Eraser Coincidence Flare Star ending
「この五月蝿さで、寝ろは無理だろ。」
俺達を助けに来た署長達だろう。
「違いないわい」
目と鼻の先で止まるや否や、飛び出して来るフリオと装甲車の屋根の上から飛び降りて来るデニス。
「「シスさん! 大丈夫ですか!?」」
圧が凄い、圧が。
「あ、ああ、俺は大丈夫だけどよ……。」
あからさまに俺よりもボロボロの二人。
シンディとジェームスよりはマシな程度で、フリオは別れた時のままだし、デニスは擦過傷やら内出血やらで痛々しい。
「シス様、無事な様で何よりです。」
デニスとフリオの後ろから声がハスキーボイスが聞こえる。
ロドリーゴがベリーを背負った状態でそこに居た。
二人もやはりボロボロだ。
その割にはロドリーゴは平然とした顔で立っているが。
「……」
コッチを睨みつけているベリー。
なんだ、俺はアイツに何かした覚えはないが。
「ベリー。」
ロドリーゴが裏拳でコツンとデコを叩く。
ベリーの方を見てすらいないのに器用だな。
「……悪かっ、たわね、目を離して。」
大きく息を吸って、小さな声でそれだけ話すベリー。
「いや、勝手に外に出てタバコを吸いに行った俺も悪いだろ。」
「……あんた……。」
もう一度小さくため息が聞こえてきた。
「それに、署長に命令されたにしろ、なんにしろ命懸けで助けに来てくれた訳だろ?
シガレットにも、ベリーにも、デニスにも、ロドリーゴにも、感謝こそすれ、恨むのはお門違いだ。」
薄ら笑うロドリーゴと腫れぼったくなっている目はそのままに口を開けたベリー。
「いえ、皆、フリオのこともあったとはいえ、私が命じるまでもなく自分の意志で此処にいますよ。」
「イースタ、ン署長……。」
普段とは違い迷彩を着ていた署長も、迷彩服が破れ、至る所に傷がついている。
一瞬、言葉に詰まってしまった。
「ベリーに至っては自らのミスを認めて、あなたをーー」
「隊長!」
ベリーが声を荒げ署長の声を止めた。
その後に咳き込んでいる。
一通り咳き込んだ後に此方を見てもう一度睨むベリー。
「いい? 勘違い、するな、私は私のミスを、帳消しに、する為、だけにこのさくせっ、んに参加したーー」
「分かった! 分かったから! 俺は別にお前のことを恨んで無いし、お前には借りしかないから安心して寝てろ!」
「ーー分かって、るなら、いい。」
そのままカクンと糸が切れた人形のようにロドリーゴの肩に頭が落ちた。
「全く、恥ずかしがり屋だね、この子は。」
どこかはともかく聞こえてくるアンナ婆さんの声。
「……本当にそうですね、シスさんの事を嫌ってるわけでも無いでしょうに。」
いや、嫌われてるとは思うけどな。
主に、ネルとラケニカの関連の所為で。
「ワシの心配はしてくれんのかのう?」
「冗談言うんじゃないよ、あんたは相変わらず傷一つないじゃないか。」
ああ、ロドリーゴの後ろに居たのか。
「こう見えても、何度か内臓損傷くらいはしとるんじゃよ?
のう、シス君。」
俺を守って口端から頬を伝い俺の顔に垂れてきた血、臓腑を損傷していたのは間違い無いだろう。
「俺に振んな、それにどうせもう治ってんだろ。」
だが、冷たく返す。
「お、空気が読めるね。」
「……皆して、意地悪じゃなぁ。」
口を尖らせるシガレット、拗ねたか?
