またね
本日は17時と23時に2話投稿しています。
これは23時投稿の2話目です。
皇紀一〇〇〇〇年の一日目の朝、野星の上空からは雲が一掃され、快晴となった。
真夜中の即位の儀を見届け、一旦一眠りをした人々は、昼も近くなった頃に起き出し、そして皇宮前広場に集まり始めた。
新皇帝即位を奉祝したい人々の為、皇宮の東庭が開放され、その東庭に面した皇宮のベランダに新皇帝が出御し、集まった人々に対し「感謝の御言葉」を述べるという、日本国帝室の習わしに由来する伝統行事である。
この時集まった人出は、帝都警視庁と皇宮特別高等警察の発表に基づくと二十万人にも及び、新皇帝とその娘の三人は、夕方まで延べ七回にわたって人々の祝福を受け、それに対し都度異なる言葉で、人々に謝意を表した。
日が暮れると、市内を流れるオビ川沿いに一万発の花火が打ち上げられ、新帝即位を祝い、また人々の目を楽しませた。
花火は当然、皇宮からも見える様に打ち上げられており、家族三人の最後の時間を過ごしていた一家にとっても、特別な思い出となった。
そして、花火が終わり、その余韻を噛み締めていると、不意に彗依の膝の上に座っていたナディが言った。
「パーパ、マーマ。おばーちゃまが、そろそろだって」
その言葉に、ナディを振り向いた美雪が泣きそうな声で、
「もう行ってしまうの?」
と言うものだから、彗依も胸が詰まって、目頭が熱くなるのを感じた。
「んとねー、バイバイじゃないの。わたち、またくるよ?」
「でも、」
と言い募ろうとした美雪の肩を抱き、彗依は諭した。
「美雪。親が娘を困らせるものじゃない。
元の時代にも、ナディの家族は居るんだぞ。
その関係を断ち切る様なことを、親である俺達がしてはいけない」
「……ごめんなさい」
悄然として俯いた美雪の頭を、ナディが小さな手を精一杯伸ばして撫でる。
「マーマ、いーこいーこ。
こんどはねー、いもーととおとーとに、あわちてね?」
「ナディ……私の、可愛い可愛い、私のナディ」
それでも堪えきれなくて、遂にボロボロと、美雪はどうしようもなく手放し難い温もりに、縋り付いて泣き出してしまった。
アタナシア・コスミカ・リコを見送ることになった母、アレクサンドラ・エリコも、同じ様な思いをしたのだろうか。
だから、崩御した後も成仏できずに、自分達が転生してくるまで、留まり続けていたのだろうか。
だとしたら、何と酷い事をしてしまったのだろうか、と、美雪は思う。
何れまた逢えると言う別離でさえ、こんなにも寂しく辛いのに。
親より先に死んで永訣した親不孝を、初めて彼女は済まないと思った。
母は、娘を亡くし、それを悼む間も無く、摂政として現役復帰し、幼い孫に代わって公務に臨まなければならなかったはずだ。
そうなることを理解っていても、それでも今この腕の中に在る温もりを、その時諦めることなど出来なくて、アタナシア・コスミカ・リコは我を押し通して産んだ。
その事に、反省も後悔も、無い筈だった。
「お母様、ごめんなさい……!」
けれども、遺された者に辛い思いをさせたことだけは、慚愧に堪えないと今、美雪は思った。
暫くの間、ナディを掻き抱いて泣いていた美雪が、落ち着き始めると、ナディが少し美雪の肩を押したので、彼女はナディと顔を合わせた。
「マーマ。パーパ」
美雪と彗依を交互に見つめて、ナディは言った。
「いっぱいちゅきの、おやくそく、よ?」
そう言って、ナディが二人に両手の小指を伸ばした。
「ナディ。また、会いに来てくれるのよね?」
「あいっ!
おばーちゃまもいっちょなのよっ!」
「そうね、そうだったわね。
御姿は私達には見えませんけれども、お母様、どうかナディを、よろしくお願いいたします」
「エリコ様。この時代にナディを遣わしてくださりありがとうございました。
この時代のリコ――美雪と、これから生まれくる子供達は、私が生涯をかけてお守りいたします。
どうかご安心ください。
――ナディ。元の時代のパーパにも、皆んなにも、よろしくな」
「あいっ!
パーパもマーマも、またね。
いーこいーこ、よ?」
すぐ傍に居るであろうアレクサンドラ・エリコに親二人は頭を下げた後、ナディの小さな小さな小指に、自分達の小指を絡ませる。
一万年以上前から伝わる言葉で、三人は約束をした。
「「「ゆーびきーりげーんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!!!」」」




