紗耶編 人殺し
「そっちは大丈夫そうか?スタード」
耳につけた通信機からゾンさんの声がし、その声に私は答える
「はい、問題ありません」
私が自分のコードネームを決めた数日後……現在、非人道的な研究をしている研究所を攻めている。私は研究所の入り口近くの大きな部屋で、ゾンさんが解放した子ども達を守っていた
今は5人ほど子どもが解放されていて……この研究所にはあと5人、子ども達が囚われているらしい。ふと思ったのだけれど、なんで子どもをここまで集められるんだろう。……でも深く考えない方がいいかもしれない
「お姉ちゃん、みんな……助かる?」
私の寄り添っていた10歳くらいの女の子が弱々しい声で私に訊いてくる。私はその女の子を優しく撫でて言った
「うん、絶対助かるよ」
私がそのように言った瞬間研究所の奥の方から女の人の声が聞こえる
「ん?あれ〜?ゾン君ってこっちじゃなかったっけ〜?」
その呑気な声の主は研究所の奥へと進む扉を開く。その女の人は黒髪のポニーテールに黒いスーツを身に纏っていた。目は……ドス黒かった
「……!!みんな!下がって!」
私はすぐに子ども達に入り口の方へ避難するように促す。子ども達は悲鳴をあげながら逃げて行って……部屋の中に女の人と、私だけが残る
「あれあれ?でもゾン君の味方発見〜ついでに逃げちゃったけど実験体も〜」
その女の人は呑気な声で私を指差して、気味の悪い笑みを見せた
「敵……だよね」
私は小さな声で呟いて、自分の異能〈絶凍〉の準備を始める
「全員生け捕りの方がいいのかな〜まぁ、手加減難しいから殺しちゃっても許してねっ!!」
女の人は到底人間とは思えない速さで私に接近してくる……身体能力強化の類だろうか。けれども……射程範囲内だ
「……〈絶凍〉」
「んなっ……!?」
女の人は驚く。その反応は正しい。だって、一瞬で下半身が凍りついたのだから。さて、動きを止めた。このまま……終わらせる
「大見得きっといて負けるのは嫌ですから……氷漬けにするくらいいいですよね」
私は冷酷に言い放った。しかし女の人はどんどん凍りついていく身体に特に焦る様子もなく、私に向かって訊く
「……君名前は〜?」
「スタード」
私は端的に問いに対して答えると、女の人は鼻で笑って……
「ふふっ、そうか〜」
「……嘘……!?」
下半身を氷漬けにしている氷を……いとも容易く壊した。そんな簡単に壊せる代物ではない筈なのに。思わず驚いてしまったのが顔に出てしまう
「私の名前はイフュート。精々楽しませてね、スタード」
悪魔のように……イフュートは笑った
「後は助けるだけか……」
大体の敵は壊滅させた筈だから、子ども達を後5人解放すればいいだけだ。そう考えて、研究所の奥へと歩を進めるのだが……
『ゾン兄ちゃん!』
耳につけている通信機から、今この研究所をハッキングしているであろうモンブランの声がする。俺は端的に「どうした」と訊いた
『スタードさんがAクラスの危険人物と対峙してる、すぐに向かって!』
「場所は入り口方面だよな、すぐに向かう」
それを聞いた俺は心の中で待っている子ども達に謝罪して、すぐに紗耶……スタードの方へ向かう為走り始める
「……っ!」
スタードの頬にナイフの刃が掠める。イフュートの連撃が、スタードを襲っていた。イフュートは余裕そうにヘラヘラと笑いながら、右手に持っているナイフでスタードに対して決定打を放とうとしている
「防戦一方だね〜スタード?」
イフュートは煽るようにスタードに言う。実際それは事実であり、紗耶はなんとか氷を空中に生成、身体に纏いながら連撃から身を守っていた。しかしそれだけで反撃は全く出来ていない
「………」
スタードは隙を伺っているのだが、イフュートに向かって攻撃する隙が全くないのだ。黙って攻撃を凌ぐしかない。そうしないと殺されるから
「その程度じゃ〜私を倒すことは出来ないよ〜?」
「……人と戦うのはあまり好きじゃないんですけど……」
スタードはそのように呟く。こうなったら無理にでも倒すしかないと、スタードは足に力を込めて地面を踏み締める。何をされるのか分からないイフュートは、少し紗耶から距離をとって様子を伺うことにした
「なっ……!?」
何回目だろう、これを使うのは。強いキメラに対して2回くらいだろうか。人は氷漬けにするだけで死んだから、人には初めて使うけれど……。なんてことをスタードは思って、冷静にイフュートに告げる
「いいですよ、少し本気出しますから。耐えてください」
そしてスタードは心の中で『銀世界』と呟いた。その言葉通り、スタードが踏み締めた足からドンドン辺りが凍りついて、灰色だった硬い地面が白く染まっていく。部屋の温度も極寒まで下がり、部屋の中は心の中で呟いた言葉通りに銀世界になった
