表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/62

Cigarette monopolizing the battlefield 3

「姉さん!」

そう言って此方を向いたアリアナの一瞬の隙を見て、小僧が折れたエペを奔らせた。

小柄でふくよか、そして傷だらけのその身体のどこにそんな力が残っていたのか分からないが、回りながら小僧が跳ぶ。

アリアナのズボンの隙間から見える右足首の皮膚から分厚い桂剥きのように右太腿まで骨を残して肉が削ぎ落とされる。

顔に血が飛ぶ。


「 は ?」

アリアナの驚愕する顔。

そのまま、胴体を蹴られて、アリアナが扉をぶち破りながら中に消えていく。

そのままコンクリートの壁にぶつかったかのような衝突音。

おそらく実際ぶつかっているのだろうが。

「シガレットさーー」

扉の奥から溢れ出る殺気。

何かを呟く声。

小さく聞き取りは出来ないが、間違いなくそれは怨嗟の声だ。

その殺気を受けて、もう一度構え直すボロボロの小僧。

「下がっていて下さい。」

「…下がるのはお前じゃ。

 馬鹿め、こんなになるまでやらんでいいわい。」

煙を思い切り吹きかける。

ゲホゲホと咽せる小僧。

「ベリーとデニスには会ってある。

 今後の指示と、お主の知能でロドリーゴとアンナを助けに行けい。」

「はい?

