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Encounter between a girl and a witch 2

 川がせせらぐ音が響く森の中に地を駆る音が二つ響く。

草を踏む音、土を踏む音、石が弾かれる音、根を踏みながら破砕する音。

トットットッと、木の床でも踏んでいるかの様な軽やかな音。

乱雑に走る何かの足音に、軽やかに走る音が徐々にーーー追いついた。


ついで響くのは舌打ちの音と

「ジャヴァウォッキー!」と叫ぶ声。

そして、嗄れた不自然な叫び声。

その声を聞いて、眠りについていた筈の生物すらも目を覚まし、辺りから鳴きながら逃げ出した。

肉食動物も、草食動物も、昆虫すらも。


獣の様な呼吸音だけが森の中に木霊する。

その状況を破るのは矢張りシガレットだった。


「便利じゃのう、ワシの家にも一匹くれんか?」

軽口を叩き、いつものマークの入った白い煙草を咥え笑いながら、シガレットが指先の火をつけると同時に獣骨頭の異形が目の前から消える。

次の瞬間、両脚の全30本の指がシガレットの顔面を捉えるが、頭が霧散し異形はシガレットの頭をすり抜けた。


アリアナが目を凝らすと周囲の木々の隙間からシガレットが現れる。

1人、2人、3人、4人。

『ほれ、どうした? ワシはここじゃぞ?』

全部で9人のシガレットが同時に口を開き、頭を再構築し、木の上に座り、腕を組み立ち、地面に体制を崩して転んでいた異形の顔を覗き込み、ケラケラと笑い始める。


「そう……殺すくらいの気持ちでやらなきゃいけないって事よね。

 私程度の力だと捉えるつもりなんて甘い話じゃいけないって事よね?」

急にそう言うアリアナの様子を見て、それぞれのシガレットが眉根を寄せて舌を出したり、頭を振ったり、失笑したりしながら声を揃えた。

『どうしてそう言う結論になるんじゃ?

 街を消す理由も、ワシに本気を出す必要もあるまい。

 ワシはお主の探している姉とは別人、それで全ての話は終わりじゃろう?』


一瞬、素の顔に戻ったアリアナだったが、瞬きの後には様々な感情が混ざった表情をする。

「私の記憶がおかしくなっているんだから、姉さんもそうかもしれないでしょ?

 私は、ずっと探してきた。

 この写真達だけを頼りに、姉さんの事を必死で!

 ……探してきたんだよ?」

頭を掻きむしりながら、そう叫び、急に落ち着く。

頭を振って、9人のシガレットの方を向き直した時には、先程と同じような何処か狂気を孕んだ瞳をしていた。


「だから、貴方が姉さんなの。」

『狂っておるのぅ。』

「五月蝿い! 舌を振るえ!」

その言葉と共に、異形のやたらと長い舌筋がうねった。

鞭の先端の様な破裂音が響くと同時に、シガレットの頭が3つ弾け飛び、周囲の木々が切断される。


『ワシを3人も殺すとは、中々容赦無いのぅ。』

「そうやって笑ってられるのも今のうちよ。」

そう言う間も異形は舌を振るい続ける。

視認できない程のスピードの、数メートルはある舌が木々を、シガレットを、地面を滅茶苦茶に抉る。

特にかわす様子もなく、ニヤニヤと抉られながら笑うシガレットを見てアリアナが睨め付ける。


1人、また1人と高速で体を削り飛ばされ、シガレットが霧散し、数十秒経つ頃には辺りは更地になり残ったシガレットは1人となっていた。

異形の荒れ狂う舌筋が止まり、アリアナが目の前に歩み寄る。

「ほう、なぜワシを残した?」

傷一つないシガレットを前に、「それ」と言いながらアリアナが指を刺した。

シガレットが刺された頬を摩る、そこには小さな傷がついていた。

「煙でできた人形達には傷が無かったわ。」

「ふむ、で?」

「……?」

アリアナが首を傾げる。


「ワシを殺す気持ちでやるんじゃろ?」

そう言いながら、シガレットが自分の頭を人差し指でつつく。

「力の差は分かっ」

「まだ、この程度では全く分からんのう。」

アリアナの言葉を遮りシガレットが被せて話す。

ギリッと、歯が軋む音が静かな森の中に響いた。

「…ジャヴァウォッキー……!」

逡巡が挟まるその言葉と共に、異形がもう一度舌をうねらせた。

頭に迫るその舌をかわす事なく、シガレットの頭が弾けとび、脳漿をぶち撒け膝から崩れ落ちた。

綺麗に失われた頭、千切られた首の切断面からは血液と吐瀉物が溢れ出し、地面に倒れ伏せた体がビクリと跳ねる。

そのまま、森に静寂が戻る。

アリアナの目の前の死骸は数度痙攣を見せた後、完全な沈黙を保っていた。


「……ぇ?」

呆然としていたアリアナが数分経ちようやく絞り出したのはその言葉だった。


死ぬ筈がない、そう思っていた。

煙草の煙で自身を増やしていたこの魔女が。

どうなっているか分からないが、ジャヴァウォッキーの走る速度に追いついてくる私の姉が。

死ぬはずは、無い、と。

心の何処かで思っていた。

そのアリアナが目の前の惨状を見て何を思ったのか。


ソレは奔流だった、悲しみ、怒り、恐れ、絶望、諦観。

ありとあらゆる物が混じったその感覚がアリアナの心を支配していく。

そして、ポツリと涙が零れ落ちる。

「そん…な。」

頭の無くした遺骸の前で、言葉を漏らすその姿は年相応の少女のソレに見える。


「姉さん、どうして?

 死んだふり? 死んだふりなんてらしくないよ?

 死なないから攻撃してこいって挑発して来たじゃない。

 なんで? どうして? こんな私を苦しめようとするの?」

そう涙声で矢継ぎ早に言葉を発する。

「…そんなに街の人間共が大切だったの……?

 妹の私より、残ったたった1人の親族の私より?

 この40年間探し回って来た私よりも……?

 たった40年以下で親愛を育んだ人間の方が?

 許せない、許せない、許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!」


落涙が、血涙に変わる。

下唇を強く噛んだのか血が滲む。

血走った目が街の方角を向く。

「全部、全部アレがあるからだ。

 アレを壊せば姉さんもきっと戻ってくる。

 そして、私を殺してくれる。」


少女は壊れていた。

姉を追い求めるが故に。

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