星乃龍弥の恥辱
「あ……!星乃君の……!」
雨翔先輩が何かを言おうとした瞬間、その灰色髪の女は雨翔先輩の口を右手で塞ぐ。待て、動きが全く見えなかった。いつの間にかモンブランの隣から雨翔先輩の目の前に立っていたのだから。
「静かに……それを話すのは後にしたいんだ」
「ん……んん……」
灰色髪の女が言うと、雨翔先輩は小さく2回頷いた。すると灰色髪の女は雨翔先輩の口を塞ぐのをやめて、明るい表情で自己紹介を始める
「自己紹介が遅れたね。私の名前はアッシュ。ゾンの師匠と言ったところだな」
……ゾンの師匠?異能都市1位の師匠っていうのか……まぁ明らかに今まで見てきた中で一番強い人だしあり得るか。とりあえず、今必要なことを訊かなければ
「別々になって説明って、どういうことだ?」
「そのままの意味で捉えてくれて構わない。上層部に繋がっている奴を見つける為の潜入と言っても、それぞれ役割が違うからな」
……まぁ、確かに雨翔先輩は元推薦枠として探すらしいし……役割が違うのは当たり前か。そう思った瞬間に俺は僅かな浮遊感を感じる。それは決して幻とか能力なんかじゃなく……
「じゃ、私が二人他の所に連れてくから」
「きゃっ……!?」
「マジかよ……」
純粋なアッシュの腕力で俺と比奈が椅子ごと持ち上げられていた。……いやおかしいって。てかこれ出入り口のドアから出られるのか?
「じゃ、モンブランそっちは頼んだよ」
「あいあいさー!」
アッシュの言葉にモンブランは笑顔で応じる。雨翔先輩はモンブランと話すのか……一体どんなやり方で情報を取りに行くのか知りたいが……
「星乃君……!また、後で……!」
……まぁ、また後で会えそうだし。その時に訊けばいいか。
「はい、また後で会いましょう」
俺がそう答えて、雨翔先輩は笑顔を見せる。……思わず顔を背けたくなるくらいの
「恋人か?龍弥」
アッシュが俺に急にそんなことを訊いてくる。
「ちがっ……え?」
俺がはっきりと答える前に、アッシュは出入り口のドアを蹴破って俺と比奈を持ち上げてても出れるようにしながら。ドアはもちろん綺麗にぶっ飛んで、向かいの部屋のドアごと破壊した
廃墟のドアだから脆いってのもあるかもしれないけどなんでそんな冷静に……って比奈が気絶してる……いや確かに常人にとってはとんでもないことをしているから刺激が強いかもしれない
「恋人かどうかは後でもいいか。黒崎比奈はゾン、龍弥は私と各自話す。分かったな?」
「まぁ……分かったが……」
比奈が色々巻き込まれて可哀想なのだが……アッシュは気づいてなさそうだし、どうせ後で起きるだろうからいいか。
「ならよしっ」
アッシュは明るくそう言って、廃墟の奥へと進んでいく
アッシュと二人きりになった。比奈は進んでいる最中に起きてゾンが後でくるらしい部屋に放り込まれてたが……扱いが良いのか悪いのか分からん。まぁ拘束はされたままだから悪い方なのか……?ただそれよりも……訊きたいことがあった
「なぁ、あんたは俺のなんなんだ?」
「ん?どういうことだ?」
アッシュはよく分かっていないのか、とぼけているのか、そんな風に俺に聞き返す。そんなアッシュに俺は言い放つ。
「俺は初対面だと思ってるんだが……初めて会った気がしない」
「そうか?私は初対面だが……」
……嘘をついているか全く分からん……。見たところ俺のことを思い出そうと考え込む素ぶりも見せないし……とはいえ、あっさり初対面と言い退けるし……
「じゃ、なんで下の名前呼びなんだよ」
「癖なんだよ。そんな気になるのか?」
「まぁ……」
……もし本当にそうだったら申し訳ないし、初対面じゃなかったら嘘を吐くのが上手すぎる。でも俺自体も初めて会った気がしないだけで、アッシュという女を見たことも聞いたこともないのだが……
「ま、そんな話は置いておいて……とりあえず!女装の経験はあるか?」
俺が考えている間にそう言われて俺は思考が見事にフリーズした
「は?」
数十秒固まった後に俺はやっと頭が働いて、全力で否定する
「なっ!なんで女装なんだよ!?絶対やだ、死んでもやだ!!」
ちなみに本当に嫌である。というかそういうものに興味がない人間は絶対に嫌だろう。苦虫を噛み潰して飲み込むよりも、地獄の釜で茹でられるよりもマジで嫌だ。絶対に似合わないし見たくもない!!
「まぁまぁそう言うなって。龍弥は王義学園に顔バレてるじゃないか」
「いや普通変装とか、わざわざ女装する必要ないだろ!?」
それを言うとアッシュは図星を疲れたのか数秒黙ったが、開き直ってとんでもないことを言い出した。
「……ちっ、勘の良い奴め。でももう女として偽造の学生証作ってあるから、もう遅い!」
「なんでそんな面倒いことの手が早く回るんだよ!変態が!!」
普通そんな簡単に出来るものじゃないだろ、偽の身分証とか。どれだけ女装させたいんだよ。というか、そもそもそこまで計画されてたのかよ。とんでもねぇなおい。
「いやいや、決して私の趣味とかではないが、女装はさせてやるからな!」
するとアッシュは化粧用具を持ってジリジリと拘束されたままの俺に近づいてくる
「やっ、マジでやるのかよ!!ちょっ、まっ」
「……マジかよ」
……最悪のパターンを引いた。アッシュのメイクが上手すぎるという最悪のパターン。俺はアッシュに鏡を突きつけられて絶望のドン底にいた。
「目付きもうちょいなんとかならないか?女装は完璧なんだけどなぁ」
分かってることをいちいち言うなとツッコミたかったが、流石に黙っておこう。というより絶望感で黙ることしかできなかった。俺は絞り出すような声でアッシュに言った
「これ以上はなんか……やめてくれ……女装はするから……」
「可愛いだろ?」
「ドヤ顔で可愛いって言うな!!」
誰のせいだと思ってるんだ。マジで。というかこの姿を雨翔先輩とか比奈に見られたら……恥ずか死してしまう。確実に。誰?とか言われたらもう終わりだ。死ぬしかない
「紗耶も美形だからな……やっぱり龍弥は形になるね」
紗耶が美形なのは周知の事実だが俺は違くない?無限にツッコミが出てくるが……それよりも……
「この潜入終わったらマジで本当に一発殴らせろ」
「女装またさせてくれるならいいよ」
「懲りないのかよ!!」
俺の心からの叫びは虚しく廃墟の中に響いて……そして休日が終わった後、本当に王義学園に潜入することになってしまうのだった……
どうも皆さん、わがまくです
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