ep33. どうにもできねぇのか? ……⑥
森林の中に小さく開けた場所……その中心に背中合わせで周囲を警戒する三体のゴブリンが居た。
特徴からしてホブゴブリン。メイジとスカウト、そして棍棒を備えた前衛……その三体が広場の中心に位置取り、周囲を警戒している?
(前衛・後衛・索敵と最低限のバランスを確保した構成……偵察隊か?)
エンペラーキャニオンには大量のゴブリンが巣食っていると言うが……大抵は同種か近縁種の群れで、あんな組み合わせなんて聞いた事がないぞ?
俺の意識がほんの一瞬逸れたその時……
「どうした? 掛かって来ないのか?」
不意に響く声??
(なっ?? いったい何処から?)
声の方向へ視線を送ると……そこにはあの迷彩ローブのプレイヤーが、広場の端からゴブリンへと向かって歩き始めていた。
(馬鹿な! 探知スキルを切った訳じゃないんだぞ!?)
俺の索敵・探知スキル“気配感知”は、発動した瞬間に周辺へ“波”を広げて状況を感知し、その結果をステータスの“レーダー画面”に表示する事が出来る。
一度の発動時間を長くすればより広範囲を索敵出来るし、狭い範囲なら一定間隔で連続発動することで“リアルタイムの変化”も知覚出来る。
だが……
(おかしいだろ?! 奴が現れた場所には人の気配なんてまったく存在してなかったはずだ?!)
G.O.Dには俺の“気配隠蔽”の様に自分の存在を隠蔽するスキルも複数存在する。だが、それならそれで気配を絶ったままゴブリンどもを奇襲する方が理に叶っているはずだ。
それなのに……なんでわざわざ自分の存在を知らせた?
「………」
- ドッ -
前衛を張っていたホブが動いた。無言で分隊を離れると巨大な棍棒を腰だめに男へと走る。と……
(あれは?!)
その背後を追走するようにスカウトが走りだした?!
(時間差攻撃?!)
前衛への対処で出来る隙を突く気か? 他の攻撃に乗じて奇襲する程度ならまだしも……
「近接戦闘での連携? 何の冗談だ?!」
一方……狙われたローブの男はベルトに提げた一対の鞘から剣を抜き放った。
ホブの棍棒からすればいっそ頼りないと言えるほどに細身の片刃剣……
(あれは……日本刀ってやつか?)
疾走してくるホブゴブリンは分隊の中でも一回りは大きい前衛だ。そしてそいつが走りながら振り上げた棍棒は……子供の体躯程もある!
(本物は凄まじい切れ味と細身に似合わない強靭さを兼ね備えているというが……あの棍棒を受け止めるのはさすがに無理だろ!)
……男はだらりと下げた両手に日本刀を握ったまま……微動だにしない??
「馬鹿野郎! 何してやがる!」
俺は思わず男の方へ走り出しそうになったが……ここがゲームの中であることを思いだす。
そうだ。思わず本業の習性で民間人を保護しなくてはいけない気分になってしまった。
ここには他のプレイヤーを助ける義務はない。
が……それはそれとして、あそこに居る男の意図が読めないのは気になる。
俺は飛び出しかけたギガセコイアの陰にもう一度身を潜め、奴等の戦闘を見守る事にした。
広場では直前までホブを引きつけた男がホブの振り下ろす棍棒を最低限の移動で躱すと同時に……移動先を遮る様にホブの背後、地面スレスレからスカウトが短剣を男の脇腹へ向かって抉り上げた?!
(あれは躱せん!)
……と、そう思った。
真横から様子を伺っていた俺の視界が、前衛ホブとスカウトホブの連続攻撃によって遮られた刹那……
男の身体が水に垂らした一滴の墨の様に薄くボヤけた。
狼狽えたスカウトと前衛が慌ててお互いに距離を取った次の瞬間……
その場に前衛とスカウトを残して……ローブの男は虚空に消えた??
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
“トス……”
メイジの頚椎に平突きを差し込む。切断した頸動脈から吹き出す血液(青紫の液体)は気道へと流れ込み、何かの魔法スキルを詠唱していた口元から派手に溢れ出した。
「飛び道具は面倒なんでな」
- ドサッ -
囮にしていた分体が消えた事に狼狽えていた前衛とスカウトが、メイジが崩れ落ちた音で俺を見つけた。
一杯食わされた事に怒ったのか……激怒した形相で咆哮し、こちらへと駆け戻ってくる。
「さて……」
周囲にはまだ少しゴブリン共が居る様だし……さっさと片付けてコインを稼がせてもらおう。
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信じられない物を見た。
偵察部隊と思われる三匹のホブゴブリンはあっと言う間に全滅し……男はすぐにその場から去って行った。おそらく……次の獲物を求めて。
ゴブリンの小部隊は組み合わせとしては最適解だったが……ベテランの高ステータスプレイヤーなら蹴散らすのもそう難しくはないだろう。だが……相棒はあの男のステータスは普通の人間とさほど変わらないと言ってた。
なのに……
「なんだアレは!? 瞬間移動? いや、そんなスキル聞いた事ない。それに……」
あの前衛ホブとスカウトホブの襲撃を躱した男は、自分が襲われた次の瞬間には離れたメイジを一撃で屠った様に見えた。
だが、気配感知スキル使い続けていた俺には分かる……アイツは、ほんの僅かな間だが『二人』に増えていた!
「幻影……いや探知スキルに反応したなら……分身? そんなスキルが??」
「面白そうな事を言っているな」
?!?!?!
背後から聞こえた声に……俺は反射的にギガセコイアの陰から飛び出した。
「誰……?!」
誰何の声を上げようとした俺は……背後に居た存在を目にして最後まで言い切る事が出来ずに唖然とした。
「ククっ……そんなに驚かなくても良いじゃないか?」
そこには……俺がはじめて目にする存在……喋るゴブリンが立っていた。




