【Last episode】Eraser Coincidence Flare Star 1
「見ぃつけたぁ。」
ーーーなんだーーーアレは。
不快感のある汗が全身から滝のように流れ出すのがわかる。
心臓の鼓動が鼓膜を突き破りそうなほど大きく聞こえる。
見ることを辞めたいにも関わらず目がそちらに向けられる。
人の姿をしてはいる。
だが、圧倒的な不快感。
見た目の所為ではない。
見た目は間違いなくただの少女だ。
何故か思う。
ただそこに居るだけで、何時俺が消されてもおかしく無い。
殺されるでは、無い。
潰されるでも、無い。
斬られるでも、無い。
溺れる訳でも、無い。
文字通り消されるとしか思えない。
魔女ーーには何故か思えない。
ーー何故か息苦しい?
息の、仕方、息が、出来なーー。
「ーーっ、すまんシス君!」
シガレットの声と共に俺の目の前が煙に覆われた。
この、感覚はーーー。
ーーー吐き気、何時もの移動だ。
が、愚痴を吐く前に俺の頭に飛来したのは「助かった」と言う言葉だけだった。
安堵の溜息が自然の喉奥から吐き出されているのが解る。
あの場にいたら、俺は間違いなく死んでいた。
「すまぬシス君、1番まずいもんに巻き込んでしもうた。」
「何なんだ…アレは」
「何なのよ、アレ。」
ーーあ?
真横にいたのは肩を抱き震わせている水の魔女だった。
いつの間にか目を覚ましていたのだろう。
いや、今の転移と同時に気付いたのか。
「…質問は後ーー」
魔女が言葉を言い終わる前に、ソレは目の前の地面から生えてきた。
正気を疑いたくなる。
だが、文字通り、土が盛り上がり、目の前に先ほどの何かが湧いて出てきた。
「逃げられると思ったんですか?」
「逃げるも何も、ワシにお主のような知り合いは居らんはずじゃがなぁ。」
何かがクスクスと笑う。
「ええ、そうですよねぇ。
でも、私のお父様が言うんですよ。
貴方が41年前に私と私の姉を殺した張本人だって。
だから、私が生まれ直したんですよぉ?」
41年前ーー魔女ーーオルガナ砂漠化事件…?
やはりコイツも、魔女なのか?
「そこの塵!」
ーーー殺気以上の何かが叩きつけられる。
「よくも! そんな! ふざけた考えを持ち込めたな!」
頭の中身を読まれたことなどどうでも良い程の恐怖。
身震い、なんてものじゃない。
内臓が引き付けを起こすような感覚。
出来る事なら、心臓の鼓動を止めてーーー
黒いボロを纏った魔女が目の前に立ち塞がった。
と、同時に息が出来るようになる。
鼓動も、引きつけも、ゆっくりと収まっていく。
帽子を目深に被った水の魔女も滝のような汗を流しながら、魔女の背を見ていた。
「後ろにおれよ、シス君も、アリアナもな。」
また、守って貰っている。
俺はまた何も出来ないのか。
「…で、何のようじゃ?」
「?…質問の意味が分からないんですけど。」
表情は見えない。
だが、声だけでもわかる。
間違いなく、今、目の前にいる人らしき何かは苛立っている。
「なんか用があるんじゃ無いのか?ワシに。」
大きなため息。
「お父様/お母様の命令です、死んで下さい。」
「まぁ、そう来るじゃろうな。
すまんが、時間稼ぎを頼むぞ、『フラム』。」
ーーフラム?
この場には俺と、シガレットと水の魔女と何かよくわからん奴しかーーー。
「あぁ、わかってるよ、シガレット。」
タバコを燻らせて。
目に『火』と書いた眼帯をつけたシガレットの服装に似たボロでは無い服装の黒髪短髪の女が何時の間にか俺たちの隣でしゃがんで居た。
「え?」
「は?」
「ん?おお、初めましてシス君。
フラム・フランシスカだ。」
気さくに歯を見せて笑う。
「んで、久しぶり、アリアナちゃん。」
帽子をひっぺがしてフラムと呼ばれた女が水の魔女の頭をクシャクシャと撫でた。
「フラム…さん?どうしてーー」
この女と水の魔女は知り合い…なのか?
つまりコイツも魔女?
「おう、まぁコイツも言ってたけど質問は後回しだ。
取り敢えず、アイツが出てくるまで、私があの化け物を食い止める。
いざいざになったら、コイツを…シガレットを守ってやってくれ、アリアナとーーシス君よ。
後、わかってると思うけどアリアナは私の熱から皆を守ってくれよ?」
「はっ、はい!」
化け物?
魔女が、化け物と呼ぶ存在?
何か、頭の片隅に引っかかるが恐怖からかすぐに思い出せない。
そして、アイツ?
アイツって誰だ?
「んじゃ、やるかねぇ。」
俺の疑問をよそにそう言いながら、フラムと呼ばれた女はシガレットの前に出た。