「余裕があんまり無いのですよ、それでも気になってファルシオン坊ちゃんがここまで車を走らせたのですから、それで何とか収めてやってくれませんかな。」
カカカと魔女が笑う。
「分かっとるわい。」
「……貴方達が、私のジャヴァウォッキーをぶちのめしてくれた奴等?」
声のする方を、所長含めて全員が見る。
いつの間にか目を覚ましていたアリアナがそこに立っていた。
「ーー貴方が元凶ですか。」
「そこのシスと、ゴツい男の二人を攫った元凶かと言う質問ならその通りよ。」
「ええ、私も姿を見ていますからね、間違いありません。」
「……悪かったわね、私の勘違いでそんな目に合わせて。
もし、私に手を出すことで怒りが収まるなら、首を絞めようが、鉛玉を打ち込もうが、体を寸刻みにしようが、薬物の治験に使おうが構わない。
私はそれだけのことをしたもの。」
頭を下げて、淡々とそう伝えるアリアナ。
そんな中、デニスとフリオの二人がアリアナの前に立つ。
「顔をあげて下さい。」
その言葉に頭を上げたアリアナの頬を思い切りデニスが張った。
パァンッという音が鳴り響く。
頬を抑えるアリアナはその痛みに対して涙のひとつすら浮かべない。
「私も、貴女の兵を殺していますから。
これは、シスさんをさらった分だけです。」
ゴッといういい音が続いてアリアナの脳天から響く。
フリオの拳骨が真上から振り下ろされていた。
「僕も、コレで充分です。
貴女のお陰で、研鑽と素敵な武器とお話に出会えましたからね。
それに、隕石を止めたのも貴方なんでしょう?」
署長も、ロドリーゴもアンナも動かない。
「まぁ、そう言うわけです。
魔女たる貴女を私達では殺せませんし、シガレット様もそれを望んではいらっしゃらないみたいですから。」
「姉さんが起きてたら、鉛玉数発位は打ち込まれてたでしょうけどね。」
「ですなぁ、ベリーは血の気が多いですから。」
「全く、誰に似たんだかね。」
はて、と首をかしげるロドリーゴ。
「少なくとも私ではないでしょうな。」
ドッと起こる笑い声を聞いて、アリアナがどこか寂しそうな顔をしている。
結局、こいつの姉とやらは見つからなかったのだから、仕方ないだろう。
それでも、俺達を助けてくれた。
「……ところでのう、アリアナ、お主に聞きたいことがあるんじゃが。」
「聞きたいこと?」
聞き返すアリアナに頷いている……こいつに聞きたいこと?
「『シナゴーグ』、知っとるか?」
ーーその場の空気が一瞬で引き締まったのを感じる。
意にも介さず首を傾げるアリアナ。
「知らないわけじゃないけれど……。」
「ーー何か知ってるのか?」
つい口から出た言葉にアリアナがこっちを見た。
「いや、そんな目で見られても。
私だって精々、そういう連中が居る程度しか知らないわ。」
「そう、か。」
「そんな、あからさまに肩を落とさないでよ……。
もし何か情報が入ったら教えてあげるわよ、私も行かなきゃいけない場所があるしね。」
そう言えば、封筒を持ってたな。
何をするつもりなのかは知らないが、情報を得たら教えてくれるというのならありがたい話だ。
「……何かあったの?」
俺の身の上を聞いてくるとはな、そこまで態度を軟化させるような仲ではーーあるか。
辺り一体の破壊を防ごうとして、最終的にはフラムに助けられた。
そういった危機を乗り越えた仲だ。
「ああ、俺はーーシナゴーグの連中に当時居た友人達を殺されているんだ。」
「我々も戦友をなくしています。」
そう伝えたのはロドリーゴ、普段通りのように聞こえないこともないが声に些かの怒気が混じっているようにも感じる。
果たして、それはシナゴーグに対する怒りなのか、それとも命令だったとはいえその日俺たちについて来なかった自分自身に対する怒りなのか。
俺には分からない。
「復讐?」
頷く。
「ーーなら、達成されることを祈ってる。」
「普通なら止めるじゃろうに。」
そう言うシガレットの方をアリアナが振り返る。
「何言ってるのよ、魔女は普通じゃない。
それに、復讐は何も産まないなんて言う奴もいるけれど、少なくともスッキリはするから。」
あっけらかんとそう言って踵を返す。
「何処まで行かれるのですか?」
「……秘密、送迎も要らないわーージャヴァウォッキー。」
現れたのは両腕と両足の太い、巨躯の化け物。
隕石を止める際に全て居なくなった異形の残るたった一人。
「じゃぁね、またいつか会う日まで。」
その肩に抱かれ夕暮れの中、巨躯が軽快に跳ね山間にあっという間に消えていくアリアナ。
「……では、我々も帰りましょうか。
シス君にはキチンとお休みを差し上げますから安心してくださいね。」
その言葉に反論する余裕もなく、重症な順番に装甲車の中に入っていくのを見届けながら、俺も疲れた体を引きずって俺も装甲車の中に乗り込み、目を瞑ると同時に睡魔が襲ってきた。
運転席に座った署長とシガレットの会話がぼやけて聞こえるが、認識出来ない。
クソッタレ、本当に長い、一日だったーー。
-Cigarette Water Hazard- 完




