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The end and the encounter 1



ローク地下放水路、一階小階段を降りた階段前の小部屋。



「流石に、キツイですな。」

「そうさねぇ、コイツら急に動きが良くなったからね。」

既にロドリーゴとアンナはジャヴァウォッキーを十体以上破壊していた。

彼らの背後には焼け焦げ、胸を杭打ち機で穿たれ、兵器庫にあったミニミ軽機関銃で撃ち抜かれ、マチェットで切り裂かれた死体が有った。

それでも尚、尽きることのないジャヴァウォッキーに歴戦の2人ですら疲労の色が見える。

否、歳の所為と言っても差し支えはないだろう。

「持ってきた焼夷手榴弾サーメートも無くなってしまいましたな」

「一旦補給の為に退くのも視野に入れるかね。」

そう言いながら、アンナが手榴弾を階段の方に投げ込む。

炸裂音と何かが吹き飛ぶ音。

と同時に下から手すりに足をかけ、恐ろしいスピードで音も無く飛び上がってきた小柄なジャヴァウォッキー。


2人が弾ける様にそちらの方向を見る。

ロドリーゴの持つマチェットと、アンナの構える兵器庫から拾ってきたS&W M10が同時にジャヴァウォッキーを捉えた。

喉にマチェットを投げつけられ、両手両足にほぼ同時に銃弾が叩き込まれる。

そのまま速度を失い落ちていく。

鳴り響くのは、血袋入りの肉が叩きつけられ破裂する音。

次いで響くのは頭を叩かれる音だった。

「何獲物を投げ捨ててるんだい!」

「いや、思わず…申し訳ありません、アルファ。」


ズシリッと重量のある何かが階段を登る音。

それも列を成して。

その音に2人は耳を奪われ、そしてザッと手持ちの装備を顧みた。

刃物数本と後数発しか残っていないミニミ、スピードローダー一個分のS&W、刃のかけたナイフ二本、麻酔銃と使えなさそうな注射器6本。

巨体三体以上を相手にするにはあまりにも心許ないと、2人揃って思ったのか、お互いがお互いを見て頷く。

「一旦撤退だね、ブラボー、デルタと合流するよ。」

「了解致しました。」


その言葉と同時に無くなっていた扉の奥から巨体が姿を表す。

来た方向に走り出しながらロドリーゴがミニミを構え弾を打ち尽くし、槍の投擲と同じようにその銃を投げつけた。

分厚い筋肉の壁に阻まれて、投げつけた銃が弾かれる。

弾かれ下に落ちた銃を舌で拾う異形。

異形はそのまま、舌で銃をロドリーゴに無造作に投げつける。


凄まじい音が響き、ロドリーゴの走る真後ろに銃が突き刺さった。

「やれやれ、本当に化け物ですな。」

「私達が追いつかれるのが先か、逃げ切るのが先か、どっちが早いかねぇ。」

『ワシがくる方が早いみたいじゃな。』

『クカカッ、ワシらが、じゃろうて。』

階段を登る2人と階段を降りる2人がすれ違う。

溜息をついていたアンナとロドリーゴの2人が驚く間もなく、2人の煙草の魔女が階段前の小部屋に降り立つ。

『やるぞ、ワシ。』

『うむ、任せい!』

普段と違い黒ではなく灰の外套に身を包み、その鍔付きのエナンの先には火が点っていない。

ただでさえ色が薄いにも関わらずその肌をさらに薄くした魔女が、2人、手を合わせて、嗤う。


合わせた手の先の境界が曖昧になり、重なり伸びる。

しなり音を上げながら、灰色に色を変え、変形したそれを二人が薙ぐ。

下を伸ばそうとする異形の姿。

口を開けると同時に、ごう、と鳴る風の音。

伸びる2人の元腕、細断される異形の巨体。

『カカッ、心太ところてんじゃなぁ。』

『ワシらも腕を持っていかれたがな、まぁ良しとするかのう。』

バラバラになり、透明の液体を漏らしながら崩れていく巨体、都合四つ分。

その前に片腕を無くした魔女が2人。


「……なんですかな、これは。」

唖然とした様子で登っていた階段を降りてくるロドリーゴ。

「煙草の魔女、だったかね。やるもんだねぇ。」

その様子を見て感心した様子のアンナ。

「僕達いらなかったかも知れませんね。」

そう言いながらガチャガチャと銃器を持って降りてくるデニス。


『馬鹿言うな、お主達が居らんかったらワシがここに辿り着くのにかなりかかっておったわい。』

話す魔女に同調するように、片腕を腕組みするように動かしながらもう1人の魔女が相槌を打つ。

『うむ、ワシの本体がどうなっとるかは分からんが、まぁどうやらーー』

ズゥンッという重いものが落ちる音が地下にあるはずの構造物を揺らす。

『ーー間に合ったようじゃな。』


「何が起きてるんですか?」

『恐らく、何かがあって、鉄煙を使って何かを囲んだんじゃろうな。

 ワシらも本体がなにをしてるかは一切わからん。』

そう言いながら2人の魔女がケラケラと笑う。

「本体とかワシらとか良く分かりませんが、どうも増えておられるようですな。

 …‥救援感謝いたします、シガレット様。」

深々と頭を下げるロドリーゴ。

『言うなら生き残ってから本体に言ってもらって良いかのう。』

『うむ、まだまだ色んなところにおるみたいじゃからのう。』

相変わらず階段の先からは、巨体が階段を上ってくる音が聞こえる。

そして背後の階段の上から扉の悪音が聞こえたような気がした。


一体何体いるのか、総戦力が判らない状況での突撃。

当初予想してた数より多すぎる。

そんな言葉がアンナとロドリーゴ、そしてデニスの頭に浮かぶ。

が、次いで彼等の胸の中に飛来したのはその矜持だった。

これ迄の人生、艱難辛苦を乗り越えて、今ここに自分は生きている。

戦いを超えて今僕たちは生きている。

この程度ならまだ余裕はある。

それぞれがそれぞれの矜持を持ち、お互いに目を向ける。


「…シガレット様。」

『なんじゃ』

「行ってください、一旦僕達はこの場に来る敵勢力を殲滅した後撤退します。」

『…お主らだけ先に逃すこともできるが。』

「いけませんな、その御身を分けていらっしゃる状態で、隊長が戦っているであろう魔女とも戦うことを想定するのなら、正直、もうこの先にいるであろう五人をギリギリ救い出せる程度しか残っていないのではないですかな?」

分けられている煙草の魔女の脳内に様々な言葉が駆け巡る。

実は2つ分合わせても4人を運ぶ事が限界である、とか。

自らは煙故に正直場所自体の相性が悪い、とか。

ジャヴァウォッキー達の体内に巡る水のせいで上手く煙の回収が出来ない、とか。

出来ない言い訳はいくらでも出来る。

が、そんな感情を欠片すら表情に出さずに魔女は笑う。


『無理だと思ったら留まらずに逃げるんじゃぞ。』

頷く3人。

決意の瞳。

諦めではなく、その瞳は確かに未来を見据えている。

2人の魔女が大きく溜息を吐き、3人に対して薄く笑みを向け、地面を蹴った。


『『すまん、先行するぞ。』』

その言葉と共に、二つの魔女の形をした煙は階段を飛び降りた。


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