最悪の男
「……人……?」
小野田に貫かれた腹を抑えながら、前を向いて歩き出そうとした時、学園長の部屋に誰かが入ったような影が見えた。俺は少し気になって、気配を消して耳を澄ませる。
「何をしにきたんだ?今日は何も聞いてないが……」
学園長の声が聞こえる。相手は誰だ?迂闊に確認出来ないから誰なのかが分からない。さっき見た影の大きさから女ではなさそうだが……
「じゃあな」
低い男の声と同時に乾いた銃声が鳴った。学園長は言葉一つも発さないで倒された……のか。悲鳴一つも聞こえなかった。……何が起きているんだ
「ったく……尻拭いさせやがって……」
ため息を吐きながら、そんな言葉を放ってその男は学園長の部屋から出てくる。俺はその男の姿を目に焼き付けた。黒い髪に眼鏡、40〜50代ぐらいの男だ。身長もかなり高い
「……お前!」
俺に気づいていないのか、そのまま帰ろうとする男に吠える。男は振り向いて俺のことを鋭く細めた目で睨む。……こいつ……殺人鬼か?何をしたらそこまで異常なオーラを発せられる?
「あ?なんで俺が見えてる?小娘……ってか腹大丈夫なのか」
確かに今さっき小野田にやられたが……なんで人を殺した後にそんな平然と人の心配が出来るんだ?……というか、俺を女と勘違いしてるな。そこまで気にすることではないが
「そんなの今関係ない。お前今学園長に……」
「あぁ、殺した。何か問題あったか?」
平然としているその男に俺は絶句して驚いてしまう
「もっ……問題しかないだろ!お前は一体……!」
「小娘に教えてやる名前なんぞない。……偶々俺の能力が外れただけなのか、まぁいい」
男はそのまま去ろうと俺に背を向ける。止めないといけない。このままこいつを逃してはいけない……そんな気がした
「……ゴッドチルドレン」
俺は自分がそう呼ばれていたことを思い出した。この男が知っているかどうかは分からないが……
「……なんでその言葉を小娘が知っている」
男が振り返って、もう一度俺のことを睨む。……知っていたようだ。俺はその男を睨み返す
「俺が、星乃龍弥だからだ。お前は……誰だ」
「……ぷっ……ハハハハハ!!なるほどな!俺の居場所を探ろうとしたって訳か!!」
居場所を探す……?俺が今探してるのは……
「いや……まさかお前」
「あぁ、俺は岩瀬努だ」
狂気的な笑みを浮かべている男が……岩瀬努……紗耶を攫った男!!俺はそれを理解した瞬間、その男に殴りかかる
「……っ!紗耶を返せ!!」
「おっと、危ない」
ひらりと、カーテンのように岩瀬は俺の攻撃を避ける。避けながら俺の両腕を掴んで、壁に押し付けた。……しまった。さっき小野田と戦って、腹も貫かれている状態じゃ……力も速さもかなり弱くなってる。
「くっ……!!」
「あの失敗作と似た表情をするな……久々に唆るものがある」
俺が必死になって抜け出そうとしているのを嘲笑って、岩瀬は俺に顔を近付ける。吐かれた息はタバコ臭い……ただ、それよりも気になることがあった。
「……失敗作……?」
「雨翔心、お前は知ってるよな。確か親しい仲と聞いていたが……」
雨翔先輩が……失敗作?そういえば、甲斐もそんなことを言っていたような……。
『僕はね、とある人のクローンだったんだ……』
俺はその言葉を思い出した。そしてこいつは……残虐非道の研究者。まさか……
「まさかお前が雨翔先輩の実験を……!?」
「そうだ。あの表情は愉快だったなぁ……自分のオリジナル、実験体の全てを殺して……最高に絶望していたあの顔……」
ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら岩瀬は俺を煽るように言葉を放つ。俺は激しい怒りに駆られ、空いている足で攻撃しようとするが、それを読んでいたのか踏まれて抑え込まれる
「いっ……クソ野郎……!!」
俺は自分の無力さに歯軋りしてしまう。しかし、岩瀬は容赦なく俺の腹に膝蹴りを入れて……衝撃の事実を伝えた
「ちなみにお前の妹も人を殺してる。俺が実験する前から……ゾン達に唆されてな」
「……ゲホっ……ゴホッ……なん……だと」
俺は痛みと衝撃の事実を突きつけられて頭が回らない。脳みそを掻き回されてるかのように
「どうする?星乃龍弥ぁ」
「うっ……くっ……」
また必死に抵抗するのだが……全然抜け出せない。……落ち着け、俺。落ち着かないと能力は使えない……!!
「非力だなぁ……そんなんで妹を守れるのか?」
「〈波動〉……!!」
俺はその異能を発動させた。岩瀬は俺から弾かれたように少しのけぞって、掴んでいる手も離す。俺は異能に体力を持っていかれて地面に倒れ込んでしまう
「おっと……なるほど、力の流れを操る能力か。」
「うっ……お前……には……紗耶も黒崎も返して貰うぞ……絶対……」
立ちあがろうと手を地面につくのだが……力が入らない。腹から血がドクドクと流れていくのが分かる。……ダメかもしれない。
「一人で何も出来ない奴が何を言っているんだか」
「一人で……何も出来ないから……みんなと協力するんだ」
俺は立ち上がれなくても、岩瀬の顔を見上げる。見上げて、目を細めてしっかりと睨む。……一瞬だけ、岩瀬がたじろいだ気がした。
「……物語の主人公にでもなったつもりか?弱い人間が集まっても弱いままなんだよ」
「俺の仲間を悪く言うのは許さねぇ。絶対に後悔させてやる」
そこまで俺が言うと、岩瀬を銃を取り出して俺の頭に突きつける。だが、俺は怯まずにただ岩瀬を睨んでいた。
「ははっ……まぁいい。結局お前も必要になるんだ。ゴッドチルドレン。連れて帰って実験してやるよ。自分が誰かも分からなくなるくらいにな」
岩瀬が頭から少しズラして、銃の引き金を引こうとした……その瞬間
「そんなことさせると思うのか、私の弟に」
窓ガラスを割って……灰色髪の女が突入して来た。
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