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Prologue3

「さて、今から直すがーー、その前に此れを吸ってくれるかのう。」

そう言いながら先ほど作ったものと別の薄い青色の5cmほどの短い紙巻きタバコを取り出し、デニスの前で指を使い器用にパタパタと動かした。

「タバコですか?」

「うむ、今から少し痛むのでな、痛みを無くす為の物じゃ。」

「分かりました、いただきます。」

と言いながらデニスがタバコを口に咥えると魔女が指先から火を出して火をつける。

寝転んだまま吸うデニスを見届け、魔女が青い蝋燭を部屋に点在している燭台に刺し、火をつけていく。

枕元にある燭台に火を付けたところでベッドのから声が上がる。


「吸い終わりました」

とデニス言うや否や、デニスの手の包帯を改めて解き、露出させると、何処からともなく取り出したシガーカッターをデニスの無くなった人差し指の先に嵌め、躊躇なく切断した。


「おっ、おっ、おまっ!」

呆然とした顔で言葉をろくに吐けなくなったシス警部を尻目に先程巻いた煙草を魔女が取り出し

「叱責なら後で受けてやるから少し黙っておれ。」とだけ伝える。


押し黙るシス警部を横目に煙草を咥え火をつける。

ジリジリジリと、非常にゆっくり煙草を吸っていくシガレット。

だが、1mlたりとも煙は漏れていない。


チッチッチッチッチッチッチッ。


壁にかけられた煙草と魔女のタバコのマークの意匠が入った時計が進む音だけが書斎に木霊する。


ーーーたっぷり20分かけ一本が吸い終わった。

フィルターを残し端まで灰になった煙草を取り、今度はゆっくりと、薄茶色の煙を細く吐き出し始めた。


人差し指のあったはずの部分にゆっくりとまとわりつく茶色の煙。

先程と同じく霧散するはずの煙草の煙が何故かデニスの指先に留まったまま折り重なっていく。


時計の針の音が鳴り響く中2分程で人差し指の形が作り上げられた。

それでも尚、長く細く魔女は茶色の煙を口から吐き続ける。


追加で8分、計10分。

タバコの吸い始めからは30分程の時間が過ぎた頃、ようやく魔女の口から煙が止まった。

吐き終わると同時に煙の茶色い色がゆっくりと薄れて、徐々に白い煙になっていく。

そして、魔女が息を吹きつけ白い煙が霧散するとーーーそこには無くなっていたはずのデニスの人差し指があった。

驚いた風に目を少し見開くデニス。

「動かしてみるといいぞ。」

人差し指はすんなりと動いた。

「うむ、問題なく直ったようじゃのう。」

「すごいですね…。」

「感覚はないじゃろうから、違和感はあると思うがもう少し我慢してもらうぞ?

 葉を間違えんでよかったわい、後三回あるからのう、一旦休憩じゃ。」

と言いながら、シガレットは普段から吸うタバコを取り出し火をつけ咥えると、棚からクッキー缶を取り出し、ベッド横のローテーブルに置きオットマンに腰掛けた。

ついでに近くにあったもう一つのオットマンをローテーブルの反対側に引きずる。


「で?シス君、ワシは何を待てばよかったのかのう?」

シス警部が用意してもらったオットマンに腰掛け終わった瞬間に、シガレットはタバコから口を離し、煙を吐きながら何時ものニヤニヤとした顔でシス警部に質問を投げかけた。

「お前なぁ、そんないきなり...その、それ...なんて言うんだ?」

逆の手の隙間から先ほど持っていた血のついているシガーカッターを取り出した。

「これか?これはシガーカッターと言ってな。」

タバコをローテーブルの上にあった灰皿に置き、代わりに葉巻を取り出すと端を穴に嵌め、指で押さえて切断する。

「こう使うモンじゃ。

 他にもこんな形の奴で穴を開けるように力を込めていくのをパンチカットという」

そう言いながらシガレットは銃弾のような形の器具を取り出して見せた。

「さっきのはフラットカットじゃな。

 パンチの方が風味と口当たりが良くなるのう。」

「ほぉ...。」

シス警部が葉巻を買って試してみたい気持ちになったのは言うまでもない。

「つまり、それはシガーを切る物であって?」

「人の肉を切る物ではないのう」

あっけらかんとシガレットが言い切った。


「...ソレで千切れた指とはいえ切断したらびっくりするに決まってんだろ!

 そもそも切断する意味があったのか!?」

キレ気味にシス警部が言葉尻を荒げる。

「シスさん、私の為に怒っていただけるのは有難いんですが、治ってるんで構いません。」

「そうそう、直したんじゃから固いことはいいっこなしじゃろ?」


その言葉を聞いたシス警部が頭をガシガシと掻きむしり、ため息をついた。

その様子を見て、シガレットが口角を上げ、灰皿からタバコを持ち直して口に咥える。

「切断面が必要じゃったんじゃよ。

 医者でも神経接続の為とか血管縫合の為とかに傷口をこじ開けるじゃろ?」

開けたクッキー缶の中身をデニスに手渡しながらシス警部が目を瞑りながら天を仰ぎ見た。

「...いや、まぁお前が俺達の理屈に合わないことを平気でやるのは知っているが...常識外のことをされたら流石に止めたくなる。

 せめて何するのか宣言してくれ、この前の自殺未遂の時も言われてただろ」

「言ったら止めとったじゃろ?」

と言われて、シス警部は押し黙った。


「すまんすまん、少し意地悪じゃったな。

 じゃが時間が経てば経つほど直すのが難しくなるんでな。

 ...お主の時ほど簡単には治せんのじゃよ。」

そう言いながら、シガレットがシス警部の脚を見る。


「...ありがとな。」

突然、シス警部の口から感謝の言葉が飛び出した。

呆けた面でシス警部の方を見るシガレット。

デニスも首を傾げる。

「いや、この前は感謝の言葉を述べて無かったからよ...」


目が薄く細まり、タバコを咥えたままのシガレットの頬が緩む。

「カカッ、気にせんで良いわい。

 ーーーどう致しまして、シス君。」

そう言いながら、立ち上がる。


「さて、一服したし、次を始めるとしようかのう。」

そう言って魔女は書斎の机の方に向かった。

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