Encounter between a girl and a witch 4
もう一度目を覚ました時、私は塔の一室に戻されていた。
「起きましたか、気分はどうですか?」
声のした方をベッドに入ったまま向くと、其処にはシルヴィア様が居た。
「そんなに……良くはないです。」
目を伏せながらそう答えるのが精一杯だった。
耳が痛くなる静寂が辺りを支配する。
この前は聞こえた風の音も、鳥の鳴き声も一切聞こえない。
夜だというのもあるかも知れないけれど。
静寂を破ったのは小さな溜息の音だった。
「昨日からの貴女の言葉に対して、私も一度考え直しました。」
そして、シルヴィア様がポツリと言葉を発し始めた。
「私の記憶にも差異があります。
私の記憶が正しければこの街に住む魔女の人数は813名ではなく814名だった筈なのです。
ですがーーー」
「その記憶が、急速に失われているんじゃないですか…?」
私の言葉に対して、シルヴィア様が頷く。
「恐らく、貴女と同じです。
その写真を貴女が見せに来て、一瞬思い浮かんだ記憶がありましたが、私の近くにいた筈の何者か、その記憶が急速に失われ、私1人か、別の者が近くにいる状況で補完されて行く感覚。」
私は、固唾を飲みながらシルヴィア様の告白を聞いた。
「何とか、言葉にして無理矢理思い出し、今は盾の異能で自身の心の中に今話した記憶を繋ぎ止めていますが、この強烈な違和感の中に貴女の持つ写真の中の存在にそっくりな誰かが居る筈なのです。」
頬を汗が伝う。
「写真の者の名前は思い出せませんが、恐らく何らかの異能でその者は私達の記憶を弄った、もしくは何かしらの魔女が我々の脳から彼女の存在を消す必要があったのでしょう。」
どうしてそんなことをする必要があったのだろうか。
私の家族の記憶を奪う理由は何処にあるのだろうか。
この世にそもそも居なかったかのようにする意味と理由は、どこにあるのだろうか。
私の恐らく姉であろう存在が自分自身でやったのであれば、何故なのか。
もしも他者が私の姉の記憶を全ての知り合いから消したのであれば、それは横暴という言葉では足りない程の何かだ。
「せっかく災厄を退けたというのに、別の問題とは……頭が痛くなりますね。」
シルヴィア様の口から災厄と言う新しい単語が出てきた、私が気がつくまでの間に一体何があったのだろうか。
そう一瞬思ったが、そんなことは関係ない。
災厄とやらを退けたのであれば、私は自分の姉を探せばいい。
そうすれば、シルヴィア様の頭痛の種も一つ減る。
「あらかじめ言っておきますが、アリアナ、貴方は暫く動いてはなりませんよ」
「なぜですか!?」
「単純な話です、我々の記憶から消された存在が仮に貴方の言う通りに姉だったとしましょう。
どういう異能を持った相手なのか分からない、対策も打ちようがありません。
そんな中、個人で動けばどうなるかわかりますか?」
自分の命が脅かされる。
そんなことは分かっている。
「貴方の顔を見ればわかります。
命に危機が及ぶ程度で考えているのでしょう。
現実はもっと恐ろしいかもしれません。」
どういう事かわからない。
死よりも尚恐ろしい事?
「どういう意味ですか……?」
シルヴィア様がため息をつき、此方を軽く睨んだ。
それだけの動作で、私の頭頂から足の指先までが凍りつく。
「貴女も貴女の姉と同じ様に記憶の欠片すら残らぬ様に消されるかも知れないという事です。
貴女もでしょうが、私も最早彼女との記憶は一切ありません。」
例えそうであったとしても。
「姉さんを探さない理由にはならない。
記憶を消されたという事は、きっと死んでいないという事だから。」
本人がしたにしても、他人がしたにしても、記憶を消す理由は何かしら知られてはいけない不都合があるからだ。
仮に殺されてしまっているならば、記憶を消す必要はない。
死人に口無し、話すことすらできないのなら不都合はない。
もしも本人の異能だったとしても、それならそれで何故家族である私の記憶すらも消したのか問い詰めなければ気が済まない。
「…こう話している間にも貴女の写真以外の確証が無くなりつつあります。
そして、我々の記憶を消せたという事はこの世界の全員の記憶から消えている可能性もあります。」
「たとえ別の名を名乗っていても、本人を見かけた記憶は必ずある筈だし、ソレを追えばきっと見つかる筈です。」
今度は目を瞑り、大きなため息。
呆れ果てたような、である。
「まぁ、気持ちは分かります。
私にもそのような血気盛んな時期が在りましたからね。
……何を言っても貴女は行くのでしょう。」
私は頷く。
決意と使命に瞳を燃やし。
たった1人の家族を迎えにいくために。
もう一度、大きなため息。
「好きになさい。
事実上オルガナは街としての機能を失いました、再建までは非常に時間がかかるでしょう。
魔女の、街としての機能は記録の魔女のレコーディアが居なくなった時点で……?」
どうしたのだろうか、気絶する前と同じように言葉に詰まっている。
「どうしましたか?」
「いえ、なんでもありません。
街としては機能しなくなっています、本来なら人手が必要なので引き留めたいところですが……姉が見つかったら姉共々馬車馬のように働いてもらいますよ。」
私は頷く。
「アルバの導きが在らんことを、遠き星の下で祈ることにしましょう。」
そう告げ、椅子から立ち上がりシルヴィア様が扉から外に出た。
窓から外を見て、夢想する。
瞬く星に、煌めく月に、ポケットの中に辛うじて残された姉の残滓に。
窓を薄く開け、決意する。
必ず、何があっても、姉を見つけるのだと。
そして、数日過ぎ、出立の時が来た。
誰1人として見送りには来ない。
否、来れない。
ある者は嘆き悲しみ、ある者は狂い、ある者は怨嗟の声で叫ぶ。
ある者は次のことを考え、ある者は復旧の為に動き、ある者は私と同じ様に出立した。
最早、救いのなくなったこの街に残る者はどれほど居るのだろうか。
一瞬、後ろ髪を引かれるがその思いを噛み締め、飲み込み、私は焦土と化した森を見据える。
抉り取られた元正門の前で、たった1人の私の思い通りに動く奴隷を従えて。
ジャヴァウォッキーと名付けたこれと、写真と金庫の全財産を持って、私は街を背に歩き出した。




