View of a certain apparel clerk 2
「……それに関しては俺から伝える。」
シスが口を開く。
「まず、先に言っておく、俺の職業は警察官だ。」
こいつ警官だったのか。
ならもっと私への声の掛け方があったと思うけど。
いや、自分が冷静になるためだろうか。
冷静な人が1人はいた方が助かるといえば助かるのかな?
「一度、事件の捜査でここに来たことがある。
電気もつかず真っ暗で多分に水を含んだ湿気、そんでこのーー」
シスがコンコンと壁を叩いた。
「ーーアホみたいに太い柱。
この条件を満たしているのは間違いなくローク地下放水路くらいしかない。
まぁ俺達が訳わからんくらい遠くに連れ去られたのでなければだけどな。」
柱?
ついている明かりが小さすぎて分からなかったけど…改めて見てみたら確かにこれは滅茶苦茶に太い柱らしい。
角ばったところは一切ない滑らかな曲線、ただ太すぎる為に壁だと誤認していただけ。
「うわ、ホントだ。
でっか! 今度クラスの皆に……って携帯ないんだった。」
そうだ、携帯!
携帯があれば明るくーー……?
「あれ?」
「…やはり、皆さんそうですか。
私とシスさんも携帯電話とか時計などの電子機器関係は全て奪われていました。」
パンクも向こうのほうで「マジかよ!」とか叫んでいる。
「その割には刃物はあるからな。
…すまない、全員今持っている物を出してくれないか?」
シスがそう言う。
とは言われても、ポケットの中に入っているものなんて財布とバスの定期券程度しかない。
……後は飴が数個あった。
「…定期券と財布と飴程度で役に立ちそうなものは特に…。」
「私も学生証と財布と痴漢撃退スプレーくらいかな。
あ、後手鏡はポケット入れっぱなしだったわ。」
「財布とキーチェーンとメリケンサックくらいしか。」
シスがフリオの方を見て頷く。
「俺はタバコとライターと財布と手帳くらいだ。」
「僕は小がた…ナイフと干し肉と片刃のロングソードくらいですね。」
物騒だな執事。
何でそんなものを持ってるの?
鉄面皮も含めて正直怪しい。
いや、そう言えば...。
「お二人は知り合いなんですか?」
シスとフリオさんの方を見てそう問いを飛ばす。
「ああ」「ええ」
と2人揃って答える。
「私の雇い主の部下ですよ、シスさんは。」
「……いや、その通りだけどよ。」
成程、示し合わした感じもしない。
仲もそれなりに良さそうだし。
「取り敢えず、シスさんにはコレを渡しておきます。
僕はコレで。」
そう言いながらフリオさんがシスに松明を渡す。
「いいのか?
フリオの大事なもんじゃないのか。」
松明が大事なもの?
どう言う意味だろう、確かに光源の確保は……ってよく見たら上で燃えているのはシャツだ。
服は確かに大事に間違いない。
でも、最早燃えてしまっている服にそこまでの価値は無いのでは?
「長物あるなら一刀流の方が強いんですよ僕は。
それに囲まれたら皆さんを守り切れる自信がありませんし。
女性やそこの方より警官のシスさんの方がまだ刃物の扱いは上手いでしょう。」
…刃物?
「…折っても文句言うなよ。」
「割と僕が無茶に使ってても大丈夫なので、問題ないですよ。
最悪の場合打ち直しますし。」
そう言いながらフリオさんがチラリと見た先にはやはり松明。
「お、俺も戦うからさ!」
メリケンサックを手に嵌めたパンクが拳をブンブン振り回している。
どれだけはりきられても、そこの女子高生に何かしようとしていたと言う言葉を聞いた時点で、私の中で何をしようと株が上がることはない。
「いざという時はお願いします。」
「任せてくれよ!
これでも俺はボクシングジムに通ってた事もあるんだぜ!
