Prologue4
ロークタウン、サウスパーク。
17:30
4番通り、パブ『スクリーム』。
カラン、と音が鳴り1人の10代後半位の少女が入ってくる。
黒の短髪に青の瞳、ベストにスラックスを着て、手袋をつけた一見少年にも見える少女は、ローブを被り趣味の悪い草食動物の骨を被った少年と一緒だった。
時間が早いからか、まだ人はおらず、口髭を蓄え、黒ベストに白のワイシャツを着たバーテンダーがボトルを拭いているところだった。
「いらっしゃい、年齢の確認をして構わんかね?」
後ろにいる少年を軽く見ながらバーテンダーがボトルを戻し少女に声をかける。
「ああ、すいません、酒を注文するつもりはないんです。
実年齢言っても信じてもらえないだろうし、身分証明書も持ってません。
一つ聞きたいんですけど、このーー女に見覚えはありませんか?」
そう言いながら、一枚の写真がカウンターに置かれた。
バーテンダーがグラスを取り、拭きながら一瞥した白黒の写真には、どこか少女と似た見た目の年齢が少し高い黒い短髪の女性が写っていた。
一見すると、姉か、若い母親かもしれない。
写真自体は非常に色褪せており、元々真っ白だったであろう枠が所々薄茶けている。
「似たような方を見た覚えはありますがーー」
バーテンダーの襟首が掴まれた。
「ーーーどこで?ねぇ、どこで見たの?教えなさい、貴方には私に教える義務がある。」
少女とは思えない膂力。
「ーーーっぉ!?」
カウンター越しに、10cmは身長差のある少女をバーテンダーは振り切れないでいた。
「早く、教えて、答えて、答えないと」
首が締まっていく中。
「ーーはーーはなしーーてくれーーないとーー答えーられーー」
バーテンダーはなんとか声を絞り出していた。
「あら、ごめんなさい。」
パッと手を離され、カウンターの中で尻餅をつき、大きくバーテンダーが咳き込んだ。
「ごめんなさい、ずっと探してたんで感極まっちゃって…」
二度、謝りながら。
カウンターに身を乗り出し、少女はバーテンダーを覗き込んだ。
「教えてーーいただけますか?」
少女が笑う。
上がる口角、チラリと見える閉じたギザ歯。
バーテンダーは、蹌踉めきながら立ち上がると少女が入ってきた入り口の方を指さした。
「煙草屋…エェッホッ…。」
「落ち着くくらいまでは待ちますよ。
ゆっくり、落ち着いて。」
そう言いながら、少女がカウンターに頬杖をつき、バーテンダーを見下ろした。
数秒経ち、大きく息を吸い、バーテンダーが途切れ途切れに話し出した。
「見た目、が、似てる、女で、いいなら、そこの煙草屋に、煙草...を、卸しているのを見たことが、ある。」
「そこの、煙草屋ですねーーー有難うございます。」
そう言いながら、少女がニ枚、カウンターの上に女性の横顔が描かれた硬貨を置いた。
「迷惑をおかけしました、行くわよ、カダヴェル。」
そう言いながら、扉を開き、少女と少年が去っていく。
後には、息も絶え絶えのバーテンダーとニ枚の硬貨。
「なんだったんだ...クソッタ...?」
硬貨を見てバーテンダーの顔色が変わる。
困惑と喜悦の入り混じった顔に。
そこに置かれていたのは数十年前に作られた希少価値の高い、女王即位の際に作られた記念金貨だった。