ep32. どうにもできねぇのか? ……⑤
ゴブリン。
ファンタジーにおけるモンスターの定番中の定番。俺がG.O.Dのプレイを開始して初めて遭遇したのもゴブリンだった。
あの時出会ったゴブリンは一匹以外は種の素体と言えるノーマルなゴブリンだったが、奴等はステータスだけを鑑みればけしてプレイヤーより強いわけではない。
身長も良くて130センチ〜140センチほど、体格も細く貧相でその見た目は実にザコモンスターと言った風情だ。
だが……
G.O.Dではゴブリンにデスを喰らうプレイヤーが後を絶たない。
幾つかの理由はあるが、その最大の理由は……
「元々知能は高い……が、それ以上に……」
前方で唸るゴブリン……それを牽制として背後から飛び掛かってきた個体を瞬間的に回転して木刀で叩き落とす。前方にいた数匹のゴブリンが一瞬の隙をついて投石を放ったが……流石にそんな物は喰らわない。だが……
「人間が手ごわい事もちゃんと知っている。そして奇襲くらいは当たり前にこなして更に凶暴ときた……群れだと更に厄介だなゴブリン。だが……」
そんな事はこちらも知ってる。
殺気が周囲に充満する。ひときわ鋭い殺気を感じた直後、風切音と共に複数の矢が飛来……だが、
「残念」
俺は襲われた所に居た自分を消し、既に気配を消して移動していた本体でアーチャーの指揮個体を背後から貫いた。
脳幹への平突きは一撃で神経を断ち切り、行動の自由を奪う。
「……まあ、こんなもんだろ」
俺は手元にある無銘の打刀の感触に感想をもらした。実はこの一振りは俺のスキル〘変換〙で作った品だ。
ここにやって来る前から……俺の手元には、素材サンプルとしてクナイと初期装備の杖から削り出した木刀があった。後は素材はサンプルを参照し、形状と組成の配置は俺のイメージを使ってコインを“変換”することで武器の作成にトライしたのだが……
正直に言えば“作成”はコストが掛かり過ぎる。なにしろ脇差と打刀の二振りで全財産の半分がトんだ。
「ギギィ!?!」
矢を射掛けた相手が突然消え、自分たちの隊長が切り捨てられた事に気づいた他のゴブリンアーチャーが、即座にこちらに向かって矢を放ってきた。
隊長の安否などお構い無しに飛来する矢の数は、既に存在を隠す必要が無くなったからか初撃の比ではない。だが、
「これまた残念」
俺の姿は奴らから見ればその場から消え去った様に見えただろう。その場に残された指揮個体の亡骸にブスブスと無数の矢が突き立ち崩れ落ちる。
そして……俺がその場から消え去ると同時に放ったクナイは、ゴブリンの気配を次々と刈り取っていった。
俺のスキル〘変換〙はコインを消費することで様々な事が可能らしいのだが……そこはやはり、それなりの代償が必要なのがこの世界のルールというものらしい。
結論から言えば大抵の制作物は専門職のプレイヤーに依頼したほうがローコストに制作可能という……まさに“器用貧乏”という言葉がピッタリのスキルだというのがこの峡谷に来て検証したうえでの結論だった。
だがこのスキル、今の所一つだけ大きな長所があった。
(やっぱり……物量操作の方が格段に効率が良いな)
それは手持ちのアイテムをコインを消費することで複製出来る事だ。
この機能のおかげで俺はインベントリ*¹の容量を気にせず物量攻撃が可能だ。しかも複製の存在時間を短くすればするほど複製に掛かるコストが低くなる。
クナイの様に“投げて命中した次の瞬間には消え去っても問題ない武器”などを低コストで大量に運用出来るのはデカい。
しかも……このスキル、ある条件をクリアすれば自分の複製を作る事すら可能なのだ。
確かに俺という存在自体を物質と見なせば……それの量を操るというのはスキルの機能からすれば当然なのかも知れない。が……
「ちょっとピーキー過ぎない? まあ、確かに女神の言うとおりスキル性能は高い……か」
ただし、自分を複製する使用法にはかなりのリスクがある。今のところ分身を具現化するのは一瞬で……主な使い方は囮くらいのもんだ。
とはいえ……俺が元々収めていた気配関係の技術と組み合わせればかなり使い勝手が高いし、ただのゴブリンなら多少の群れを翻弄するくらいはわけない。
だが……
「クナイ程度じゃ仕留められない奴も居るか……」
ノーマルとアーチャーは所謂足留めだったのか……ギガセコイアの陰から現れたのは、2m50cmを超える巨体に棍棒や古びた大剣を持った、大型ゴブリンの集団だった。
数は四体、それぞれの見た目は装備以外は大きく違わない様に見えるが……
「……疾い!」
先頭に居た筈の若干細身のゴブリン……職種で分類するなら斥候といったところだろうか……が、短剣を片手に走りだし俺へと肉薄する。俺は収めた刀の柄へと手を掛けた。
「ギギィ!」
スカウトは俺の刀の間合いから少し離れたところで急停止、そのまま……横っ飛びに移動……
「?!」
同時に……スカウトの背後から矢が迫っていた。
“ギンッ”
半身を切り、鉄拵えの鞘を使って矢を弾く。重い、かなりの剛弓だ。
牽制で体勢を崩そうとしてきた大型ゴブリンのパーティーは俺が最小限の捌きで危機を脱し、しかも警戒態勢を崩せなかった事に驚いたのか……
ゴブリン・スカウトは一度パーティーの近くまで戻り、何やら目配せのやり取りをしてやがる。
普通に考えれば強フィジカルな化物が多才な攻撃手段を持って連携してくるとかゲームとしてのバランスがおかしいのだが……
「はんっ……お前らみたいなのはこの森に来て散々狩ってんだよ。新しい芸がねぇなら終わりにするぞ」
俺は……腰の二振りを両手で引き抜いた。
△△△△△△△△△
「どうなってる?」
消えた男は俺達を追って来たゴブリンの群れを狩ると口にして消えた。ならば背後に迫っているだろう群れの方へ行ったはずだ。だが……
男の気配どころか背後に迫って居た筈の群れ気配すら感じられない。俺がさっきの男に遭遇してここまで……出来るだけ気配を消しながら移動してきたが多く見積もっても10分は経ってない。
「仕方ない……“気配感知”!」
俺は自分の持つアクティブスキルを発動する。自身を中心とした波濤の様な物が空間に広がる感覚……一秒、二秒、三秒、四秒……
「見つけた! ……が……何だこの反応は?!」
無数の小集団……おそらく小部隊に分かれたゴブリンの群れだろうが……
その小さな部隊の反応が次々消えて行く?
俺は一番手近の小部隊へと気配隠蔽を使いながら近づいた。そこは森林の中でほんの僅かに開いた空間だった。その中心に……
「居た……が……奴等いったい何をしてるんだ?」
*1 インベントリ。ゲーム内のアイテムを仕舞う事のできるカバン。いわゆるアイテムボックス。収納中は手元から消えるが内容量には一定の制限がある。コインは内容量の対象外で基本的に無限容量。
m(_ _)m 作者から……
いつも更新が不定期になってしまい申し訳ありません。ここ数年体調が良くない時期が多く……正直に言えば今もお薬に頼って日常生活を送っているような次第です。
極小数の(笑)楽しみにしていただいている皆様には本当に申し訳ないのですが何卒お見捨てなき様に……よろしくお願いいたします。
追伸
☆とか頂くと少し元気になります!(笑)




