表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/62

Cigarette monopolizing the battlefield 2

さて、重ねに重ねたこの煙。

重さはないはずなのにも関わらず質量を感じるほどに折重ねた。

そして、時間をかけ過ぎた。

彼らの足がここまで速く、アリアナがここまで見境が無いとは正直思っていなかった。


シス君に嘘をついてしまったことを後で謝らなければ。

彼女がわたしを探す間にどれほどの研鑽を積んだのかは分からないが、基礎能力は変わっていないにも関わらず死体を動かす力だけが莫大に増強されている。

最大使役数、最大距離、そして複数の存在に対する簡単な条件付け、死体の改造に至るまで。

ソレこそ本気を出せば街の一つ程度簡単に滅ぼせる程の異能の力。

四大元素の一つ、水の異能を此処まで捻じ曲げて使えるのはある意味才能と言って過言では無いだろう。

そんな事を考えながら車の扉の隙間から煙を通じて車の上でバンバン撃っているベリーの元へと移動する。


「ふむ、やりおるのぅ。」

「ぇ、シガレット様?」

銃を撃つ手を止めずにベリーが私に声をかける。

「よくもまぁ此処まで暴威を退けられたものじゃ。

 と、よく見たらお主もか。

 碌に攻撃を喰らってすらおらんと言うのに、随分無茶したのか体全体がボロボロじゃのう。」

見るだけでわかる。

裂けた皮膚、溢れる鼻血、伸びた筋繊維、あからさまな疲労の色。

「後はワシがやる。」

相手はただの死体。

遠慮など要らない。

外套の中に織り込んだ鉄煙を刃物の様に研ぎ澄ませ、煙のチューブから吸い上げてソレを自身の意識の届く範囲に吹き散らした。

「というか、もうやった。」


木々の隙間から出てきた死骸の首と手首と腹が切断されて崩れ落ちる。

森の中からも鈍い切断音が響き渡る。

1.2.3.4.567.8.9.1011...。

恐らく十数体、尖兵の大半は機能を停止させる事に成功しただろう。

思ったよりも抵抗するような手応えは無かった、夜中に交戦していた奴よりはかなり弱く感じる。

が、本来なら回収できる筈の鉄煙が回収できない。

「……やはり相性は悪いのぅ。」

「何を、したんですか?」

「あー、うぅむ。」

なんと説明したらいいのやら。

「実はワシ、鉄を煙管を使って煙にすることが出来るんじゃが、それを成形して射出した。

 とかそういう感じの説明でいいかのう?」

今回はその吸った分を外套に織り込んでいるから煙管を使っていなかったり、射出というより煙を吹き放っているが、正直殆ど感覚で使っている異能についてどう説明すればいいのかは分からない。

「さて、後は何処と何処に誰がおるんじゃ?」

「入口の方から師匠…ロドリーゴとアンナが。

 裏口から隊長が攻め込んでいる筈です。」

「成程のう。」

「隊長は敵の魔女と交戦中らしいのですが…」

アリアナはそこか。

「よし、分かった。

 お主らは此処を動くな、ワシが二つともケリをつけてやろう。

 イースタンの小僧もロドリーゴとアンナもワシが此処に送りつけるから、送りついたら此処を中心に立て籠るか逃げよ。」

ベリーが首を横に振る。

「こうなったのは、私の所為なので。

 逃げることだけは絶対にありません。

 此処の掃討が終わったら這いずってでも師匠たちを助けに行きます。」

いや、ソレは違う。

と声をかけようとして、止めた。

その双眸にに宿る決意の色。

自分の命すらかけるつもりの女の決意に誰が意義を唱えられるだろうか。


「ソレならワシの煙人形2体を置いていく。

 ロドリーゴとアンナがマズいと思うならこれと一緒に助けに行くといいわい。」

煙の一部を私と同じ形に変える。

一体につき16分の1程度の煙を織り込んで、白い紙にシャグを詰め丸めて、後頭部から捩じ込む。

「じゃが無理はするなよ、お主が死ぬのはワシにも耐え難い。」

その言葉を聞いた瞬間、ベリーは顔を背けた。

鼻から赤く一筋、血が垂れているのが見える。

慌ててソレを拭いながらベリーがコッチを向く。

「シガレット様はーー」

「残っている裏口に直接向かう、水の魔女はどうやらワシに御執心のようじゃからな。」

バンの屋根をベリーがゴンゴンと叩くと、窓からデニスが顔を出した。

「デニス、聞いてたわね。

 私は取り敢えず、此処でシガレット様が裏口にたどり着くまでの援護をするわ。

 貴方は装備とシガレット様のダミーと一緒に先に師匠達の所に行きなさい。」

どうやら動けないのにも関わらず私の梅雨払いをしてくれるらしい。


「…姉さんは」

「私は1人で大丈夫よ、もう向こうの森の中にいるのもーー。」

轟音が響く。

「コレで後一匹だから。」

剛気な事だ、女傑にも程がある。


「クカカッ、なら任せるとするわい。」

瓶を開け油を足に塗る。

と同時にボルトアクション特有の装填音。

「行くぞ。」

ベリーが頷く。

それと同時に私はバンの屋根を蹴った。

チェルシーから貰った地図通りなら、50メートル先に地面に潜るように通常の入り口。

その300メートル先に裏口があるとのことらしい。

上には木々が疎らに生え、自然でその位置そのものをカモフラージュしているメモリアルの作った核戦争にすら耐えられる放水路兼超巨大シェルター、ローク地下放水路。

目の前に小柄な死骸、遠くから銃の発射音。

砕け飛ぶ獣頭骨と肉片と水飛沫。

左から、もう一体。

巨大な腕、盛り上がった僧帽筋、もう一発銃の発射音。

的確に頭に直撃し吹き飛ぶ。

大した腕だ、と言うより凄まじいと言っても過言ではないだろう。


二体の死骸を葬って貰って、飛び出し、目の前に広がる少し開けた空間。

目の前に広がる惨状、動く死骸が真っ当な死骸になったものが円になり辺りに水気が渦巻いている。

地面に散らばる撃ち尽くされた銃器と空薬莢、折れた二本のエペ。

右に、イースタンの小僧。

左に、アリアナ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