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The end and the encounter 3

さて、ああは言い切ってしまったものの、これからどうしたものか。

周囲の静けさが耳に痛い程響く。

あの足の速い方の化け物が来たら俺では逃げ切れない。

シガレットとの距離は離れてしまうが、やはり元いた場所に戻った方がいいか?

アイツが此処に来ると言ったのなら間違い無く、此処まで来るだろう。

背後に敵がいないのはしつこいくらいに確認した。

体感100m以上の長さの通路にあった20近い部屋。

吹き飛んでいた扉は中を覗くだけだが、閉まっていた扉に関してもその全てを開けて中を確認した。

結果数体の化け物が見つかり、その全てを斃しながらフリオが階段まで安全確保をし、漸く階段前に来たわけだがーーどう言うことか、上の排気口らしき場所から降ってきた小さい足の速い方の化け物が現れて事態が一変した。

フリオが無理な軌道でソレを斬りに走り、その間に階段の方から巨体の化け物が現れてジェームスが握られた。

完全に握り潰される前にフリオが既のところで助け出したが、その後奥から出てきた二匹目の所為でフリオも傷を受けた。

排気口は此処から見えるだけでも三つはある。

そこから出てこないとも限らない訳だからこそ。


その思考に到達した瞬間駆け出す。

間違いなく、最初にいたあの場所に戻るのが一番いい。

否、正確には両側を封鎖できるあの通路の方だ。

階段側からは音が聞こえなくなっている。

恐らくはシガレット、と呼んでいいのかは分からないがあの2人が来た時に一通り潰してしまったのだろう。

精神的には疲れているが、肉体的にはそれほどでもない。

人1人担いでいた分、むしろ今は体が軽いまである。

空いている一つ目、空いてない二つ目の下を通り過ぎる。

最初と違い行動が狡猾になっているこの化け物共をなんとか捌くしかない。

出来れば上から降ってこないのが一番だが。

どうなるかはそれこそ、どっかのロックバンドの曲にあったみたいに『神のみぞ知る』と言うところだ。

チラリと三つ目の排気口を見てみるが影すら映っていない。

俺の思い過ごしだと有難い。

四つ目の真下に足がかかる。

耳を澄ませてみても、違和感のある音は聞こえない。

自分の胸の鼓動と、吐き出す息の音以外は特に何も聞こえない。


いや、かなり遠くから銃撃の音が聞こえる。

ごく僅かに、だが。

シガレット以外にも誰か来ている、ソレも銃を使うような連中が、だ。

魔女の部下がこの化け物共だとすれば、コイツらは銃は使わないと思う。

そうなればフリオがいたことから推測するに恐らくは署長達だろう。

シガレット本人も向かってきていると言っていたし、彼等が来るまで凌げば恐らくは俺の勝ちだ。

七つ目を過ぎ去るーー扉までの排気口は後三つ。


ガシャンッ

と言う音が階段前から聞こえた気がした。

後ろを振り向き、たくなる衝動を抑えて。

足を先程よりも早く前に動かすことだけを考える。

痛みが一瞬、太腿から脳髄に駆け上がった。

が、今足を止めるわけにはいかない。


後ろから聞こえる肌がコンクリートを踏むペタッという音が1秒程の空白を開けながらこっちに迫ってきているのが聴こえる。

俺が二歩進む間に一歩ずつ。

九つ目を過ぎたときに音が途切れーーマズい!


ーー脳が勝手に導き出した答えはその勢いのまま前転するだった。

背中を掠める何か、そして回転する視界の中、斜め先の扉の中に吸い込まれて行くように消えていく小型の化け物。

そのまま凄まじい衝撃音が響く、おそらく制御しきれずに壁に突っ込んだのだろう。

目の前に半開きの鋼鉄製のハンドルのついた扉。

隙間から入り力一杯ハンドルを引っ張る。

一瞬見えた獣の頭骨。

ゴゥンッと音を立てて閉まる扉。

急いでカタナを置いてハンドルを回す。

と、同時に凄まじい衝撃が俺の両手と耳を襲った。

どうやら閉まった扉に対して蹴りをかましたらしい。

が、流石にこの30センチはある鉄板はビクともしていない……筈だ。

もう一度、鉄の扉に肉を思いっきり打ちつけたとしか形容の出来ない、バァンッという音が響く。

思わず身を縮こませてしまった、があたりを確認しても、人どころか小型犬すら通れ無さそうな通風口が左右に計四つしかない。


そろりと小さな覗き穴を覗く。

背中を見せ、一足飛びに飛んでいく小さな化け物が見えた。

どうやら諦めたらしい。

ハンドルを回せば開くだろうに、それをするつもりはない……いや、そこまで知恵が回っていないのか?

フリオから聞いた話を含めても辛うじて喋る程度。

知能は猿並みの可能性も無いとは言えない。

いや、楽観視するな。

下手するとさっきの巨大な方の化け物なら扉を殴って壊す程度はできるかもしれない。

その間に俺の出来る最善の行動は何だ。

取り敢えずカタナは拾うとして、もう一つの扉を開けて、中で待っていた方が賢いか?




ガコンッ。

ギッ、ギィィィイイイイイ。


頭が拒絶したくなる音が背後から聞こえた。

俺が開けるかどうしようか悩んでいた扉が開く音。

俺が、俺達が出ていく時には何もいなかった筈だ。

見逃しは有ったのかもしれない、あの暗闇だ。

明かりもフリオの持っていた何かの油とシャツとカタナで無理やり用意した松明と俺のライターのみ。

確かにしっかり確認したわけじゃ無い、それでも、絶対に、お前がいるのはおかしいだろう!


「間に合ったみたいね。」

目の前にいたのは黒のベストと白いシャツに黒のズボン、首元程度までしか伸びていない黒の短髪に深い青の瞳、俺と比べても胸程度までの身長しかない矮躯。

そして、全てが犬歯もかくやと言いたくなる様なシガレットと同じ獣の様な歯。

「はぁ、まったく。

 あなた1人しかいなくなってるなんて思いも寄らなかったわ。

 そもそもどうやって私の水枷を壊したのやら……後学までに教えてもらえるかしら。」

溜息を吐きながら現れたのは俺が意識を失う直前に見た化け物の隣にいた少女、否、魔女なのだろう。

「さぁな。」

知らず知らずの間に俺のカタナを持つ手に力が入る。

「まぁ、教えるわけないわよね。

 今度は私が貴方を特製の檻に入れるから、せいぜい人質になってよね。」

そう言うと同時に、液体が流れて来る音が鳴り響く。

気味の悪い事に下から、上にその音は響いているように感じる。

思わずカタナを構えて前を見る。

その凶器に対して、ソイツは底なしの狂気を湛えた薄い笑みでこちらを見ていた。

背筋が凍る。

薄く開けられた濁った目に、上がった口角に、その一挙手一投足に。


ーー唸りを上げながら、それは小さく侵入してきた。

子犬も通れない程の小さな小さな排気口から渦を巻きながら細く細く。

水だ。

ソレは紛れもなく、水。

視認した瞬間、ソレは一気に速度を上げ俺の足元をグルリと周り巨大化する。

巨大な水の蛇のようになったソレに俺は

「 ! ッ ? 」

目の前が白くなる感覚。

口の中に、水。

食道と鼻、耳。

胃袋、肺、腹の中。

全てに水、死ーーー。

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