〈深淵〉
「あの銀髪の男……まぁいいや」
赤髪の少年がそう呟く
銀髪の男……星乃のことだろう
何か気になることでもあったのだろうか
いや……今はそれを気にするよりも、この状況をどうにかしなければならない
京宮先生が来るまではそこそこ時間がかかるだろう
それまで時間を稼がなくてはならない
聖奈ちゃんがいるし、時間稼ぎに関しては出来るだろう
だが……それまでに学園が壊されないかと言われれば難しい
なんとか被害を抑えながら戦わなければならない
さっき草薙君がやられたのは、少年の能力……分身だろうか?
まだ分身の能力だと確信出来る訳ではないが、少なくともそれに近いことを出来るのは確かだろう
それだったらすでに学園に侵入されて居てもおかしくない
だから……
「ここであなたを倒すわ」
私こと黒崎佳奈はそう言葉を放った
赤髪の少年に向かってはっきりと宣言した
それを聞いた赤髪の少年は大きく頷いてこう言う
「うんうん、いいね。そういうの好きだよ。じゃあ僕も名乗ってあげよう。僕の名前はレースだ」
レース……その名前に何の意味が込められているかは分からない
適当につけたのかもしれない
だが、名乗るということはそれなりの覚悟があるのだろう
私はその言葉で初めて……戦いの火蓋が切られた気がした
相手はナイフを持っている……ならばこちらも得物を使用しようじゃないか
私は自分の『影』に手を突っ込む
そして想像する
どんな『武器』が欲しいのか
そう考えて取り出した
「日本刀とは、中々イケてるセンスだね」
そう、私は日本刀を『影』から取り出した
まぁ、私の能力はこれだけではないのだが……
「佳奈ちゃん!後ろ!」
先程までずっと少年……レースを見つめて警戒していた私の親友が警告する
自分の能力について悠長に考えている時間は無さそうだ
私は両手でしっかりと持った黒い日本刀を、後ろに向かって思い切り振り上げる
しっかりと当たった“感触”はしたのだが……
手ごたえがまるでなかった
振り上げた先を見ると、日本刀で斬ったレースがいる
だがそれはパリンと、小気味良い鏡が割れたような音を出しては消えてしまった
先程までレースが居た所を見ると、すでに彼はいない
反射的に聖奈ちゃんの方を見た
聖奈ちゃんが攻撃されていると思っての反射だった
……そしてその勘は当たっていた
レースが聖奈ちゃんを後ろからナイフで突き刺そうとしていたのだ
私はレースの隙を窺う
助けないのかって?
そんなことをしなくてもきっと……
「あれ、嘘っ……!?」
レースが素っ頓狂な声を出す
驚かない訳がないだろう
気配を出さなかったつもりなのだろうが、それは彼女には……異能都市9位には通じない
聖奈ちゃんは後ろからのレースの攻撃を一切視認しないで避けて、そして生まれた隙の間に腕を掴む
今だ!
「う〜ん、君たちを倒すのは簡単じゃなさそうだ……だから……」
私が日本刀で掴まれて動けない状態でいるレースを叩き斬る
叩き斬られると分かっていたはずなのに、それでもレースは言葉を放ち……全く怯まずそのまま斬られた
だが、またしても手ごたえが感じられない
パリンと……先程聞いたばかりの音が鳴る
「……さ〜て、君たちは友情を壊さないで僕に勝てるかな?」
レースは先程までいた所に戻って、そう言った
友情を壊さないで……?
