収束
「その方法は!?」
俺の頭の中に衝撃と焦りが入り混じる。雨翔先輩は俺に抱きかかえられたまま説明を始めた。
「僕の異能〈枯れて落ちろ〉を使う……」
「ウィザー……ドロップ。確か力を吸収する異能でしたっけ」
俺は雨翔先輩が異能都市7位の小野田輝樹と戦っていた場面を思い出す。確かあの時は雨翔先輩が最初から小野田を……能力練習場の連中、俺含めて騙されてたっけ。京宮は勝つと言っていたが……
「……まぁ、大体そんな感じ……」
何か少し言いたげな様子で雨翔先輩が俺の言葉を肯定するのだが……
「カチ……タイ……」
「あっぶねぇ!!」
草薙が3連続で俺の付近を大爆発させる。ある程度場所の予測は出来ていたが、爆発までが早すぎる……!身体も少し焦がされたか……雨翔先輩の異能について詳しく訊く時間はなさそうだ。
「どうしようか……降ろせないよね……」
雨翔先輩が少し顔を赤くしている
「なんか満更でもなさそうですね」
「そっ……そんなことないよ……?」
表情が豊かなせいで分かりやすい……今は気にしないで話を進めるか。そう考えて俺は雨翔先輩に作戦を伝える。作戦とはいえ、単純なものだが。
「とりあえず、俺がどうにかして草薙の動きを止めます」
「分かった、その間に僕は草薙君に触れないとね……」
俺はその言葉に疑問が生まれた
「……この前、触れずにやってませんでしたか?」
確か小野田と戦った時は見えない斬撃を触れずに掻き消していたような気がするのだが。
「あれはそこまで巨大なエネルギーがあるわけじゃないから。実際、小野田君には触れないと異能を封じることは出来なかったしね……」
「なるほど……っと!慣れてきた。やっぱり異能を使うやつは目線さえ分かれば……」
俺は草薙の爆発攻撃をさっきよりも危なげなく回避する。……小野田もそうだったが、物質を扱う異能を持つ人間は使う場所に視線を送る。それさえ分かれば避けるのは容易い
「Aランクでも出来る人少ないんじゃない……?そんなこと出来るの……」
「やろうと思えば誰でも出来ますよ」
俺は適当にそう言って、周りを不規則にグルグルと走りながら、草薙に対してジリジリと距離を詰める
「俺が合図するので、その瞬間に降りてください」
「分かった……!!」
俺の言葉に雨翔先輩は頷いて、いつでも降りられるように準備をする
「3」
また小さな火の粉が俺の周りに集まるが、一瞬で距離をとってそれを回避して……
「2」
少し草薙との距離が離されてしまったが、想定内。そのまま草薙に一気に距離を詰め、カウトダウンを進める
「1」
草薙が真正面に俺たちの方を向く。その瞬間俺は左にカーブして……雨翔先輩が右に飛び出ることが出来るようにした。これで完璧だ
「0!」
雨翔先輩が右に向かって飛び出す。草薙の視線は左に向かった俺の方を向いている。……やっぱりな。俺に勝ちたいから……自然と俺の方へ集中する訳か
「草薙、歯を食いしばれ!!」
更に俺は草薙の方へ走って拳に〈波動〉を纏う。そして大きく振りかぶって……
「……ほし……っ!?」
思いっきりぶん殴った。本気でぶん殴った。草薙はそのまま雨翔先輩の方へぶっ飛ばされる
「雨翔先輩!」
「うん……!」
雨翔先輩は草薙を背中から受け止め……異能を使う。
「星……乃……!」
草薙は雨翔先輩に捕まえられていてもお構いなしで、俺の方を向いてもがく。……攻撃を続けろと、俺の本能が何故かそう叫んだ。
「……雨翔先輩はそのまま掴んでいてください」
「!!」
草薙の顔面を〈波動〉を纏った脚で蹴った……そして、理解してしまった。
「……っ……!?」
草薙から力を吸収しているであろう雨翔先輩が驚いた顔をする。やっぱりそういうことか、と俺は納得すると同時にとんでもなく心の中では焦っていた。
「ホシ…ニ……勝つ……!!」
……力が増幅している!!
