View of a certain apparel clerk 1
誰かが私を揺らす。
「ぃ……」
遠くから私を呼ぶ声がする。
今日は火曜日。
普通は働く日だけど私にとっては貴重な休み。
それに自宅に今日は男を連れ帰ったりしていない。
だから恐らくこれは夢。
「……ぃ、起きろ。」
本当に煩いな。
今日は休みだって言ってるのに。
ついこの間買ったふわふわのマットレ……。
ガチガチのマットレス……?
どちらかというとコンクリートの床のような。
ついでに、寒気が私の肌を刺す。
いや、これは……
「っ冷たっ!?」
「……起きたみたいだな。」
髭面にボサボサ頭の幸薄そうなおっさんの顔がうっすら見える。
あたりは暗い、かろうじておっさんの持っているライターの明かりだけが見える。
……っていうかどこココ。
「おい! フリオ!
こっちのは起きたぞ!」
急に大声で怒鳴るおっさん、よくその声はあたりによく響いていた。
「わかりました! こっちにお願いします!」
その声を聞いておっさんは立ち上がって後ろを振り向いて歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
急いで立ち上がり追いかける。
「…ねぇ、ちょっとどこなのココ。」
「恐らく、ローク地下放水路だ。」
「は? 何でそんなところに私がいるわけ?」
ボリボリとおっさんが頭を掻く。
「わからねぇな。」
ぶっきらぼうなその態度にカチンとくる。
「そもそもあんた、誰よ!
あんたが私を連れてきたんじゃないでしょうね!」
「それは違うな、俺も気づいたら此処にいた。」
「信じられないわよ!」
「そう思うならそう思っとけ、状況はかわらないからな。」
私は相変わらずだ、思ってもないことを口にする。
でもこの訳の分からない状況で頭が一杯一杯だ。
「シスさん。」
そう言いながら壁の影から出てきたのは、松明を持った上半身裸の四面四角の男だった。
「っぃ……。」
その無表情に声が出そうになる。
さらにその後ろから髪の毛を奇抜な形にしてアナーキーパンクな格好をした男1人とローク高等学校の服を着た目が覚めるような紅い髪の女子高生が1人。
「伸びてたのは俺たち含めて5本だったんだよな?」
「ですね、なのでこれで全員です。」
伸びていた? 何が?
「……はい、しつもーん。
おっさん達一体何? いきなり起こされてこんな場所ってマジで意味わかんないんですけど。」
図太いな、この女子高生。
「僕の名前はフリオ、セイジロウ・フリオ。
さるお屋敷で執事をしています。」
「シス・セーロスだ。」
四面四角とボサボサ髭面はぶっきらぼうにそう答えた。
「ふーん、で?
なんで私ここに居るの?」
ガンガン踏み込む。
怖いものなしか?
「それは俺達も分からないが、枷を壊すことには成功したから俺達だけ逃げるってのも寝覚めが悪いし、フリオと相談して全員で逃げるって話に決めたからお前たちを起こして回っただけだ。
こんな状況だ、人数は1人でも多い方がいい。」
「…まぁ確かにこんなところに置いていかれるなんてゾッとしないかな?
答えてくれてありがとおっさん。」
そう言いながら女子高生はパンク男の方を向く。
「…あんたもなんか聞きたいことがあるんじゃないの。」
「えっ!? いや、俺は! 何でもないかなぁ?」
「…だっさ。」
吐き捨てるように女子高生がパンク男からそっぽを向いた。
その様子を見てがっくりうな垂れるパンク男。
2人は知り合いなんだろうか。
「質問なら受け付けるのは受け付けますけど、僕たちも先程お二人に伝えたのと同じでこの場所以上の情報は知りません。
其処に扉があるのまでは確認しているので、そのまま出ていければと思ってはいるんですが…。」
思ってはいる。
思わせぶりな言葉。
「…何よ、何かあるの?」
「何かがいる可能性があります。
そもそも我々は恐らく攫われてきたのですから、攫ってきた何者かがいるのは間違いありません。」
確かにそうだ。
私が此処で目覚める前、仕事場で一寝入りをしてしまった為に気付けば明け方になっていた。
そのまま帰宅路に付き、首筋辺りに軽い衝撃を受けて意識が混濁して、気付いたらおっさん…シスに揺すられていた。
「因みに皆さんはどういう状況で此処にきました?
何かを見た人はいますか?」
フリオさんがそう言うや否や、すぐさま女子高生が「四角いおっさんは?」と聞き返した。
女子高生からの質問にも表情一つ崩さずに、フリオさんは答える。
「私は、お暇をいただいたので山で特訓をしていたんですが、何かの気配を感じて後ろを振り向くと同時に顎に衝撃があり昏倒しまして、そのまま気付いたら此処にいましたね。」
お屋敷の執事が?
山で特訓?
情報量が多い、どう言う状況?
執事って単に給仕とか着替えとかする仕事じゃないの?
「そっちのおっさんは?」
「俺は、知り合いの子供が家に遊びに来たから、朝飯と昼飯の買い出しに行って一服している時に襲われた。」
そう言うシス。
嘘っぽくは感じない。
「そこのクソパンクはいいや。」
「は!?おま……」
ジロリと女子高生にジト目で睨め付けられてパンクは黙った。
「私は、夜遊びしてて終電逃して、長い距離を歩いて帰ってたんだけど。
朝焼けが見えた後くらいに後頭部強打されてぇ、それで気付いたら此処にいた感じかな。」
グルリと周りを見て、私の方を見る女子高生。
「お姉さんは?」
「わ、私は昨日は仕事が忙しくて明け方に帰ってたら意識が切れて、気付いたら此処にいました。」
「お、お、俺は!」
パンク男が急に叫ぶ。
「俺は見たんだ! ピンク色の細長い何かが俺の首に巻きつくのを!」
ピンク色の細長い何か…?
「妄想はいい加減にしてくれない?
ドラッグのキメ過ぎか何か知らないけど寝てる私に手を出そうとしたよね。
この人が来てくれなかったらどうなってたか。」
「だから誤解だっつってんだろ!」
寝ている女子高生に手を出そうとしたのか。
最低な奴だ。
パンク男の言葉を無視するように女子高生が当たりを見渡した。
「で、何でここがローク地下放水路だって分かったわけ?
全員気絶してたんだよね、四角いおっさん。
後ついでに地下放水路って何?」
言われてみれば確かにそうだ、シスも言っていたがこんなに暗いのに何で場所がわかったのだろう。




