるとソワソワしてしまうが……
「そういえば、流石に比奈ちゃんはこっちの車の方が良かったんじゃない……?」
雨翔先輩が少し心配そうな表情を見せた。確か比奈は……
「ゾン、新一、鬼頭、草薙……良心が鬼頭くらいしかいないな」
姉さんが、別の車に乗っている比奈以外の四人の名前を並べる。良心が鬼頭しかいないという点について少し違和感を抱いた。
「ゾンは良心の中に入らないのか……」
「あいつは優しいが、無愛想だし」
無愛想……無愛想というよりなんなら少し怖い雰囲気はあるな。この前の王義学園の登校とか……小野田のこと脅してたし。
「向こうの様子が見ものだ。はは」
檜山はわざとらしい乾いた笑みを見せる
「笑えないわ!」
そんなこんなで話していると、右端の窓から明るく光っている街の中心部分が見えた。それはかなり巨大な建物で、作戦で聞いた話だと、中に入ったら簡単には出られないくらい複雑な構造をしているらしい。
「……見えた……あれが……」
雨翔先輩も右端の窓の先を見つめる。雨翔先輩は右端にいるので、どちらかというと俺よりも雨翔先輩の方が先に気づいたのだろうが……檜山は反応すらしないのか……
「そう、あれが第一国立研究所で間違いないよ」
姉さんがはっきりと言い切った。
「あそこに……紗耶と黒崎が」
俺は拳を握りしめ、覚悟を決める。絶対に紗耶と黒崎を救い出して…………岩瀬努を殺す
「さて、作戦は説明した通りだ」
「僕らは向こうが真正面で暴れてる隙に裏からまわる……でしたよね」
檜山が確認する為に簡単に作戦を告げる。アッシュはそれに頷いて少しだけ補足を入れ、国立研究所の一番警備が薄い所で車を止めた。
「あぁ、その通りだ。そこからモンブランを警備室に連れて行き、そこからハッキングする」
「みんな準備して、行くよ」
モンブランがそう言って助手席から降りるのに続いて、俺たちも降りる。……だが、目の前にあったのは……
「これ……壁じゃ……?」
雨翔先輩が首を傾げる。目の前にあったのは5m以上の塀だ。これを乗り越えるとでも言うのだろうか。……いや出来るか。有刺鉄線が張られているが、基本的に能力者の身体能力は異常だし……姉さんに関しては化け物の次元だし。
「壊すに決まってるだろ」
俺がそうやって考えていると、雨翔先輩の疑問の答えに、姉さんがまるでそれが当たり前かのように返した
「え?いやいや……姉さん、それは流石に……っ!!?」
姉さんが拳を突き出すと、デカい音を立てて塀を破壊した。勿論みんな……モンブランを除いてだが、驚愕してしまう。マジで壊しやがったし……これって相当頑丈な金属で作られていそうなんだが……。
「なんか言ったか?向こうももう始まってるみたいだし、行くぞ」
姉さんを先頭に研究所の方へ進んで行く。そういえば、大きな音を立てたはずなのにこちらに人が一人も来ないし気配も感じない。よく耳を澄ませてみると、連続して爆発音が聞こえる。……草薙か。
「行くしかないか……」
俺は小さく呟いて、最後尾としてついて進むのだった
第一国立研究所最上階
「まさか……私の子どもが全員ここに来るなんてね。どう思う?『非現実』リーダー、災虎。」
ホテルのような部屋で、白く長い絹のような髪を持っている美しい女性が、第一国立研究所に侵入する星乃龍弥達を覗く。そして、背後にいる赤い髪の少女に尋ねた
「どう思う……ですか。別に私達のすることは変わらないですよ」
災虎と呼ばれたその少女は無表情で、その問いに対して答える。白い髪の女性は口角を上げながら振り返り、ふかふかのソファに座り込んだ。
「都市異変、あの子達に止められるかしら……楽しみね」
「……それで、これからのご予定は?」
変わらず無表情な少女は問い返す。白い髪の女性はゆっくりソファに横たわりながら、少女に命令した。
「私は少しやることがあるから、災虎は先に上層部へ帰ってて良いわ」
「はっ」
少女がその場から消え、一人だけになった部屋で白い髪の女性は小さな、小さな声で呟いた。
「精々楽に死んで欲しいものね。あの子達には……」
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