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BLACKDOC in HOUSE 5

「「ありがとぉ、シスんごぉ。」」

「ありがとうございます、シスさん。」

そう言った矢先にノワールの2人がテーブルの砂糖を空けてティースプーンに山盛り6杯ほど淹れて飲み始めた。

「脳味噌を使った後はぁ〜甘い物ぉ〜」

そう言いながら、いつの間にか置いてあった鞄の中から紙袋を取り出す。

その中から何か白い……まさかとは思うが真ん中に穴が空いてるのを鑑みるにドーナツか…?

目を凝らすと白い隙間には白味がかった黒色。

チョコドーナツに砂糖コーティングしてその上から更に大量の粉糖がかかっているのかこれ?

見るだけで口の中が甘みでいっぱいになるし、胸焼けする。

「ジロジロ見てもぉ」「あげないよぉ?」

それは助かる。

そんなもんを食わされた暁には脳味噌が糖分で蕩けて死ぬかもしれない。


そもそも昨晩の晩飯で割と腹は満ちている。

「いや、別に大丈夫だ、2人で食べてくれ。」

そう言うとさぞかし美味そうに2人はドーナツを食べさせ合い始めた。

まぁ……何も言うまい。

デニスはデニスでブラックでコーヒーを飲んでいる。

口に合えばいいが、その表情からは上手いのか不味いのか普通なのかはわからない。

署長の家の珈琲とは質は数段では済まないくらい落ちるだろうから、泥水と変わらないと思われているかもしれない。

いや、卑屈に考えすぎか。


「TVかけていーぃ?」

「……好きにしろ。」

机の上に置いていたリモコンの電源を押し、TVを点けて男の方に手渡した。

丁度、テロ集団が正義の味方に鎮圧されたという話をやっていたが、すぐにカートゥーン調のキャラクターが動き回るアニメ番組に変わる。

それを見て、死ぬほど甘そうなドーナツを食いながら、足りなかったのかティースプーンに盛った砂糖を追加でコーヒーに入れて飲む2人はケタケタと笑っている。

カラフルな髪の色も含めて、異常な世界が展開されているようにしか見えない。

次々とドーナツを消化して、最後には勝手に俺の冷蔵庫の牛乳にこれまた大量のガムシロップを混ぜて飲み干した2人が、お互いの砂糖のついた手を舐め合い、その後にキッチンシンクで手を洗うのを、どこか映画でも見ている感覚でぼーっと見ていた。

デニスは事あるごとに「後で掃除します」とか「牛乳は後で購入しますね」とか言っていたが、俺自身は生返事を返していた。

この数十分、現実感が無い映画でも見ていたような気がしたが、アニメが終わると同時に女の方がTVを切った。

そこで漸く、俺の意識も現実に戻る。


「んじゃぁ私達は帰るねぇ。」

「会わないことをぉ祈っているよぉ、シスんご、デニちん。」

そう言うや否や2人はそう言って席を立った。

不思議な挨拶だと思ったが、確かに彼らに会う時は怪我なり病気なりになった時であることを考えると確かに言わんとすることは伝わる。

「ああ、そうだな、俺もできれば合わない事を祈るよ。

 …連絡取って飯でも食う話にならない限りはな。」

そう返すとキョトンとした面で此方を見た。

「私達とぉ、ご飯をぉ?」

「食べたいんだぁ、珍しい人だなぁ。」

「「シスんごはいい人だねぇ。」」

そう言い、くすくす笑いながら玄関を開け、閉じる音がした。

大きなため息。

横を見るとデニスが大きく伸びをしていた。

「気を抜いてるんじゃないわよ。」

そう言いながらデニスの頭を叩いたのはベリーだった。

…いつから起きていたのだろうか、少なくとも先程片付けをした時は床で寝ていたように見えたが。


「姉さん、起きていたなら片付け手伝ってくださいよ。」

「無理ね、寝顔を見るのと撮るのでいっぱいいっぱいだったから。」

そう言うベリーの右手には携帯がある。

まぁ、こんな事を言いながらでも俺達を護る為に気は張ってくれていたのだろう、多分、恐らく、きっと……いや、自信がなくなってきたな。

コイツの場合はマジで趣味の可能性もあるかもしれない。


「後、あの2人苦手なのよ。

 間延びした喋り方とか、仕事の後に必ず食べさせ合うあの気持ち悪いドーナツとか。」

普段通りの行動ではある事を考えると少し笑えてくる。

ベリーが起きているのであれば、先程覗いた時に絶望的なまでに何も入っていなかった冷蔵庫の中身を補充しに行っても問題ないだろう。

近くのコンビニにデニスと一緒に行くとしよう。


「デニス、一緒にコンビニに付いてきてくれるか?」

「待ちなさい。」

ベリーから突然の待ったがかかる。

「今回は私が付き添うわ。」

此方をまっすぐ見ながらそう言ってきた。

……どう言う了見だろうか。

全く想像がつかない、俺に何か用があるのか……?

「何か言いたそうな顔してるけれど、拒否権は無いから。」

「拒否をするつもりは無いが...」

「する気ないなら行くわよ。」

そう言いながら勝手に俺のハンガーラックにかけていたトレンチコートを引っさらい俺を待たずに外に出る。

…何がしたいんだあいつは。

「早く行ったほうがいいですよ、シスさん。」

デニスが俺の方を見てそう言う。

なんで?と聞く前に答えはすぐに帰ってきた。

「姉はすぐブツので。」

好き放題言った挙句に殴ってくると。

そう言えば初めて会った時もすぐに殺気を放っていた。

喧嘩っ早いのか、狙撃手の癖に。


そう思いながら扉を開くと、拳骨が飛んできた。

既の所でかわす。

足に衝撃、払われた?

マズい、このままではドアノブに頭がーーー。


「生意気にもかわすからそうなるのよ。」

そう言いながら、頭を支えたのは拳を出したのと同じ掌だった。

「もうチェルシー達から聞いてるだろうから知ってるだろうけど、今回は護衛目的、うろちょろされると困るからね。」

俺の目と鼻の先に普通に整った目鼻立ちのベリーの顔が突きつけられる。

別に今更女に顔を突きつけられた所でなんとも思う歳でもないが、コイツ自身は恥ずかしく思ったりしないのだろうか。


などと考えてる最中、そのまま腕をぐいっと引っ張られて起き上がらされた。

「どうせすぐ其処のリンガーマートでしょ?」

俺が頷くと、ベリーは踵を返し、肩で風を切りながら歩き始める。

まぁ、なんだかんだ言っても、俺のことを護衛してくれるらしい。

それが自分が望んでいる望んでいないに関わらずだ。

正直、俺風情を護ってくれるなんて非常に有り難くは思う。

そんなことを考えながら、俺はベリーの尻を追いかけた。

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