Eraser Coincidence Flare Star 3
極熱に当てられ汗だくになっていた俺と水の魔女の目の前に現れた女に、目が釘付けになっていた。
「…思ったよりお早い登場だし、中々仰々しい登場だな?
まぁ今回は間に合ったみたいで良かったよ。」
肩で息をしながらフラムが目の前の女性に声をかける。
「こっちこそ、前回は間に合わなくてごめんね?」
そう言いながら、女性は口元に手を当てて苦笑しながら水の魔女の方に顔を向けた。
そして
「久しぶり、アリアナ。」
と水の魔女の方を見て声をかけている。
「ーーー姉、さん。」
そいつが、姉か。
「見つけた!■■■■▪︎!」
感極まり涙を目の端に浮かべた水の魔女を尻目に化け物が叫んでいる。
何故かその言葉は、この女性の名前だと認識できているのに、俺には名前が理解できない。
「久しぶり、ニーチェ。」
涼しい顔で、薄い笑顔で、存在するだけで息が詰まる程の化け物に笑いかける女性。
「お前を消して、私がお父様/お母様に認めてーーー。」
その言葉を遮るように、気付けば化け物の真横に移動していたその女性が化け物の顔の下半分を隠すように右手で掴んでいるのが見える。
「悪いけど、時間が無いの。
どう足掻いても10分しかいられないし、アリアナと久しぶりにお話もしたいからーー。」
ネックではなく、フェイスハンギングの形を取られ、言葉すら出せず暴れる化け物。
この状況なら、年相応のガキに見えなくも無い。
その様子を見ながら女性のただでさえ赤い瞳がその縁だけを残して深く鈍く光ったのが見えた。
「手加減無しよ。」
ーーー気付くと、俺は水の魔女とフラムそしてもう1人の魔女と半焦土と化した荒野でテーブルと椅子を挟んでアフタヌーンティーを囲んでいた。
「は?」
ーー何かが、起こっていた筈なのに。
途轍もない恐怖と相対していた筈なのに。
その記憶がふわりとしたものに置き換わっていく。
本来なら忌避すべき状況の筈なのに。
どこか穏やかさを持ってそれを受け入れている?
「さて、まずはーーーごめんね、シスさん。
これに巻き込むことになるなら最後の最後だと思ってたのに、思ってたより早く嗅ぎ付けられてしまって。
この30分のことに関しては、うまく整合性が取れるように調節するし、一番良いようにしておくから気にしないでね。」
「ーーは?いや、え?」
言っている意味がわからない。
恐らく、彼女の中では理解しているのだろう。
いや、意図して分からない様に話している?
「意味が分からないと思うけど、ソレでいいの。
知らない方がいいこともあるから。」
いや、そんなことよりーーー。
「シガレットは?」
「…大丈夫、暫く経てば戻ってくる。
それと、貴方の想像している記憶の改竄と私は関係ないから安心して忘れてね。」
何かわからない、が。
きっと、この魔女の言う通りなのだろう。
「シス君、悪いけどさ。」
フラムから唐突に声がかかった。
顔を向けると親指でどこかを刺してーーー。
「あ、あぁ。」
水の魔女が此方を見て睨んでいた。
確かに、野暮ってもんだ。
俺はフラムと一緒に静かに席を立ち、少し遠い焼け残っていた石垣の付近に歩いていくことにした。