「……ちっ……!」
俺は思わず舌打ちをしてしまう。草薙を気絶させるのは無理だ。こいつはタフすぎる。……どうすればいいんだ!!?
「『バーンドレイク』」
「雨翔先輩!離れてください!!」
部屋の温度が急激にあがる。すぐに異能の大技だということが分かったので、俺は雨翔先輩に警告する。このままだと二人ともやられてしまう
「すみません」
「うっ……星乃君……!?」
俺は草薙を離した雨翔先輩を更に突き飛ばし……そのまま草薙の両腕を掴んで抑える。俺の異常体質があれば……暴走状態でも多少異能の力が緩和されるはずと考えてのことだ
「……どんだけ勝ちたいんだよ……!」
部屋は更に暑くなる。これ以上抑えることも出来ない……!!
「間に合ったな」
「京宮!?」
京宮が俺の背後からいつの間にか現れて、草薙の頭を掴んだ。
「きょう…や……せい」
草薙はうわ言のように呟いて、反応したのか京宮が何かしたのか、部屋の暑さが少し収まる。京宮は俺の方を一瞥して訊いてきた。
「暴走を止めればいいんだよな」
「……ああ!!」
俺はその言葉に大きく頷いて、草薙を掴む力を強くする。
「そのまま抑えろ星乃。……〈負電荷超越〉」
京宮の赤い眼が光って……草薙は呻き声をあげた。
「……僕も……!」
雨翔先輩もこちらに近づいて来て、俺が掴んでいる草薙の片腕に触れる。
「……あ……が……」
3人に身体を掴まれた草薙は気絶して……部屋の温度が下がっていった
「勝った……のか」
俺は力が抜けて地面にへたり込んだ。雨翔先輩も俺と同じようにゆっくりと座り込む。京宮は草薙を地面に寝かせて、脈を測ろうとしたのか首に触れる
「あぁ、脈も呼吸も安定してるし、エネルギーも抑えられた」
「……そうだ、なんでお前ここに居るんだよ」
俺は思い出したかのように京宮に訊いた。もうこの時間なら教師は帰っているはずだ。学園は確か夜8時まで空いているからたまたま帰ってなかったという可能性もあるかもしれないが……教師は能力練習場に授業以外で手を出さないと思っていた
「勘。二人が危ない目に遭う気がした」
「……はぁ……?」
勘と言われたら勘で納得するしかないのだが……気にしないことにしておくか。どうせみんな助かったんだし。
「ま、いいじゃない。みんな助かったんだし」
……同じこと考えてやがったな
「草薙はどうする?」
話を変えようと、俺はもう一つの気になったことを訊く。多分病院にでも連れて行くんだろうが
「草薙君のお姉さんには僕が連絡するから、君らは先にアッシュ達の家に向かうといいよ」
さらっと衝撃……ってほどでもないかもしれないが、割と意外な事実が京宮の口から告げられた。
「草薙に姉なんているのか」
「いるよ」
「まぁ、分かった。……ありがとう」
俺は立ち上がりながら京宮に感謝を伝えた。……流石にあのままでは二人揃って焼き殺される可能性もあったからな。京宮は嬉しそうにニヤニヤしてウザい顔をする
「やっと仲直りする気に……」
「それはない。行きましょう、雨翔先輩」
京宮の言葉をスパッと遮って、俺は雨翔先輩に手を差し伸べる。雨翔先輩は小さく頷いて、差し伸べた手を華奢な手で掴んで立ち上がった。
「つれないなぁ……全く」
俺はその言葉を背に受けながら雨翔先輩と一緒に能力練習場から出ていった。
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