ep30. どうにもできねぇのか? ……③
「……待ちわびたぜ」
俺はミューからのメッセージを見てすかさずステータスを閉じ“帰還用ワープポータル”が存在する渓谷地帯の入口へと向かった。
G.O.Dの第三大陸は主に現実世界での南北アメリカ大陸が原型であり、今俺が居るモンスターの溢れる渓谷も実際の北米大陸西岸付近に存在する地形を参考に創られたとされている。
ちなみに……第三大陸には大小様々な国や勢力が存在しているが、実は人の支配域と呼べる土地は大陸の15%以下らしい。
理由はそれほど複雑な話ではない。
単純に現実世界の野生動物と比べてモンスターの数が多すぎるし、更にそのモンスター達は、どれだけ心血を注いで狩っても一定時間でリポップする。
それらは特殊なアイテムや支配域として確保出来るシナリオが用意された場所なら乱獲すれば個体数を減らす事もあるが……基本的に無限湧きするモンスターであり、プレイヤーサイドもそれらが蔓延るフィールドを支配しようなどという発想は無い。
むしろ減ってしまっては、日々参入する新規プレイヤー達が先行プレイヤーへ追いつく為の手段が無くなってしまうだろう。
それはアンジェロス王国の近郊でも指折りのモンスター大量生息地域であるこの“エンペラーキャニオン”も同じだ。
鬱蒼と林立するギガセコイアの森と峻険な渓谷が織りなすフィールドは、種類こそ多くないものの大量のモンスターが生息しており、リリースから現在に至るまで深域を踏破したプレイヤーが居ない*¹事でもその過酷な環境が伺い知れる。
とはいえ、浅域ならモンスターの発生率もある程度読めるし、その脅威度も既知であるため、アンジェロス王国からゲームをスタートしたプレイヤーにとってエンペラーキャニオンは初心者からベテランまでがコインを稼いだりプレイヤースキルを磨くのに利用するお馴染みのフィールドだ。
凛の容体がこれ以上悪化する前にメインクエストへ本格的に介入すると決めた俺は、身体感覚の擦り合わせやステータスそのものを改変する為の資金集め、スキルの習熟とその応用範囲の検証を行うべくこの渓谷に来た。
当然メインクエストへの参加……ひいては少しでも凛が患う病の治療法の確立を後押しする為だ。正直、完全とは言い難いが時間に余裕の無い中でそれなりの成果は獲得出来た。
(後は情報を仕入れてステータス補強の為のアイテムを購入……なんだ?)
………………
俺は背後から大量の気配が近づいてくる事に気付いた。
△△△△△△△△△△
「Fu○k!! なんでこんな事になってんだよ!?」
背後から群がり寄るゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンシャーマン・ゴブリンナイト……俺達のパーティーはあらゆる種類の大量のゴブリンに追い立てられていた。
「モンスターに悪態ついても意味無いだろうが! 戦闘領域から離脱さえできりゃログアウト出来るんだ。デスペナ喰らいたくなけりゃ死ぬ気で走れ!!」
喚いている回復職のメンバーは神職キャラが持つイメージそのままにカミ装甲だからな……
悪態を吐きたくなる気持ちは分かるが、今はそんな暇も余裕も無い。俺だって悪態を吐きたい気持ちをグッと抑えて走っているのだ。
「っても、おかしすぎるっしょ! ここ、本当に初心者(累積プレイ時間が50時間未満)向けのゾーンなの?」
“とてもそうは思えない!”って顔で疑問を挟んできたのは、神職と俺の間を走る弓狩人だ。彼女と俺達はゲーム内の相互扶助を目的とするギルドで出会い一時的にパーティーを組んでいる。
「ここの最新情報は全員がギルドで確認しただろ!」
「ああもうっ! 『とりあえずエンペラーキャニオンに多いゴブリンで経験値とコインを稼ごう。奴らは所詮は人間の下位互換……挙動の予測しづらい動物型よりよほど対処はしやすい筈だ』なんて誘いに迂闊に同意するんじゃ無かった!」
「だからっ 騙したんじゃねぇーて言ってんだろ!」
その時……ゴブリン共の群から必死に逃走する俺の脳裏に強烈な違和感が突き抜けた。
パーティーの斥候役を担っている俺は火力こそ並だが索敵や隠行に特化したスキルビルドには自信がある。きつくてもゴブリンの群れに追いつかれる事なく撤退する程度の事は出来るはず……
「……追われてるのか?」
(?!?!!!??)
その瞬間、俺は自分が驚いたのか訝しんだのかすら分からなかった。俺の隣に……ほんのすぐ横に……だ、ソイツが歩いていた。俺たちは殆ど全力疾走しているというのにソイツは歩いているようにしか見えないんだ。しかも……
(1:?,;?y;y??!!?885)!?!
(0…」#|<々,5・0)!?!
俺が気付いてからしばらく絶句している事に不審に思ったパーティーメンバーが振り返り……怪訝な顔で隣を凝視する俺を見て……そこでやっと俺の隣を歩くヤツに気付いたんだ。
荒々しい迷彩柄に染めあげられたローブを頭から被ったその男(?)は、驚きの余り無言のまま顔を見合わせていると、首を傾げながらもう一度尋ねてきた。
「システムが翻訳できてないのか? あーあー Do you need help?」
△△△△△△△△△△
暗い空間を進む。多忙を極める自身のスケジュールを調整してまでここに来た目的……それは私以上に多忙であり、私以上の責任を負い、私以上に重要な仕事をしている彼女との邂逅が私のスケジュールなんかよりよほど重要だからだ。
「どうだろうか……彼は?」
余計な事は口にしない。私がここに来た事など彼女はとうに知っている。
暗い空間に薄く走る紫電の中心……そこに鎮座するパナケイアは七つの大型モニターに囲まれたデスクの上にあいも変わらず書類を積み上げていた。
「やあ……G.G。どうした? ずいぶんな顔色じゃないか?」
*1. G.O.Dの運営はマップ情報を公表していないがゲームシステムには一度でもプレイヤーが踏破したフィールドをワールドマップとして参照出来る機能がある。ただし、ワールドマップへ未踏破エリアを反映する権利は踏破したプレイヤーに選択権が発生するのでワールドマップに無いエリアがそのまま未踏破エリアとは限らない。とはいえ、プレイヤー間の不文律でよほどの事がない限りフィールドマップは公表される事が普通なのでマップが解放されて居ないフィールドは概ね踏破者が居ないものと判断されている。




