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View of a certain apparel clerk end

気づいたのが遅れた。

自分の迂闊さが嫌になる、開いている扉、開いていない扉。

開いていないからと油断していた。

話す言葉がカタコトなところから知能が無いだろうと勝手に判断していた。

開いていない扉の中に敵がいる可能性を完全に失念していた。

此処数年何もなかったからこその平和ボケ?

そんなことを考えても仕方ない、後悔は先に立たない。

今からできる最善を。


一足で間合いを詰める。

上にぶつかるシンディさん、兎も角、それを何とかしなければ。

伸びた舌の下に潜り込み、そのまま弧を描くように刃を振るう。

何の抵抗もなく、刃は舌を滑らかに切断する。

そのまま、体を捻りながら、もう一閃。

巨躯の首の切断を狙ったつもりだったが、半歩足りない。

首は半分だけ切れ、首から噴水のように水が吹き出した。

もう一歩、踏み出して正眼から刀を突き出す。

普段なら感じるはずの骨の関節に当たる感覚が殆どない。

恐ろしいまでの切れ味、彼女を襲った化け物の首が落ちる。

そのまま、化け物が後ろ跳びになりながら崩れ落ちた。

追い討ち、膝から崩れ落ちている腹に刃を突き立て横に払う。

やはり中からは血液では無く臓腑と水が溢れ出す。


「シンディさん!」

そう言いながら駆け寄るものの、重篤な状況であるのは見てわかる。

息は辛うじてしているものの、あからさまに意識は失われている。

幾つかの骨折と内臓の損傷、打撲、擦過傷。

一瞬見ただけでも、それだけの重症が見て取れる。

蛍光灯に直撃したのが一番マズい。

幸い背中から当たっていたお陰で致命傷までは至っていないが、今の状況では、言い方は悪いが足手纏いが増えてしまっている。

「な、な、な……何だよアレは!

 まるっきりバケモンじゃねぇかよ!」

ジェームスさんが叫ぶ。

気持ちはわからなくもない、僕も一般人なら同じように行動していただろう。

「…気持ちわる。」

アルティさんは思ったよりも平気そうだ。

メンタルケアは必要かもしれないが、そんなことより先に彼女をどうするかだ。

一瞬で思い浮かぶ選択肢。

治療する? 不可能だ、此処にある備品では応急処置すら怪しい。

なら医療キットを探す? どこかにはあるかもしれないが、その間に死ぬかもしれないし、襲われるかもしれない。

この個体は間違いなく僕を攫ったのとは見た目の時点で違う個体だ。

二手に分かれて片方は脱出を目指す? 当然無理だ、ベリーさんやデニス君なら兎も角、シスさんにそこまでの戦力は期待できない。

それに魔女も出てくる可能性がある。


介錯する。

苦しめるくらいなら殺してしまう。

此処にいても化け物に襲われる可能性は高い。

1番の最善ではあることは間違いない。

僕たちも自由に動ける。

頭の中では理解している。

間違いなく、最善の手。


「……俺が背負う、連れてくぞ。」

シスさんがそう言い出した。

「フリオ、ジェームスにコレを渡して構わないな?

