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Eraser Coincidence Flare Star 5

「ほら、火ぃ付けてやるよ。」

「あ、ああ……助かる。」

シガレットみたいに指先から火を出すんだな、コイツも。

もう一人の魔女が水の魔女に何を話しているのか分からなくなる程度には離れた場所で、俺はフラムから貰った火とタバコで紫煙を燻らせる。

そう言えば攫われた時から一切吸えてなかったからかなり久々な気がするな。


「シス君さ。」

突然声をかけて来る。

「なんだ?」

吐き出した煙で輪っかを作っている。

器用なもんだ。

「偶に全部嫌んなったりしない?」

「…‥なんの話だ。」

世間話か?

「その場を破壊し尽くした上全て忘れて何処かにいきたいとか、そういう気持ちになる事ない?」

いや、まぁそりゃ俺だって人間だし。

「…………有るっちゃ有るな。」

「だよねぇ、私だってある。

 それを踏まえて聞いて欲しいんだけど、あのアリアナっておっちょこちょいはさ、ある日突然、たった一人の家族の記憶が全部すっぽ抜けて消えた訳なんだよね。」

おっちょこちょいね、そんな可愛いもんか?

「そっから、41年もの間ずっと、ずーっと探し回ってたんだわ。

 大好きだったお姉ちゃんを、さ。」

俺を絆そうとしてるのか?

理由も事情も理解しても、それでも当事者は許せないことだってあるだろう。

危うく、というかシガレットが来なければ俺は死んでいた可能性は高い。

「なら、姿を表してやればよかっただろうが、俺は軽症でも、アイツのせいで大怪我した奴はいくらでもいるぞ。」

そうだ、シンディとジェームスはいつ死んでもおかしく無いくらいの重傷を受けている。


「そう簡単なもんじゃ無いんだ、あいつが言ってただろ?

 どう足掻いても、10分、それ以上此処にはいられない。

 今回だって、アレが現れたから仕方無く来ただけだからな。」

アレ……恐らく記憶からほぼ抜け落ちてしまった、何かよく解らないモノのことだろう。

いや、だが、だからと言って、少し姿を先んじて表せば、そして水の魔女の記憶から、自身の事を抜いていなければなんとでもなっていたんじゃないか。

「……仕方ないな、少しだけ教えてやる。

 アイツがいたら、アレが現れる、アレは無差別にその辺りを消し去ろうとする。

 だから、アイツは此処にいられないんだよ。」

漠然とした何かの話だろうが、それは恐らくあの魔女が倒して居るはずだ。

「倒せるなら、問題ないんじゃ無いのか?」

「危険は出来るだけ遠ざけるものだろ?

 それに今回のアレは不可抗力で出てきただけだ、だからアイツも出てこれるんだよ。

 普通なら、誰相手でもこっちに出てくることはないんだよ、アイツは。」

「その結果、不特定多数の命が危なくなってもか?」

「例え、妹が死んでも、だ。

 たかが数万人と星中の命を天秤にかける奴がいるとでも?」

ーー成る程、アレってのがなんの事やら分からないがそれほどヤバいのが相手って事か。

今回の突然降ってきた隕石を止めてくれたこのーー?


記憶に齟齬、が、あるような?

「……話がだいぶ逸れたな。

 まぁ、なんて言うかアリアナの事は出来るだけ責めないでやってくれ。

 隕石壊すのも手伝ってくれてただろ? 今後は多分、お前とシガレットの力にもなるだろうしな。」

確かに、それもそうだな。

アリアナがその辺りの水という水を動員しなければ、隕石の速度は落ちなかっただろうし、このフラムって魔女が居なければ俺も、シガレットも全員チリすら残らず消し飛んでいたかも知れない。

「ほいっ。」

フラムがもう無くなりそうになってた俺のタバコを口から奪って、自分のタバコと一緒に、握って燃やして消滅させた。

「灰皿要らずか、羨ましいな。」

フラムが笑う。


「おう、助かったわい、フラム。」

ーーシガレットも無事に此処にいる。

あっちにシガレットと激闘をかました挙句、隕石を食い止めて疲れて眠ってしまった、アリアナも、どちらもいる。

おかしい事、は何も無い。


「おう、シガレット、また困ったことがあったら呼んでくれよ。」

「こんな訳の分からん事は無い方がいいがのう。」

「「違いねぇ」」

俺とフラムの声が重なって、フラムが噴き出した。

「いや、いいねシス君。

 彼方の爺様が見初めるだけあるわ。」

そう言いながらブーツを脱いで裸足になったフラムの足の裏が来た時と同じ様に高熱で光り始めた。


「じゃあな、寝てるアリアナにもよろしく言っといてくれよ!」

そのまま、足から火を放ってロケットの様に飛んでいく。

そのまま太陽の方に飛んでいったフラムはあっという間に地平線の彼方に消えた。


「嵐の様な奴だったな。」

「カカッ、じゃがお陰で命が助かったろ?」

ああ、と言った所でシガレットからタバコを差し出される。

「ほれ、足りんじゃろ? もう一本じゃ。」

一本吸ったばかりだったが、確かにまだ口寂しい。

口に咥えて、今度はライターを取り出す。

「ほれ、火じゃ。」

……そういやコイツもくれるか。

「おう……。」

ジリジリと音を鳴らすタバコ。

肺に溜まる煙、心地良い香り。

「今回も疲れたのう。」

そんな事を言いながらシガレットもタバコを口にしている。


「そうだな、にしてもお前最後は役に立たなかったな。」

「まぁそうじゃな、ワシの異能では隕石は止めれんわ。」

……馬鹿にしてくるかと思ったが殊勝に受け止めるもんだな。

「小僧らも、連れ出した二人組も怪我はすれども全員無事じゃったし、今回は以前と違って死人が出なくてよかったわい。」

ジェームスとシンディも無事だったのか?

「怪我ってレベルじゃ無いだろ、アレは。」

「それもそうじゃが、奇抜な格好をした二人組の医者があの二人を引き取って行ってな、小僧ら曰く彼らなら安心して任せられるとか言っとったわ。」

奇抜な格好をした二人組の医者……ああアイツら、ノワールの二人組か。

俺のことを「シスんご? じゃったか?」


あ?

ニヤニヤと笑う魔女の顔。

何故その名前を知ってい……。

「聞いたのか?」

「今ワシが思いついたあだ名かもしれんぞ?」

その質問の時点で聞いているだろ。


ーーザザッと。

砂嵐のような物が流れた気がした。

が、すぐに消えていく。


っていうか、アイツらシガレットに合ったのに技術については聞かなかったのか。

……いや、違うな圧には負けそうになったが俺もデニスもバラしてないし、コスプレした奴に出会った程度の感覚でしか無かったのかも知れない。

そもそもコイツは魔女で、医者には見えない。

悲しいすれ違いという奴だ。


「ま、お疲れ様じゃシス君。

 彼らも来たことじゃし、寝ても構わんぞ?」ーーエンジンの音が響いて来る。

辺り一帯焼け野原になっているおかげで音の発信源はすぐ見つかった。

デカい装甲車がこちらに向かって走っているのが、いやでも目に入る。

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