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Cigarette so far Story and future story 4

「あっ」

頭の中身が明瞭になる。

この間のクラリス・クランの一件でシガレットが想定していた存在の1人が水の魔女だった。

骨頭が死体だと考えるなら間違ってはいないのか?

「何か知っているんですか?」

「いや、以前シガレットの奴から軽く話を聞いた事がある程度なんだが。」

「今はどんな小さな情報でも欲しいですから、良かったら聴かせてもらえますか?」

何時もの表情のままズイッと顔を近づけられる。

有無を言わさぬ迫力。

別に隠すつもりは一切無いが、答えなければならないという圧力を感じる。

「お、おう。」

そこで知っている事を話す。

アリアナという名前の死体を操ることも出来る水の操作をする魔女である可能性があるという事。

シガレットの言う異能の力が成長している可能性があるという事。

操る死体の弱点の事。

話せず、腐り、同時に動かせるのは一つまで。

「……なるほど、有難うございます。

 まず、一つお伝えする事があります。」

「…なんだ?」

「間違いなく異能の力とやらは成長していると思われます。」

「…どういうことだ。」

チェルシーから聞いた話からは相違は特に何もなかった気がする。

「シスさんが攫われた時間はいつ頃でしたか?」

「朝だな、午前7時くらいじゃないか?」

「私はその10分後くらいです。

 シスさんの家から僕がいた山までは数キロありますから、どう足掻いても間に合わないと考えられます。」

さも当然のようにこいつも俺の家を知っているのか。

頭が痛くなってくる。

「当然憶測ですが、ここにいる人々のことを考えても件の死体は一つではないでしょう。」

確かに、そう言われればそうか。

「他の能力も軒並み上がっている可能性があるってことか?」

「そう思って動くのが賢明でしょうね。」


そう言いながらフリオが頷き、シャツとズボンの隙間から何かを取り出した。

「まぁ、取り敢えず試してみます。

 シスさん、これ返しますね。」

火のついたライターを手渡しそう言いながらフリオが持っていたのは一本の滑らかに見える木の棒。

グッと力を込めると木の棒に横の一本線。

そこから白銀の刀身がゆっくりと姿を表した。

ゆっくりと息を吐き、その息の間隔と共に抜き放たれていく刃。

空気がドンドンと張り詰めていく。


気付けば、俺はたまった唾を飲み込むことすら忘れて、その状況を見ていた。

見ているだけにも関わらず、自分の心臓の音が爆音に聞こえる。


抜き放たれた刃がゆっくりと頭頂へと掲げられた瞬間、フリオの目が見開かれ息を小さく力強く吐き出しながら、ライターのオレンジ色の火に照らされた白刃が何度か煌めいた。


1秒にも満たない時間の間に頭の上にまた刃が戻る。

そして息を長く吐き出しながらフリオが鞘に刃を戻した。

キンッという高い音と共に水球に数本の亀裂が入る。

そして、激しい音と共に弾け飛んだーーーが、飛び散る前に空中で止まったとしか表現仕様のない状態になり、そのままビデオ録画の早戻しのように元の形に戻る。


「……ダメでしたか、所詮私程度ではこの程度ですね。」

何をしたかは分からないが、凄まじい事が起きたのは分かる。

水を刀で破裂させる、なんてこと普通出来るはずがない。

そもそも流体を切断することすら本来不可能だ。

切断どころか破裂させている時点で、恐ろしい何かしらの技術が使われていたのだろう。


「すいません、シスさん。

 お力になれず。」

そう言いながら俺に対して丁寧に頭を下げるフリオ。

「いや、いやいやいや。

 謝らないでくれ、俺はそもそもこれに対して何もできないし解決法も思いつかないんだ。」

だが、それでも首を振る。

「せめて部屋に置いてきてしまっている『兼虎かねとら』だけでも有れば、破壊しきれるかも知れませんが。

 私が適当に作ったこれでは……」

「それ自分で作ったのか。」

「えぇ」

素直に感心する。

適当に作ったにしては非常に良くできている気がする。

あの爺さんが持っていた剣に似ているが、フリオは同じ国出身なのだろうか。

「まぁ所詮僕では剣聖様の足元にも及ばないですね。

 かの方は刀を自分で打ち、それを振るい鬼神のような働きを今も見せていると聞きますし。」

「剣聖ねぇ、どんな奴なんだ?」

こんな凄まじいものを見せたフリオがそこまで謙遜する相手、流石に気になる。

横を見ると、フリオが目をパチクリと見開いた。

「…なんだ?」

「いえ、シスさんはこんな話は興味無いのでは無いかと勝手に思っていたので、驚いただけです。」

どういう風に俺は見られているのだろうか。

「あ、いえいえ、失礼な事を言いました。

 申し訳ございません。

 折角なので剣聖様についてお話しします。」


そこからフリオの話が始まった。

普段の倍以上饒舌に彼は語り出した。


「まず、初めて剣聖様が確認されたのは130年程前、私の祖国では明治と呼ばれる時代になります。

 その頃明治維新という戦争みたいな物がありました。

 此方でいう王朝に地方領主が手を組んで反旗を翻したと言えば分かりやすいでしょうか。」

「えらい反逆だな。」

普通に考えれば勝ち目がなさそうなものだが。

「まぁ、盤石な体勢なら崩れる筈も無い牙城だった訳なんですが、維新が起こる前に色々なことがあったんですよ。」

色々な事ねぇ……。

「例えばどんな?」

「本当に興味があるんですね?