 シガレット様はーー」

もう一かけ煙を吐き出す。

「ーー異論は認めん。」

そのまま、煙を収縮させ先ほどから紐のように繋げてきた煙に繋げてある車の中に送りつける。

コレで小僧は訳の分からないまま、車の中にいる事だろう。


「さてーー」

と独り言ちる。

扉の奥からの怨嗟の声は先ほどよりも激しく、そして水の中にぶち込まれて居るようなこの殺気も、どんどん強くなっている。

何が出てくるーー。

目の前の扉から、ゴポリと容器の許容量を超えたスライムの様に水が溢れてくる。

普通ならば、あり得ない。

そのまま、ぬるりと速いとも遅いとも言えない速度で烏賊の触腕の様な物が数十本生えて来る。


これは、マズい。

脳内にその言葉が信号の様に奔った瞬間、水が敏捷に伸縮する。

同時に勝手に足が真上を選んで跳んだ。

豪快な音を立てて抉り倒される木々。

小僧を残していたらまず死んでいた。

朝までとは違う、急に変わった……訳では無いか。

恐らく怒り、もしかしたら怒りすぎて頭の中身がどこかにトリップしている……いや、足の修復の為かもしれない。

いかんせん情報が少なすぎる。

地面に着地し、扉のあった方に目をやると水球から生えた透明の触腕が元のサイズに戻りぬたりとうねる。


さて、水対煙、勝負は本来見えている。

そのために時間をかけてしっかりと準備はしてきたが、全体の質量が見えないことにはどこまで功を制するか分からない。

取り敢えず、煙管は出しておーー瞬間、扉の外に出ている水の体積が二倍三倍と膨れ上がる。

いや、正確には出てこようとしているのか。

気付くと煙管を握る手に力が入っている。


ゆっくりと静かに。

木々が倒され更地になったその場に、触腕のようなものがびっしりとうねるその異様。

中心にはアリアナ。

足の肉が太腿付近から生えてきているのが見える。

此方を見向きもしない所を見るとどうやら意識は失われているらしい。

と、なれば恐らく後数分はアレが猛威を振るうのだろう。

煙管に刻みタバコを詰め、指を弾き火をつける。

足の油はまだ着いているみたいだ。

…アレをかわすつもりなら目にも注すしかない。

ポケットから点眼薬の容器を取り出す。

中身は当然油だ。

「クカッ、カカカッ…」

思わず笑いが漏れるほどの痛み……あぁ良く見える。

効果時間は目の修復が終わるまでの大凡10分程度。

注し直すたびに効果は再度現れるが、あまり何度もやりたいものでは無い。


プルンッと体動する水の触腕がーー収縮、延伸、薙ぎ払い。

しゃがみながら踏み込みその無作為に振るわれる触腕をかわす。

左右を挟むように、此方に伸びる。

軽く跳ぶ、そこに狙い澄ましたように高速で飛来する一本。

口から出した煙を踏んで、もう一度跳ぶ。

靴の真下を掠める触腕、次いで右斜め上と左斜め上から打ち下ろしてくる。

自身の肺活量を使い、口から噴き出す息で後ろに吹き飛ぶ。

帽子の鍔を右の触腕の方が掠った。

地面に落ち、すぐに体制をーー上、からの、一撃を避ける。

起き上がりながら煙管の煙草を吸い上げ、辺りに煙をばら撒き、自身と同じ形のデコイを四体発生させる。

その間に、上空を飛んでいた鳥が数匹その触腕の歯牙にかかる。

成る程、自動か。

そして、近いもの且つある程度の大きさの物を自動で攻撃しているらしい。


手を叩き、息を継ぐ。

バラバラに、水球に向かい動き始めるデコイ達。

金属煙のストックを肺から出し、前に吐き出しながら水球の周囲を走る。

取り敢えず、金属で囲んでどうなるかーー。

一体捕まり潰された。

後、20秒程度、二体目が上から潰される。

残10秒、三体目が薙ぎ払われ消え去る。

油煙を落としていなければ、私もああなっていたかと思うとゾッとする。

残3秒、4体目が左右から押し潰される。

が、

「完成じゃのぅ。」

水球の周りを鈍色の煙が渦巻く。

指を弾き、ドーム状に固定化する。

同時にそのあまりもの重量に辺りが多少揺れた。

なお、指を弾く行為に意味は一切ないが、気分だ。

何と無くカッコいいし。


走り回って見た感じ、内側に動くものは虫を除けばこれで無いはずだ。

自動的に攻撃するだけならこれでアレは動かないだろう。

鳴り響く、鉄を叩く音。

「そうは上手くいかんか。」

10センチにはなる様に吹き出していた金属がこちら側に向かい凹む。

マンガン鋼にも関わらず平気で。

次があるならクロム鋼でも用意してから戦いに挑むとしよう。

否、それよりも小僧に1番硬い金属を聞いたほうが早いか?

いやいや、そんな事より、動く物が無ければ適当に暴れまわる事が発覚した方がヤバい。


とりあえず追加のストックを服の中から排出して更に周りを巻く。

12、13、じゅうよ……あ、ダメだな、コレ。

厚くするより先に壊される。


なら先手を打つしかない。

服から一部の煙を肺に吸い上げる。

それと同時に、帽子から吊り下げてる瓶を一つ開封して中身を指につけて、ついた数個を地面にばら撒く。

破壊音が一際強くなってきたけれど、取り敢えず双葉は出た。

服から煙を噴出させ、ドームの周りを線状にした煙で囲む。

足場は出来ーー足。


ブンッと空高く放り投げられる。

小僧が殺し漏らした遺骸か!

足は掴まれっ放し…なら、肺の中の鉄煙を直接吹きかけ、指を弾く。

固定化され、舌を私の足首ごと千切り落とす。

服の中のストックから即修復用の煙を排出、固着。

足首を動かす、問題無し。

肺の中の鉄煙を吹き散らし、肩口から斜めに切断したところで、壊滅的な音を鳴らしながら、マンガン鋼に小さな穴が開く。

穴から水が出てくる。

息を吸う。

水が二手に分かれて、穴を無理やり広げる異音。

息を吐く。

人1人が出てくるのには十分すぎるサイズの穴ができ上がる。

息を吸う。

そこから出てくる、水の塊。

息を吸う。

うねる触腕、足首以外が蘇生している、残時間は恐らく1分以内。

息を吸う、目薬を垂らす。


奔る、伸びてくる、触腕を、かわす。

煙の足場を踏みながら、水に掠められ消される中、煙を吐き出し、足場を作り、殺到する触腕を辛うじてかわしていく。

前後左右、上下、後方。

感覚を共有している煙が打ち消されて私に次に攻撃が来る場所を教えてくれる。


「だからコレは無理じゃな。」

完全なる全方位攻撃、触腕が私を捉える檻のように合わさり私を包み込みにかかる。

煙の一筋が抜ける隙間すらない。


仕方ない肺の鉄煙のストックを全て吐き出す。

自身を守るように鉄煙を纏わせ、指を弾く。

外は見えない、完全なる球体の内側に私を内包する。

鉄が圧壊していく音が球体内に響く。

マンガン鋼ではなく鉄だからそこまで持たないが、私の予測が正しければーー光が差し込むと同時に圧壊する音が止まった。


鉄の塊に開いた亀裂から水球が破裂する様が見える。

中のアリアナが地面に着地する。

煙管を取り出し、内側からヒビ割れた鉄球を叩いて、壊す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