 背負ってたら使えないからな。」


「どうしてそんな即決できるんですか?」

思わず聞いていた。

普通の人間なら見捨てる筈だ。

もともと軍属の僕ですら、いくつもの考えを用意して結局出した答えは見捨てるだった。


「戦闘員としてお前は間違いなく必要だろ。

 コイツが何をやらかしたは知らないが、恐らくジェームスに抱えられていたら気がついた時に暴れないとも限らない。

 アルティには流石に背負わせられない。

 じゃあ俺しかいねぇだろ。」

違う、聞きたいのはそこじゃない。

何故、切り捨てる選択肢が出てこないのか。

いや、恐らく彼の脳内でも色々なことが渦巻いていたのだろう。

だが、その中には今言った言葉以上の想定が出てこなかったのだ。


ファルシオン隊長と同じだ。

『必ず助ける、見捨てはしない。

 だが、自分の事はいざという時は見捨てて良い。』

彼が隊長の部下だからだろうか、その精神を受け継いでいるのは。

いや、違う。

彼自身の精神性だ。

恐らく彼自身の圧縮の魔女とのやり取りの後に隊長から聞いたその出自故だろう。

隊長から聞いていた警察署内での内容だけでも、この前の一件でも、彼は人を見捨てようとしない。

明確な悪と善の線引き、誰かが誰かに襲われたならその両方を天秤に掛けず、襲われた方を助ける危うさ。

自然と口の端に笑みが漏れる。


「わかりました、ではそれでいきましょう。」

そう言いながら立ち上がり、周囲を警戒する。

普段している気配を読むという行動。

彼らにはどうやら気配はないらしい、あればすぐにでも気づくことが出来た。

気付けたのは扉の音を聞いて振り向いたからだ。

だからこそ、今度は気配だけではなく空気も読むことにする。

空気の対流、その動き、息遣い。

一つ一つに神経と聴覚をそばだて、自身の感覚を鋭敏に仕立て上げていく。

一つ前の扉はそもそも空いている。

中の空気に鳴動するものはない。

二つ目の扉、これも同じく、外に破損したドア。

三つ前の扉、扉は閉まっている。

中で何かが動く感覚、気配。

ごく小さなサイズの生き物、恐らく鼠か虫あたり。

ゆっくりと、進んでいく。

四つ目、扉の中に気配は無い、空気の鳴動。

細長い何かが動く感覚。

足を止める。


「  」

口を開けようとしたジェームスさんを手で制する。

「少しお待ちを。」

できるだけ小声でそう伝え、足音を殺して動く。

適当な抉れたコンクリートの塊を拾い上げ、計九つ目の扉の前に進み、四つ目の扉の前に投げ込んだ。

コンクリート片を貫く舌。

ジェームスさんの声が上がる、踏み込み、目の前のピンクの舌を切断する。

したつもりだったが、その前にコンクリートから舌が引き抜かれ、掃除機のコードのように戻っていく。

スッ、と。

扉の奥から小柄な、獣の頭骨をつけた一見少年のように見える存在が姿を現した。

が、身体は警告を発する。

先程の化生と同じく、これもまた異形である、と。


足の筋肉が不自然に膨張する、と同時に目の前から消える。

風の動きで解る。

上、そしてーー。


自身の足に力を込めーー腕に衝撃。

顔に左右から水がかかる、本来なら真っ赤に染まっていただろう。

後方の左右には切り分けられた化生の遺骸。

上手くいった、どうやら後ろの4人にも当たらなかったらしい。

飛んでくる方向が分かっているのなら刃を置いて置けばいいと思ったがその通りだった。

この刀の切れ味だからこそ上手くいっただけではある。

今はジェームスさんが持っている手持ちの小刀だとこうはいかなかっただろう。

髪から出来上がったことといい、僕の常識が音を立てて崩れていくのを感じる。

…まぁそれは今更か、この間参加出来なかった作戦でリコ副隊長とあのエンリケが殺されたのも未だに信じられない。


死体は見た、というかもうソレは完全に肉片としか形容できない物だった。

確認できたのは識別票とそれに埋もれた黒焦げの肉とぐちゃぐちゃに潰された肉片。

笑いながら僕の真剣を捌いていた2人は肉片に変わった。

2人がどこかで生きてるのではないかとすら思える。

あの時に、コレがあれば結果はーー

『馬鹿なこと考えていないで、あなたはなすべき事をしなさい。』

『私達は私達で幸せですよ、戦いの中で死ねたんですから。』

どことなくそんな風に、声が聞こえた気がした。


「フリオ、大丈夫か?」

シスさんの声。

「…ええ、大丈夫です。」

「すっげぇ! 俺此処から出たらフリオさんで一曲作るわ!」

ジェームスさんからの賞賛の声。

存外悪いものではない、と感じる。

「有難うございます、出来上がったら聞きにいきます。」

他の何かが動く気配はない。


ーーー?

ごく微かに聞こえる戦闘音のような音。

鋭敏化した感覚故に気付けたこの音はーー。

…油断してはいけない、それに勇気づけるようなことを言うわけにもいかない。

慢心と油断は容易く人の命を奪う。

「…早く此処から出ましょう。」

恐らく来ている、私の戦友達が。

ロドリーゴさんが、アンナさんが、ベリーさんが、デニス君が、チェルシーが、そして隊長が。

全員来ているかはわからない。

だが、この短時間で駆けつけられるのは恐らく彼らしかいない。

一騎当千の彼等しか。


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