 一つは『黒船』と言われる巨大な船が舶来しました。

 当時、私の祖国は200年ほど鎖国といって海外からの渡来を極小の土地内に制限していました。

 ソレを海外の人間が巨大な兵器を持って開けろと迫ってきたわけですね。」

成程、200年とはまた長い間国交を断っていたもんだ。

「その黒船がやってきた為に時の政府は選択に迫られました。

 まぁ他にもその頃、数年の間に山程大型の地震が起こった挙げ句、コレラだかチフスだかが(※作者注:コレラ)城下町に蔓延した所為で更に打撃を受けたわけです。」

泣きっ面に蜂というか何というか。

どんな業を背負ったらそんな状況になるのだろうか。

神に見放されたとしか思えない。

「そんなこんなで明治維新と言われる戦争のようなものが始まりました。

 其処で活躍していた人斬りが何人かいたんです。

 有名なところだと田中新兵衛、河上彦斎、中村半次郎、岡田以蔵の四大人斬り。

 と言っても、シスさんには何のことやらという感じでしょうが。」

「まぁそうだな、そう言った名前のやつがいたということ程度しか俺には伝わらない。

 まぁ、でもビッグネームなわけだろ? そっちの国では。」

そう言うとフリオは微妙な表情をした。

「正直、人殺しなので其処まで大々的に授業で習ったりはしませんでしたね。

 私も剣術家の一族の出でなければ、名前すら知らなかったでしょう。

 まぁ、逆に言うと剣術家の中では有名であることに間違いはないわけです。」

成る程、確かにそう言うものなのかもしれない。

自分で調べようと思わないと出てこない内容は結構あったりする。

この国の魔女に対する対応に関してもそうだ。

警察組織と政府くらいしか魔女については知らないのではないだろうか。

どうやっているかは知らないが、この前の一件も世間一般には都市伝説に落とし込まれている。

蓑虫男だったか何だったか。


「その、人斬りのうちの1人がある日綺麗に首を斬られて死んでいたんです。

 誰を殺したという罪状の付いた複数枚の半紙と共に川縁に打ち捨てられていました。」

「…まさか。」

デニスが頷く。

「これが、剣聖様の初仕事だったと聞きます。

 当時10歳のことだったとも。」

「じゅっ……。」

たかが10歳の子供が手練れの剣士を殺した?

ファンタジーの世界じゃないんだぞ?

「私も伝達でしか知りませんが、これまたきちんとした立ち会いの元、決闘が行われていたそうです。

 その様子を見ていた町人の手記が残っているそうで。

 まぁ、眉唾物ですけどね。」

まぁ、嘘だと思いたい気持ちは分かる。

が、同じくらいの年の少女が人を斬り殺そうとしていたのを、というか俺すら斬り殺そうとしていたのを知っている俺としては単に嘘とも言い切れない。

「その後残る三人も、同惨殺体として発見されました。

 ですが、その頃には政府は重要人物を複数名殺されたことにより疲弊、結局瓦解は免れなかった。」

まぁ、地震と疫病でボロボロなところにとどめを刺されたようなものだろう。

たった1人のヒーローの登場ではどうしようもないこともあると言うことか。


「次に剣聖様が歴史に出てくるのはその8年後と聞いています。

 18歳になったのを境に表舞台に踊り出したわけですね。

 数多の武芸者が、竹刀、木刀、真剣問わず敗北を重ねる神童が居ると。」

少々興奮気味に話している気がする。

若干鼻息が荒い。

「神道流系、念流系、一刀流系、隠流系、新陰流系、二天一流系問わず、ありとあらゆる武芸者が敗北を重ね、剣術のみならず、槍の宝蔵院や薙刀、弓術、砲術すら下した怪物が居ると!」

語尾が上がった。

間違いなく興奮している。

「その後起きた銃弾飛び交う戦争に幾度も出陣し、刃一本で飛び込み戦果を上げ続けた怪物!

 本当か嘘か、飛行機械すら寸断したとすら言われるその方こそが、剣聖、彼方兼定様なわけです。

 御歳120歳を越えて既に剣仙の域に達しているとも聞きます。」


飛行機械って戦闘機のことか?

流石にそれは嘘ーー……オチカタカネサダ?

最近聞いた名前に似ている。

いや、待てそもそも東国ではファーストネームとファミリーネームが逆だと聞いたことがある。

カネサダ・オチカタ?

「…なぁデニス、そのオチカタカネサダって言うのは割と歳を食ってる白髪の爺さんか?」

「? まぁ、120歳を超えている筈なので老爺ではあるでしょうね。」

確かにそうか、他の特徴は……。

「剣の扱いがべらぼうに上手い?」

「ええ、まぁ何と言っても剣聖と呼ばれる程なので。」

そりゃそうだ。

他、他。

「弟子の名前はセッカ?」

「弟子…あぁ、確か風の上で私も祖父からの頼りで聞きましたね。

 女の子を連れ歩いていると。

 …え? シスさん何でそんなことを?」

間違いない。

この前出会ったあの爺さんだ。

「なぁ、一つ聞きたいんだが。」

「僕の質問に答える前にですか?」

俺は頷いた。

「…まぁ良いですけど、何ですか?」

「オチカタの持ってた刀で同じことをしたとしたら、あれ壊せるか?」

「…シスさん、貴方、何を言っているんですか…?」

財布を開き、ジプロックに入れた一本の白髪を取り出した。

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