どういうことだろうと思っていると、すぐにその答えは分かった
「なるほどね……」
目の前に聖奈ちゃんが現れた
……さっきまでいた聖奈ちゃんは私のすぐ側にいる
聖奈ちゃんが二人……
目の前に現れたのはきっと偽物だろう
それでも十分聖奈ちゃんと勘違いしてしまうくらいには精巧な分身だった
「どうしよう、佳奈ちゃん……」
どうやら聖奈ちゃんの目の前にも、私の偽物がいるようだ
友情を壊さないで……どうやって倒すか……
そんなモノは私に通じない
「……は?」
レースが明らかにイラついた声でその一文字を発した
それもそうかもしれない……私は偽物の聖奈ちゃんを真っ二つに斬ったのだから
そしてそれだけでは終わらない
偽物の私も速攻で始末する
偽物の足元にも影はあるならば……
「永遠に沈みなさい」
偽物は影に呑み込まれて消えた
そして、また私は自分の『影』に手を突っ込んだ
薙刀を、影のように黒い薙刀を取り出す
聖奈ちゃんの得意武器だ
それを聖奈ちゃんに手渡しする
聖奈ちゃんは起こった出来事に対して呆気に取られていたが……
「あ、ありがとう」
と、私に感謝を述べて、すぐにその薙刀をしっかりと持った
そして明らかに先程よりも苛ついているレースに、私は告げる
「私は異能都市3位。それと……この学園最強。何処の馬の骨とも知れないあなたに負ける訳がないのよ」
ここからは本気で“殺す”
小手先調べなど必要がなかった
例え、相手がSランクであろうと……〈深淵〉の全てを使って対抗する
それが私、黒崎佳奈なのだから
「聖奈ちゃんは離れてて、ちょっと私本気出すから」
私は親友にそう告げた
この能力は周りを巻き込みかねないから
とは言っても、聖奈ちゃんには当てようとしても簡単には当たらないのだろうが
薙刀を渡したのは保険だ
万が一レースが聖奈ちゃんを襲った時の保険である
向こうが得物を持っているのに、聖奈ちゃんが持っていなかったら不利になってしまうからだ
だから渡しておいた
……レースは私を警戒している
先程までとは雰囲気がまるで変わったからだろう
自分でも分かる
本気で人を殺すと決めたのは久しぶりだ
そして私は自分の能力を……〈深淵〉を使う
「チッ……」
屋上の柵の影から無数の手が伸びて、レースを捕らえようとする
レースは舌打ちをしながら私に接近してくる
……それを待っていた
レースの影からも手が伸びて足を掴む
「おわっ……!?」
レースは慌てている……という演技をしている
後ろからレースの分身がナイフを持って刺そうとする為の時間稼ぎだろう
そんなモノ、時間稼ぎにもならなかったが
「……!!」
分身にも影は存在する
その影から無数の刃を顕現させて分身を貫いた
そして目の前で影の手に掴まれている“分身”も斬り捨てた
……本物は何処だと、私は辺りを見渡す
ふと、下を見てみると自分の影が濃くなった気がした
いや……私自身にも影がかかっている……
上!
「気づくのが遅かったね!異能都市3位さん!!」
上からレースが重力に身を任せて落下してくる
まずい、そう思った
少し気づくのに遅れてしまった
避けきれるか……!?
いや、攻撃が当たるなら聖奈ちゃんが言ってくれるはずだ
ということは……
「僕の生徒に何してるんだ?クソガキ」
「……!?」
あまりにも起こったことが予想外で私は驚く
レースが何者かに蹴り飛ばされた
蹴り飛ばされて柵に思い切り身体をぶつける
柵がなかったらそのまま落ちていただろうと分かるほどにぶっ飛ばされていた
そして、この人が誰かを、何者なのかを私は知っている……
というか、この世界にいたら誰しもが一度は聞いたことがあるはずだ
「京宮……新一……!?」
レースはその男の名前を驚愕しながら述べていた
だが、すぐにハッとしてその驚いた顔が複雑な感情を抱いている顔に歪む
「学園の中で騒動を起こしたのもお前だな。星乃から全部聞いてる」
京宮先生がレースに向かって、少し怒りの感情を向けながらそう告げた
学園内で騒動……
……レースの能力は分身を作り出す能力
それも、さっきのように鏡写しのように他の人の分身も作れる……
「まぁ、俺と教師のみんなで偽物の生徒たちをすぐに見破って、全部破壊したんだけどね」
……流石教師といったところか……そこまで被害が出ていないようで良かった
それにしても、京宮先生の気配の方が感じられなかったのだが……
本当に恐ろしい人だ
それと同時に、味方に居てこれほどまで心強い人も見たことがないが
「佳奈、聖奈、二人はもう教室に戻っていいよ。そろそろ授業が始まっちゃうからね」
京宮先生がこちらに顔を向けて軽い感じでそう言う
ここは任せても良いだろう
殺すことはできなかったけれど、時間稼ぎは十分に出来た
「分かりました。聖奈ちゃんも、戻りましょう」
離れて見守ってくれていた親友に私は声をかける
でも親友は心配そうな声で私に訊いた
「協力しなくても大丈夫なの……?」
その言葉に私は少し笑ってしまって
そして私は当たり前のことを言った
「大丈夫よ。京宮先生は……日本で最初で最強のSランクなんだから」
どうも皆さん、わがまくです
読んで頂きありがとうございます
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