〈淵広魚大〉
「ここなら誰にもバレないよ」
「そうみたいだな……」
入ったのは薄暗い空間だ。声が反響するので、恐らく室内だと思うんだが……道が分からないせいで、ここが何処なのか詳しくは分からない。ただバレなさそうな位置ではあるので俺は檜山の言葉に同意する
「で、変な噂について聞きたいの?」
檜山がこちらの方を向いて訊く。薄暗くて表情はよく見えないが、声のトーンは先程から特に変わってはいない。俺は檜山に対して、お願いする
「そうだ、とりあえず概要を全部教えてほしい」
「まぁ良いんだけど……なんで?」
俺は言葉に詰まる。何故ならそこまで考えていなかったから。……ゾン達に頼まれて潜入しているだなんて、信用出来る奴にしか口が裂けても言えないしな。
「え……そっ、それは…………う、噂話が好きだから……」
なんとか言葉を搾り出して、どもりながらもそう言った。すると……檜山からとんでもない言葉が飛んでくる。
「じゃ、僕がその噂話の犯人だったらどうする?」
「なっ……お前が……!?」
俺は檜山の言葉に大きく反応してしまう。学生がやっているという線もないことはないのだが……檜山がそうには見えなかったからこそ俺は驚いてしまう……驚いてしまったのだ
「知ってるんだ。その噂話に犯人がいるってこと」
部屋が明るくなる。そして俺は現在いる場所がどんな場所か知らされることになった。……能力練習場!前とは少し違う場所だから気づかなかった……こいつ、まさか最初から俺のことを怪しんで……
「しまっ……!!」
拳が真っ直ぐ前から飛んでくる。ギリギリ反射で防いだのだが、目の前に檜山は居なかった
「〈淵広魚大〉」
後ろからその声が聞こえて振り返る。その視線の先には宙に浮いている……いや、宙を泳いでいる魚が檜山の周りで螺旋を描いていた。
「魚……!?」
能力…式神に近いものだろうか、だがそれは俺に取って相性が悪いはず……なんなら檜山は俺が能力を無効化出来ることを知らないだろう。
「『凸』」
檜山がそう言うと、宙を泳いでいる魚がこちらに向かってくる。……ここで異常体質を持っていることがバレたらもっと面倒なことになるかもしれない
「ちっ……」
とんでもないスピードで迫ってくる魚を走って避けながら舌打ちをする。接近をすることは可能だ。だが……どうすればいい。近づいても常に気を張っていないと接近戦でもやられる気がする
「久々に自分から戦いを仕掛けたよ。鈴子さん、負けた方が知ってることを全て話そうか」
そう言いながら、檜山は俺に接近して……俺の頭に蹴りを入れようとする。右足から放たれたので俺は左腕でガードする。……蹴りに関しては京宮で慣れてるから、この程度は余裕だ。甲斐は例外として……
「負けても文句なしだぞ……!」
檜山は蹴りが防がれたので次の行動をしようと動き出すが、俺はそれ以前にもう動いている。戦闘の経験ならそれなりにやってきたから、ただ力を振り回すだけの素人とは違う。檜山の胸ぐらを掴んで押し倒した
「良いよ。僕は強くはないけど……負けるつもりはないからね」
檜山は押し倒されてもこれといって焦ってなどおらず、余裕そうに笑っていた。……何か来る!
「くっ……これで強くないとか……大嘘だろ!!」
上から大量にマグロが降って来ていた。異常体質で無効化は出来るが……面倒なことを回避する為にはマグロを避けないといけない。
俺は檜山から離れて、マグロが消えた後にUターンで戻り〈波動〉を纏った拳を檜山の顔面に入れた
「うおっ……」
流石にこの一撃は重いはずだ。コンクリートの壁に穴を開ける程度にはとんでもない威力なのだから……だが、強い能力者はコンクリート程柔らかくもない
「こんなんじゃ終わんねぇだろ!異能都市5位!!」
俺がそう叫ぶと、檜山は何もなかったかのように後ろに下がってさっきと同じように魚を螺旋状に纏う。
「『凹』」
……さっきよりも、魚の数が多くなって檜山の姿が見えない。完全防御って訳か。そんなことを考えていると、また上から大量の魚が落ちてくる。
「ちっ、逃げるなよ……」
俺はそれを避けながら言葉を吐き捨てて攻め方を模索する。どうすれば、あいつに決定打を与えられる?
「逃げてないさ」
「な……っ!?」
檜山の声がすぐ側で聞こえる。それと同時に強い衝撃が俺の腹に伝わる。……完全に油断していた、あの完全防御はブラフだったのか!
「騙されるよね。じゃ……どデカいの『凸』するか」
なんだこの感覚……何か大きいものが迫って来ている気が……
「ダイオウイカ」
「……上!!」
自分に大きな影がかかっているのに気づいて、上を見ると……ダイオウイカが降って来ていた。いや、ダイオウイカって……20mもあるのか!?このままじゃ避けられない、しょうがないか……
「流石に生きてる……かな?」
「油断、禁物だぜ」
「!?」
俺が押し潰されたのだと思うだろう。……俺が異常体質なんて持っていなければ確かにあれで勝ってた。というか、持ってなかったら勝てないってレベルだ。でも俺は持っているから……
「がっ……!?」
流石に檜山も顔を歪めた。今度は腹のど真ん中に〈波動〉を纏った拳を放ったのだから。直に内蔵に衝撃が加わるはずだ。檜山は腹を抑えながらも足を動かして俺からかなり距離を取る。
「……ま、良いや。能力が効かないらしいけど……これはどうかな?」
檜山はすぐに歪んだ顔を元に戻して、右手を前に突き出した。……何かするのか?
「『パシフィックパニック』」
檜山が小さな声で呟いたが、俺には聞こえていた。『パシフィックパニック』……太平洋の混乱??とりあえず身構えていると、異変に気づく
「下か、でも俺には……っ!?」
下に渦が発生している。俺は能力が効かないと思っていたのだが……何故か渦の感覚がしっかりと足に伝わっていた。まさか……異常体質が機能してない……!?
「これは喰らうんだね。とりあえず飲み込まれなよ、どデカいシャークに」
「嘘だろっ……!?」
俺は強い衝撃を地面から受けて打ち上げられてしまう。思わず目を瞑って……次にしたを見てみると、メガロドンかってぐらい巨大なサメが口を開けて待っていた……
どうも皆さん、わがまくです
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