皇室会議(4)
「こすもす」議会議事堂食堂での夕食会は、概ね和やかな雰囲気で始まった。
所謂「お誕生日席」にナディーヤ・ワカコが座り、その左右にそれぞれ、この時代の両親である彗依と美雪が侍ってナディの世話を焼く。
ここまでは順当に席順が決まったのだが、では彗依と美雪の隣に誰が続くか、で再び(誰とは言わないが)大変下らない兄弟喧嘩が始まったので、
「馬鹿は放っておいて、宮中席次も気にせず、好きな様に席に着いてしまいましょう」
と言って、夫を余所に美雪の隣をさっさと占めた、今上皇后殿下の鶴の一声で、そうしましょう、と彗依の横に里伽子が座り、畏れながらも皇后殿下の横を亜矢が座ると、後は核家族毎に纏まって座ることで席が埋まったので、泰時と今上皇帝陛下はナディから一番遠い席へ追い遣られた。
二人からは抗議の声が上がったが、一同の中では、先祖崇拝的意味から最も席次が高く主賓であることになるナディの、
「ジージ、大伯父ちゃま、ケンカ、めーよっ」
という御言葉により、敢え無く撃沈された。
現ムリーヤ皇室的には割とプライベートではよくある光景なのだが、現実は非情だった。
壮年から初老に差し掛かろうとする年齢で、未だにしょうもない理由で、しょうもない兄弟喧嘩をするアホの子二人より、ナディの方がこの場合よっぽど大人だった、とも言える。
ともあれ、ナディに叱られてしょんぼり消沈している二人の男はさて置き、そんな具合でやっと食事会は始まった。
まだ三歳児のナディはさて置き、ナディの世話を適宜焼きながらも、前世仕込みの優美な王侯貴族的所作で食事する美雪を見て、彼女もまた精神的な意味ではナディ同様の御先祖様であることを知らず、ただ殆ど一般家庭に近い、皇統の末端なほぼ一般家庭に育ったというプロフィールしか知らない一同は、揃って感心をした。
要はこの食事会は、既に大筋で認められているとは言え、新たな一族に加わる予定の女性に、都鴇宮家、引いては次の皇帝として相応しい器の持ち主かどうか、見定めるという目的もあったのである。
皇后殿下が、
「美雪さまは、とても綺麗にお食事をなさいますね」
と水を向けると、美雪は勿論、その質問を想定していたので、
「ありがとうございます。私は、見た目がこの通り、第三代皇帝陛下に酷似しておりますので、決して泥を塗りませんよう、独学で学びまして、彗依殿下と出逢ってからは、殿下に教えを乞うて、ここ一月で必死に身に付けたのです。
皇后さまから見て、私の所作に、何かおかしなところはございましたでしょうか?」
「まあ。そんな恐縮なさらないで。
此処は身内だけの私的な食事会ですから、もっと気を抜いてもよろしいかと存じます。ねえ、皆さま」
皇后殿下がそうほけほけと言うが、目上の者にそう言われたら、普通、目下の者は何も言えなくなると思われる。
それを意図してなのか、そうで無いのか、今一読み取れない微笑を皇后殿下は浮かべていたが、彗依と美雪は特に他意を感じなかったので、
「そうは申しましても、一応娘の手前、きちんといたしませんと、躾になりませんので」
と彗依が言った。
言ってから、我が子を授かることを熱望しつつも終に授からず諦めたという皇后殿下に、これは嫌味や皮肉になってしまう、と気付いて心臓が跳ねるのを感じたが、特に皇后殿下は気に留めた風でもなく、
「そうですか。それは、良い心掛けですね。お二人はもう、立派に親御の御自覚がお有りなのですね。
大変、よろしいと思います。是非、その心構えをお続けになって」
と応じたので、彗依の迂闊な発言の際どさに気付いて、けれど皇后殿下の手前、欠片ほども動揺を表出させなかった一同は、内心そっと胸を撫で下ろした。




