ep29. どうにもできねぇのか? ……②
「その“揺らぎ”ってのも良く分かりませんが……それを集めるのとチュートリアルを省く事に何の関係があるんで?」
「うん、そりゃあ分からないよね。でもあわてちゃいけない……核心はこれからなんだからさ」
キミにはこれからもまだまだ働いて貰わないといけないからさ。運営の思惑や僕の目的についても、もう少し知ってもらう必要があるんだ。
「まずは……人の持つ“揺らぎ”について。コレは分かりやすく言うと“脳の性格”みたいなものさ。えっ……まだ分かりにくい?」
渋面を隠そうともしないレオン君。彼は仕事を離れると意外と子供っぽい面がある。いやただのロールプレイかも知れないけど……
「うーん、人ってね、咄嗟の反応なんかは意外なほど似通ってるものなんだ。例えば君がボールパークの近くを歩いているとしよう」
ますます頭上に? を増やすレオン。でも僕は気にせず先を続ける。
「その時、今年のホームランダービーを独走するバッターが特大の場外ホームランをかっ飛ばした」
幻のバットを振り回してみせる。自分でも楽しくなってきたぞ。
「君はたまたまそこを歩いていた。いや他の誰かでもいいんだけどね。その時、不意に現れ頭上に迫る打球が目に入ったなら……殆どの人間が避けようとする。出来るかどうかは別で、どういう反応をするかはほぼ同じなんだよ」
渋面は変わらない……が言いたい事は理解したみたいだね。
「でね……その反応がおかしい人間ってのがごくたま〜に存在するんだ。キャッチしようとするヤツ、打ち返そうとするヤツ……そういう奴らは判断力や反応速度に優れていたりもするが、本質はそこじゃない。そして……その一部の存在の中にもとてつもなく変わった反応を持つ人間が居たりするのさ。例えば……微動だにせず命中してみる……とかね」
「それは……バカな奴を探してるんで?」
「……?! ククッ……ハハハハハハハハハっ!! イイね。それはなかなかに面白い見解だ!」
こういうところが彼との会話の妙味だな。
「ちなみに……選定はアリス・ドアがセンシングしている彼等の身体情報や脳波等を使って総合的に判断しているらしいよ。勿論それだけで彼等の“個性”が分かるわけじゃあ無いみたいだけど……何しろサンプルは40億を超えるんだ。それなりの精度はあると思って間違いないだろうな」
「じゃあ、そういう変わったバカのチュートリアルを飛ばしてる意味ってのは?」
「あくまで推測だけど……“常人とは違う行動原理を持つ人間”に、“なるべくゲームに慣れていない状況”で、選択した行動から“その人物にフィットしたスキルを創造する”為……じゃないかと僕は解釈してる」
渋面を消せない自分に気付いたのかサングラスを取り出して掛けるレオン。まあそんなもので不機嫌さを隠せたりはしないんだけどね。とはいえ……
「誤解させるのは本意ではないので補足しておくけど……常人向けに開発された規格型のスキルが個人向けに創造されたユニークスキルに劣るわけではないよ。後者が希少である事は明確な事実だが、それだけでスキルとジョブ、そしてパーソナリティに大きなシナジーが生まれるわけじゃない。ただ四角のブロックで丸い穴を埋めるのは無駄が多い……ってだけの事さ」
「……才能がある人間を優遇してるってのは間違い無いでしょうよ」
ますます渋い顔をするレオン……人生が不公平な事は君も良く知っているだろうに。
でも、君のそういう所は嫌いじゃないぜ。
「不公平かい? まぁ否定は難しいだろうね。でも運営の求める“脳の個性”というのは、いわゆる“天才”という意味じゃない。もちろん処理能力が高いに越したことはないだろうが……」
そこまで言った時……複数の建物の陰に重なり、絶妙にその存在が発見されにくいだろう露地を曲がるレオン。
普段はゲームの中でもそれほど動き回れるわけじゃない僕にとっては、こういう“いかにも”なシチュエーションはワクワクを抑えられない。
が、彼の目的地に到着する前にこれだけは言っておこう。
「要は、君の言うとおり“おかしなヤツ”を集めているのさ。常人の発想じゃとても倒せないヤツを倒す為に……ね」
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「近衛先輩、師範……今日も休みなんですか?」
屋上で一人パンを齧りつつスマホを弄っていた俺に話し掛けて来たのは一年の荒木しほりだった。
蓮の部活の後輩で、あいつに聞いた話じゃ実家の道場でも蓮に次ぐ実力の持ち主らしい。
「ああ。荒木は何も聞いてないのか?」
陽翔も最初休みの理由を担任に尋ねたが……返って来た答えは『体調不良』というにべもない一言。
「道場の方は一週間お休みの連絡が回って来ただけで、理由は聞いていません……」
荒木はしょんぼりと答えた。そもそもあいつは、人あたりは悪く無いが人付き合いは極端に悪い。プライベートな連絡先を知っているのは俺くらいのもんだろう。
「あんまり大っぴらに触れ回る様な事じゃないからオフレコで頼みたいんだが……」
「先輩何か聞いてるんですか?」
そんな目で俺を見るなよ。男の俺に嫉妬するのはおかしいだろ……お前腐ってないよな?
「なにも聞いちゃいないさ。アイツがそんな奴かどうか荒木だって知ってるだろう? 俺はアイツが今やってる事からなんとなく状況を想像しただけだよ」
荒木の頭上に?マークが浮かぶ。
「連絡無いんですよね? 先輩が何をしてるかどうやって知ったんです?」
俺は右手に摘んだスマホをユラユラと振った。
「多分……凛ちゃんの容体が良くないんだろ。Xを開いてG.O.D関連のトピックスを検索してみろ」
即座にスマホを取り出しアプリを立ち上げ画面をスワイプする荒木は……次の瞬間、
「はぉ?? G.O.Dの1DAY討伐数ランキングが4年ぶりに大幅更新?? それまでの211匹から……いきなり4841匹?!」
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凛の容体が少し安定し、片桐さんが小康状態に入ったと判断した翌日。
俺は自分のステータス画面に表示されたダイアログに少し驚いた。
『ロッキーのレイドクエストが正式リリースされた!』
俺は慌ててダイアログをタップして@μからのメッセージを開いた。
『トルバゴ氏から聞いていた“ロッキー山脈の怪物討伐レイド”が、正式に“四つ目のメインクエスト”として運営に認定された! 同時にロッキー山脈はレイドボスをマスターとする“ダンジョン”として既に解放されている。常時解放型クエストだから攻略は早いもの勝ち……至急連絡乞う』
どうやら、俺がスキルの検証や現実とゲーム内での身体感覚の補正の為、雑魚モンスターを乱獲している間に色々と事が起こっていたらしい。
「ロッキー山脈全体がダンジョン化……か」