「うっそぉ〜……!?」
イフュートはどうにかして抜け出そうとするが、この部屋にいる限り逃れることは出来ない。動きが鈍くなり、段々と氷漬けにされていく
「……流石に、死んだかな」
スタードがそう呟いて、子ども達の様子を見に行こうとイフュートから目を離した時だった
「……あっ……え……」
乾いた銃声が丸ごと氷漬けになった部屋に響く
銃弾がスタードの腹を貫いていた。腹から出た血が、とどめなく溢れていく
「油断禁物だよ〜スタードちゃん?とはいえ……私は死にかけたけど〜」
スタードがゆっくり振り向くと、イフュートは笑顔と左手に持っているハンドガンを見せて、そのように言った。スタードの頭の中は疑問符でいっぱいだった。マイナスの温度は絶対あるこの部屋で……正常に動けるなんて誰が考えるのだろうか
「………ま、だ……死んで、なかったんですか……」
スタードは苦しみながら膝をついて呟き、貫かれた腹を能力の氷で塞いで応急処置をする
「おぉ〜、応急処置も出来るんだ。偉い偉い」
その様子を見たイフュートが拍手をする。そしてゆっくりとスタードに近づいて、銃を突きつけてトドメを刺そうとする。そんな時だった
ゾンが極寒になっているその部屋に扉を蹴破ってきた
「スタードが重傷を負われると、俺が師匠にどやされるから勘弁してくれ」
「……ゾン君〜会いたかったよ〜?」
イフュートは反射で振り向いて、銃もゾンの方へ向ける。イフュートは口角をあげてはいたが、目は笑ってはいなかった
「ゾンさん……この人は……「もう喋るな、後は俺がなんとかする」
スタードは口を開いて何かを言おうとするが、ゾンはそれを遮る
「えいっ」
イフュートがそう言って引き金を引く。もう一度、先程と同じ銃声が部屋に響いた。銃弾はゾンに向かっていくが……銃弾がサラサラと砂のようになってしまった
「銃程度、俺には効かないこと知ってるだろ」
ゾンはそう言って、イフュートを睨む。イフュートはヘラヘラと笑いながらゾンに歩いて接近する。ゾンもイフュートに歩いて近づいていく。……一触即発の状態である。
「やっぱ君の能力〜ちょっとめんどくさそうだね〜」
「あぁ、もうお前死ぬしな」
イフュートの発言に対してゾンはそう返して、パチンと指を鳴らした
「何言って……っ!?」
上から20本以上のコンクリートのナイフが、イフュートに向かって一点に降り注いでいた。イフュートはそのナイフの雨を、右手に持った自分のナイフではたき落として全て捌こうとする
「危な〜……でも、死ななかったけど?」
流石に全ては捌ききれずに数本ナイフがイフュートに刺さるが、なんともないような顔でゾンに向かって言った。その瞬間、イフュートの目の前に一本のコンクリートのナイフが飛んでくる
「だから、死なないって」
そう言って、ナイフを掴んで投げ返すが……ゾンはその投げ返されたナイフに対して能力を使い、さっきの銃弾のように分解した。
「油断禁物ですよ、イフュートさん」
スタードの声と……生々しい音が辺りに響く
「……あはっ。なるほど〜確かに……終わったわ〜」
イフュートは納得して呟いた。スタードが、イフュートの左胸を能力で生成した氷の槍で貫いていたのだ。しかし、それを気にしていないのか、ただヘラヘラとイフュートは笑い、脱力する
「ゾンさんはもう子ども達を助けに行ってもいいですよ」
紗耶はゾンに向かってはっきりと伝えた。それを聞いたゾンは黙って頷いて、研究所の奥へ引き返す
「あ〜……心臓突いたら人死ぬんだけど〜?この人殺し」
イフュートは嫌味のように紗耶に言う。それを聞いたスタードは少し顔を俯かせ……そして、悲しそうな声で小さく「そうですね……」と呟いた
イフュートはその一瞬の隙を見逃さない。スタードに銃を向け、引き金を引く
「……え?」
銃は爆発四散した。思わずイフュートは素っ頓狂な声を出す。爆発した銃の破片がイフュートに向かって飛び散って突き刺さり、完全にトドメの一撃となった。何故、そうなったのか……実は既にスタードは、イフュートが持っている銃の中に氷を生成していたのだ。だから無理に銃を撃ったら誤作動で爆発する
「……一手先、取らしていただきました。あなたの自殺で私の勝ちですね」
紗耶は冷静に、真顔でイフュートに向かって告げた
「あ〜……じゃあ、地獄で待ってるね」
イフュートは……紗耶に対して軽く手を振って、倒れた。スタードはそれを見て、その場に座り込む
「……はは……今の私、お兄ちゃんが見たらどうするんだろうなぁ……」
どうも皆さん、わがまくです
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異能都市小ネタ7
ゾンはまだ自分がSランク能力者だと紗耶に言っていない




