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剣と魔法の世界


 ― Booon…… ―


 既にギアと俺のスマートフォンは無線接続にて同期を済ませ、ダウンロードしたG・O・Dにも必要情報は登録してある。


『ようこそ……現実(リアル)より真実(アクチュアル)非現実(ファンタジー)の世界へ! これから貴方の身体感覚を仮想世界に同期します。目を閉じ、身体を横たえてリラックスして下さい』


 スイッチの作動音と共に……ヘッドギアから音声案内が流れ出す。俺はヘッドギアを被ったままベッドへと倒れ込んだ。


 ちなみにG・O・Dをを始めとするVRMMOの世界は、完全に同期すると身体は殆ど眠った状態になるのでプレイヤーはベッドに横たわる事が推奨されている。


『毛髪組織からDNA情報の取得……完了しました。頭部骨格からの全身骨格予測……完了しました。神経(ニューラル)(ネットワーク)走査(スキャン)……完了しました。ゆっくりと眼を開けて下さい……』


 俺はギアの音声に従い眼を開ける……と、そこには“高精細な3Dで表現された緑の草原”が広がっていた。が……


「なんだ……思った程じゃないな」


 それはあくまでディスプレイに表示された映像であり、いかに高精細であろうとも現実とはとても……


『これより……網膜投影レーザーによる視覚同期を開始します』


 そう案内音声が流れた瞬間……俺の()()が一変した!!


「うぉっ?!!」


 今まで見えていた緑の草原の風景……それは何も変わっていない……ただ……それはもう()()だった。


 何年もG・O・Dの事を調べていた俺は勿論視覚同期の理屈は知っている。それは言葉にすると[ギアによって完全に外界と遮られた視界にレーザーによる網膜への直接的な映像投影を行う事で人間の視覚情報を完璧に再現する]という技術らしいんだが……


「やっば……完全にナメてたわ……」


 眼前?? に拡がる風景を見て俺はFOL社が絶対の自信を持って世に送り出したヴァーチャルリアリティ用ヘッドギア、通称“アリスドア”の機能に度肝を抜かれていた。


『続いてニューラルネットワークの神経伝達信号にアクセス……重力感覚と触覚を同期します』


「おわっ?!」


 更に続く音声案内と新たな感覚同期……これは本気でびっくりした。何が驚きかと言うと……今までは完全に現実と認識出来る様な視界ではあっても俺の身体の感覚はまだベッドに横たわったままだったのだ……それが……


「凄えな……俺、マジで()()()()()()()じゃないか!」


 そう……重力を感じる感覚が90度変わり、俺は感覚的にも草原に立っていたのだ。しかも……


「本当に凄え……理屈は分かってるけど……()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺は無意識の内に自分の手で顔を触っていたが……そこに()()()()()の感覚は無い。つまりこの感覚は既にヴァーチャルリアリティーによって再現された物だって事だ。


 顔に触れる指先と指先が触れた顔の感覚……更に全身に感じる気温と風の感覚、しかも……


「おいおい……()()まで完全再現かよ?!」


 そう……頬に感じる風によって感じる匂い……これは……


「おいおい……物騒な。もしこの匂いが()()なら……チュートリアルはハードモードか?!」


 風上から微かに漂って来たのは、道場に染み込んだ馴染みの香り……汗と涙と……血の匂いだった。


――――――――――


 俺は香りの漂う方角に視線を向けた。振り向いた俺の眼に草原の中を走る街道が見える。そこには中世ヨーロッパ風の馬車()()()物が……


「馬……なのか?」


 ()()()()生き物に引かれて進んでいるが……


「やばいな……アレ……多分気付いてないぞ??」


 おそらくだが……風上の馬車と風下の俺の間……その草原の草の中に……()()()()()()()()()()()()()()何かが潜んでいる。


「やばいな……あそこに何かが潜んでるとしたら、こっちから声を掛けるのも無理だし……」


 俺は潜んでいるであろう何かに気付かれ無い様に、草むらにしゃがみながら前方以外の周囲にも気を配る。


 周囲にそれらしい気配が無い事を確かめ、俺はゆっくりと馬車の方角ににじり寄る。街道方向に進むにつれて血の匂いは益々濃くなり……更にその中に獣の様な悪臭が交じる。


(これ……マジでヤバくないか?)


