Cigarette monopolizing the battlefield end
「…‥姉さん。」
「言っとるじゃろうが、ワシはお主の姉では無い。」
恐らく、目が覚めるまでの間自分が何をしていたか、その意識すらないだろう。
恐らくーー
「あの小太りの私の足を剥いた男はどこ?」
想定通り、脚を落とされたところまでで記憶を失っている。
「逃した、放っておいたらお主が殺すじゃろうからなぁ。」
「姉さんは優しいんだ、たかが人間風情にすらそんな情けをかけるんだもんね。」
「攫った奴らはその奥におるな?
今なら頭を冷やせば許してやるぞ。」
ニコリと此方に向かい笑みを浮かべるアリアナ。
「どう思う?」
「殺してはおらんじゃろうな。
殺せば、ワシはお主に興味を失うかもしれん。」
小石を蹴り飛ばしながら笑う。
「そうね、でも監禁場所から逃げてたらどうなるかは分からない。
それにーー、もうここに姉さんが居るなら手加減をする必要もないもの。」
そう言って、アリアナが指を弾く。
…私と同じ思考、きっとあの行為に意味はない。
「今、ジャヴァウォッキー達の枷を外したわ。
予想外に割と壊されちゃったけど、ただ腕を振り回す、ただ足で蹴りを繰り出す、ただ舌を伸ばすだけじゃなくなったの。
この意味が分かる?」
「それは……」
アリアナがジャヴァウォッキーと呼んでいる遺骸達は、昔のままなら犬猫程度で尚且つ簡単な動き程度が限界だった筈。
人型を連携させたり、複数使役する事など当然出来なかった。
だからこそ、それが異能の成長の先だと思っていたしそんな風に異能が育っているなど、考えたくはない…が。
「まさか」
「思ったよりも減らされちゃったけど、まだ建物内にはそれなりにいるのよ?
止め方を知りたい?」
聞くまでもない。
どうせ自分を殺せと言うに決まっている。
「知りたくなくても教えてあげる。
……私を殺せばいい、私を殺せば私の異能は力を失う。」
ニコニコと楽しそうに笑いながらーー
「でも、姉さん以外に殺されるつもりはないから、早く姉さんが姉さんだって自分で認めて欲しいなぁ。」
ーー無理難題を突き付けてくる。
恐らくは、嘘でもなんでも姉である事を認めたとして、それでも殺されるまで納得しないだろう。
「何度も言っておるが、姉とは違う。
そして、お主の暴虐を許しはせんわい。」
この言葉はある意味ブラフだ。
今の目標には明確な差がある。
彼女は私に姉だと認めさせ殺されること。
私は彼女を殺さずに、シス君達を助けること。
今後も彼女が追い続けてくるのなら、最悪、この街から出なければならないかもしれない。
だが、私の願いを叶えてくれる彼だけでも必ず助け出さなければならない。
「そう言うと思った。
姉さんは昔から優しいから。」
昔から。
彼女の記憶からは消えている筈のモノ。
ただの適当?
それとも、本当は覚えている?
いや、考えるな、優先事項を履き違えてはいけない。
1にシス君、2にフリオ達、3に小僧達、全員を逃すことを目標にすれば、その後アリアナのことはなんとでもなる。
肺の中にある、普通の煙を口から吐き出す。
自身を覆い隠すように。
「……目眩し?
そんなんじゃ意味ないよ、姉さんの煙は私の水で掻き消えるんだから。」
「そうじゃなぁ、じゃあワシは無駄なことをしている事になるのぅ。」
最早、私が姉であることは確定らしい。
姉である事をあれだけ否定しても、たった一つの写真から綻ばせてしまった顔の似ている、歯の形が合っているというこの事実は彼女に大きな楔を残して居るらしい。
「無駄なのに努力するんだ。
……まぁ、姉さんのことだから何かびっくりする様な準備をして居るんだよね。」
当たっている、まぁ、無駄と解りつつ煙を撒いてる様に見せた時点でその思考は当然か。
が、もう9割私のやりたいことは完了している。
幻惑に幻惑を重ね、私の姿は掻き消える。
私の身体は煙草の煙と相違無い程に薄まり、扉の奥に消えつつあるからだ。
「もういいかな、そろそろ姿を見せてよ。」
「戦いに待ったも何もあるまい。」
その言葉と同時に水が噴きかけられる。
残しておいた声帯と舌を霧散させ、アリアナが出てきた扉の中に入る。
っと、思ったよりも水がかかるのが早かった。
舌が回収前に水で元に戻される。
口の中に広がる血の味、一瞬で溜まった血を口から吐き出し走る。
量自体が人1人分程度しか用意出来なかった燭台大蒟蒻の煙は使いたくなかったが仕方ない。
割と長い時間をかければ直るのは直る。
が、そんな暇はない。
指やら手やらなら無くなっても問題ないが、舌はないと細かい口の中での形成が出来なくなるし、シス君達にいざという時に声をかけることができなくなる。
「ふッ……ふッざけるッなぁあああああッッ!!!」
アリアナの絶叫が扉の外に響き渡る。
恐らく舌だけになった私を見たのだろう。
怒りはもっともだが、助けにいかなければならない状況を作った自分を恨んで欲しい。
「そこまで!?そこまでその人間達が大切なの!?
それなぁ…ぉ……る…ッ!」
最後の方は距離もあり、なんと言ったか聞き取れなかったが、恐らくは罵倒の言葉だろう。
だが、私には関係ない。
数メートル先から遺骸、腕が太い方の奴だ。
突如目の前に、飛んでくる。
いや、跳んでいるのが正解か。
足ではなく腕を使い腕力で高速軌道を実現している。
そのまま、此方に口を開いて伸ばす。
あたりのコンクリートの壁が裂断される。
この狭い空間内だと脅威にも程があるミキサーの様に迫る舌。
口を開けて睨みながら言葉を漏らす。
「あぁああぁ」
が、声が出ない。
邪魔じゃ、と言ったつもりだったが、まだ舌が治っていないのを失念していた。
まぁ言葉は関係ない、必要なのは結果だ、服の中にあらかじめ織り込んでいた生き物を外に放り出す。
見た目巨大な蛸のソレが舌を触手で掴む。
ソレを横目に私は巨腕の横を通り抜けた。
「ぃねぃうぅせぃ(ひねりつぶせぃ)!」
蛸に直接檄を飛ばし、触手にタバコをねじ込み、遺骸を抑えさせ走る。
一つ目の階段に差し掛かる。
シス君の位置は……ココからまだ下らし
鉄が歪み、撓み、持たず破損する音。
高速で下から飛来する影が、私の上半身を捉える。
右腕を緩衝材にして、軌道を逸らす。
吹き飛ぶ右腕、撒き散らされる血、それが霧散し仕込まれている鉄煙が綺麗に足を捕捉する。
「固ぁれ」
そう言いながら左腕で指を弾く。
左脹脛から右脚の膝下までを綺麗に固め、地面に落ちる。
ついで、細い槍の様に鉄煙を口で形成し飛ばす。
此方に伸びてきていた舌を地面に突き刺す。
コレでアレは無力化出来た。
時間を取られた、跳び降りーー
……シス君の動きが止まった…?