なんだったらーー」
パンクのどうでも良い自慢話から耳を逸らして女子高生の近くに歩み寄り、シスとフリオさんの方を見て声をかけることにする。
「出口の目処はたってるんですか?」
「ああ、見えづらいだろうが、そこの階段の上に扉がある。」
そう言われて指で刺された方を見てみると、ようやく慣れてきた眼で薄らと階段が見える。
かなり上の方まで続いている、少なくとも松明の明かりでは見えない程に。
「ホントだ…そういやお姉さんの方は名前なんて言うの?」
急に女子高生が声をかけてくる。
たった2人しかいない女性同士、此処はキチンと自己紹介しておこう。
「シンディよ、シンディ・ジェーン。」
「へぇ、いい名前。
私はアルティ・サラセニア、よろしくねシンディお姉さん。」
感触は悪くないみたい。
良かった。
「俺はジェームスだ宜しくな、シス、フリオ!」
男共は男共同士仲良くなっているらしい。
と思ったが、シスは実に興味なさげだし、フリオさんの方も表情が崩れないから心の中では何を考えているかは分からない。
というか、あからさまに年上の2人に対してタメ口なのはなんで?
パンクな格好してるし、そうしないと舐められるとかなのか?
なんで考えているうちに、シスが手をパンパンと叩いた。
「話はもういいか?
とっとと出るぞ、何時何が来るかもわかんねぇからな。」
ふとした違和感。
何処をそう捉えたのかいまいち分からないけど、今のシスの言葉に若干の違和感を感じた。
……ああ、そうか、「誰が」ではなく「何が」と言ったことに対して。
まぁ恐らく私の聞き間違えか、この状態に緊張しているかも知れない彼の言い間違い。
噛むことくらい誰でもある。
「で、詳しくは説明できないが、聞きたいなら地下放水路に関しても話してやる。
どうする?」
「折角だから教えてよ。」
「俺も知りてぇ。」
アルティがげんなりした顔で溜息をつく。
パンクが顔を逸らした。
「…まぁ、説明するぞ。
ロークタウンは年間の降水量がアホみたいに多い。
近くにある河や、自然保護区の池だけじゃ受け口が足りない程度にな。
だから数十年前までは結構洪水とかも起こってたわけだ。」
「あ、それ学校の授業で聞いたかも。
60年前とかに水害ですごいことになったとか何とか。」
私も記憶の彼方にあったものが思い出された気がする。
仕事始めてからはまた雨か程度にしか思っていなかったけれど。
シスが頷く。
「その結果出来上がったのがこの放水路だ。
今は冬だから殆どないが、降雨量に応じて此処に水が貯蔵されて大凡70キロ先のポーツマスやサウザンプトンに排出されるようになっている。
そして、別の目的でも利用できるようにされている。」
「別の目的?」
「地下シェルターだな、此処を作ったメモリアルという企業は知ってるだろ?」
パンクが首を捻る。
「……?」
「確かすごい会社だよね、なんか村とか街が飢饉とか、疫病とか起きた時に、その街とか村を助ける……?
とか、何とか?
そんなふうにこの前学校の授業で習ったような?」
人類人理保護保証補完機関『メモリアル』。
誰もが羨む巨大国営企業。
だいたいアルティの言った内容であっている。
様々な情報を集め、仮に国が一つ滅んだとしてもすぐさま復帰させることができるだけの蓄えを用意しているという謳い文句の企業で国家予算の1割が使われているとこの前ニュースで見た。
実際、以前ワークソップの街で疫病が発生した際も、罹患者の隔離、治療、投薬。
街中の消毒、近隣の村街への侵入禁止宣言、ワークソップから各市町村に配送される物のメモリアル倉庫からの配送。
この全てを疫病発生発覚後3日以内に行い、被害を最小限に留めていた。
実際、疫病に罹患し亡くなった人間が1桁、疫病に感染した人間すら2桁に抑えている、と聞いて当時学生だった私はその英雄的行動に酷く感銘を受け勉学に勤しんだものだ。
まぁ、結果、学力が足りず志望大学にも合格できず、駄目元でエントリーしたアパレル会社の店員になっているわけだけれど。
あ、ちょっと悲しくなってきた。