 街道を進む馬車?の御者席には人の良さそうなオッサンが鼻唄を歌いながら手綱を握っている。オッサン……もう少し警戒しろよ……


『ウギャギギャギャギャャ!!!』


 オッサンの乗る馬車が血の匂いを蒔き散らす気配に最も近づいた時……()()は突然雄叫びを上げて草むらから踊り出た!!


「うわぁ?!?」


 そこには……小学生程度の背丈に緑や灰色の肌、尖った耳、腰にミノを巻いただけの貧相な衣服……そう、ファンタジーの定番中の定番……


「ゴブリン……か」


 街道の馬車を半包囲する形で小鬼(ゴブリン)どもが現れた。

 

――――――――――


「数は六匹、一番近い奴が頭……か」


 馬車を半包囲したゴブリン共は即座に二匹が街道に踊り出て進行方向を塞いだ。一番後方でふんぞり返っている一回り大きい奴がボスだな。多分ホブゴブリンって奴か……


「これは……やっぱチュートリアルはハードモードだな……」


 少々複雑な気分になる。G.O.Dは他のゲームと同じく開始時にチュートリアルが展開される仕様なのだが……スタート時に計測した身体能力に合わせて幾つかのモードが存在する。


 出回っている情報からすると、“詳しい事が語られずいきなりイベントが発生する”のはハードモードの証だ。


「まあ、仕方ない。ハードモード特典もあるって言うし……いっちょやってみるか……」


 俺は即座に頭目らしき大型個体に背後から忍び寄る。草が生えた地面は移動の気配を殺すのが難しいが……


(こちとら6歳から歩法を仕込まれてんだ……)


 自らの気配を風に流れる()()()に紛らわせて頭目の背後に忍び寄る。馬車では御者のオッサンと……馬車の中から出てきたのかハーフメイルを纏った剣士風の女がゴブリン共の振り回す棍棒を牽制していた。


(よし……)


 俺は、あと一歩で頭目ゴブリンの間合いに入る位置まで近づくと……そのままゴブリンの長い耳を引っ掴む。驚いたゴブリンは慌てて振り向こうとするが……


 ― バキッ ―


 俺は奴が反射で振り向こうとした方向に向かって首を思いっきり回転させ……脛骨を捻り折った。


 瞬時に脳との連絡を断たれたゴブリンの弛緩した身体を抱きかかえ、頭目が手に持っていた錆びた剣をオッサンを襲っていたゴブリンに投擲。


 剣は酷いバランスで思った様には飛ばなかったが……たまたま回転する剣の刃が一匹のゴブリンに突き刺さった。


(ラッキー!!)


 当然、頭目が殺られた事に気付いたゴブリンの一匹が俺の方に駆け寄る。粗末な石斧を振りかざす牙だらけの子鬼が迫るが……


「コイツと踊ってろアホが」


 俺は思いっきり頭目ゴブリンの死体を蹴っ飛ばす。既に間合いに踏み込んでいた石斧ゴブリンは頭目の死体を避ける事も出来ず、死体と絡みながら地面に転がり……


「じゃあな……」


 俺は奴が落とした粗末な石斧を頭に叩き込んだ。これで三匹……


「シャァッ!!」


 おっ……後ろの女剣士がゴブリンを一匹切り倒した。馬車の前後に一匹ずつ取り残されたゴブリンは突然現れた俺に頭目や仲間が殺られたのを見て……


『ギャギャッ!!』


 即座に俺とは反対方向の草むらに逃走した。


「おう……勝ち目が無くなったら即座に逃走か。思ったより利口なんだな」


 俺はこの世界の予習はキッチリして来たから当然ゴブリンの事も知っていたが……世間一般のゴブリンに関する情報ではもっと間抜けな奴等って印象だったが……


「?!?#⊂ΕψΔ⇄⇌」


 おっ? オッサンが俺に話しかけて来たが……なんだその言語は??


 その瞬間……おれの視界の隅に、アレが現れた。


「おお……コレが有名な……()()()()()()()()()()って奴か!!」


 

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