紗耶編 コードネーム
「おはよう、紗耶」
私が目を覚ました時、女の人の声が聞こえた。私は……ふかふかのベッドで寝ていた。布団を被っている状態で少し起き上がり、辺りを見回す。私が寝ていたのは綺麗な白い部屋だった。部屋の窓側に観葉植物が置いてあったり、小さい本棚がある
「ここは……」
「安心しろ、私の部屋だ」
「……そう……ですか」
私はその女の人の方へ顔を向けて、その言葉に反応した。黒いパーカーを着ているゆったりとした格好をしているその人は、確か……アッシュさん。灰色髪の一本結びが特徴的な綺麗な人だ
自分は昨日、助けられたのだ。ゾンという男の人に、あの地獄から連れ出されて今ここにいる。けれど……少しあの地獄が脳裏にちらついて、頭を抑える
「落ち着いたらでいいんだが……少しだけ訊きたいことがあるんだ」
アッシュさんは椅子を持って私に近づいて、私が乗っているベッドの横に椅子を置く。そして、そのままアッシュさんが置いた椅子に座って話を切り出した
私はその言葉を聞いて少しずつ呼吸を整え、その言葉の続きを促した。何を訊かれるのだろうと少し怖かったのだが、アッシュさんが私に訊いたことはそこまで恐れることではなかった
「じゃあ、訊くが……紗耶の家族ってどんな人達だったんだ?」
「……私は、お兄ちゃんしか覚えていないんですけど……」
実際には親はいるのだが、あまり良く覚えておらずそのように答えた。しかしアッシュさんは流石に気になったのか、私に更に質問する
「親とか、覚えてたりしてないのか?」
「……酷い人達ではなかったはずです。優しかった……と思います」
なんとか記憶の底を引っ張り出すが、それでも特徴的なものは覚えていない。いや……思い出せない。何故かは知らないけれど……
「親で覚えていることはそれだけか?」
私はアッシュさんの言葉に頷いた。すると、アッシュさんは少しだけ黙る。多分何かを考えているんだろう。アッシュさんが黙ってから数秒程、私は思わず質問してしまっていた
「アッシュさんに、家族はいないんですか?」
「ん?あぁ、いるけど……何年も会ってないな。みんな生きてるとは思うけど」
違和感を感じた。何か変なニュアンスだ。けれど、理解力があまりない私には何も追求することが出来なかった。そして、さっきと同じようにアッシュさんが訊いてくる
「兄はどうだ?」
「お兄ちゃんはシスコンですね」
私は食い気味にそう言った。星乃龍弥という私のお兄ちゃんはシスコンである。それもかなり重度の。……私もブラコンかと言われればそうなのかもしれないけれど。お兄ちゃんほどではない……はず
「そ、そうか……」
少しだけアッシュさんがたじろいだ。けれど私はそれに気づかずにお兄ちゃんのことを話し続けてしまっていた
「お兄ちゃんは私のことが本当に大好きで本当にしょうがない人なんですけど、私もやっぱりお兄ちゃんのことが好きで、だってお兄ちゃんは私といつも三時間以上も話してくれてるんですよ!それでいつも優しく笑ってくれて、撫でてくれて、それで抱きしめたりしてくれて……あと、ほっぺにキスしてくれたりもしたんですよ!少し思い出すだけでも恥ずかしいんですけどそれでもやっぱりいい思い出「さ、紗耶さーん……?」
「あ……す、すみません……!」
「ま、まぁとりあえず紗耶が紗耶の兄を好いているってのは分かった」
気を取り直してとアッシュさんは続けて、私に対して最後の質問をする
「最後の質問だが……紗耶の家族は両親と、兄だけか?」
「多分そうだと思うんですけど……あまり思い出せないですね……」
「……そうか」
私は質問に対して曖昧な回答しか出来なかった。それを聞いたアッシュさんはなんだか寂しそうな、そんな顔をしている。理由を訊こうか迷ったが、訊く勇気がなかったのでやめた
「あーそれと、私達がしている活動にあたって紗耶にもコードネームを付けて貰う」
「コードネーム……」
「そう。作戦の時とかで名前を呼ぶ時、本名で呼んでしまったら諸々特定される可能性があるからな」
「なるほど、そういうことですか」
仕事柄本名を隠しているのはなんでだろうと思っていたが、その理由があったか。考えれば割とすぐ分かることだったけれど……。そんなことを思いながら私は考える。自分のコードネームを。そして数十秒考えたのち思いついた
「スタード、でいいですか?」
「お、早いな。本当にそれでいいんだな?」
「はい」
アッシュさんの確認に頷く。この名前に特に深い意味はないけれど、この名前がいいと思ったのだ。私の新たなスタート……それと、好物のカスタードの意味を込めて
「分かった、これからよろしくね。スタード」
「よろしくお願いします、アッシュさん」
アッシュさんが笑顔で言ってくれたので、私も笑顔で返した
どうも皆さん、わがまくです
読んで頂きありがとうございます
異能都市小ネタ6
ゾンの名前はアッシュがかっこいいからという理由で付けた




