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「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!  作者: 大鏡路地
「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!
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我が代表堂々と退場す(八十九年ぶり二回目)

※このお話はフィクションです(令和四年六月一日修正)。

 ロシア極東地域を占領する一方で、日本国はロシア領を東へ大きく迂回しながら、北極圏を通ってウクライナへの「支援物資」を空輸していた。

 行き先は主に英国イングランドのレイクンヒース空軍基地であり、一応「気を遣って」ウクライナへ直接は運び込まずに、一旦当地へ物資を集積する体を採っていた。それらはEU諸国の輸送機でポーランドやルーマニアへ運ばれ、そこからは陸路でウクライナへ運ばれる手筈となっていた(当局発表)。

 当初持ち込まれた物資は、防弾チョッキや医薬品などの「直接は戦闘に関係ない支援物資」であることが見た目にも明らかだったが、ロシアは情報収集の結果、それらの中に「中身が不明なコンテナ」が幾つも含まれていることを把握した。また、ロシア極東地域の日本による卑劣な侵攻が一段落した後、本国に帰還しないまま飛行隊ごと所在不明になっている日本軍機があった。

 これらを以て、ロシアは中華人民共和国と連名で、国際連合安全保障理事会に、


「日本による卑劣なロシア侵攻とウクライナ併合」


 という議題で緊急会合を開かせた。アメリカ、イギリス、フランスが拒否権を行使するかと思われたが、各国連大使は皆、一様に能面のような無表情でノーコメントを貫いた。


 安保理会合の冒頭、ロシア国連大使が長々と自らのウクライナへの「特別軍事作戦」に至る経緯と、如何にウクライナと日本がロシアに対する侵略行為(テロリズム)を企てており、現下如何にロシア極東地域で悲惨な戦闘行為が行われているかを述べた。

 然し乍ら、日本国は当初よりロシアの言うところの「西側」の観戦武官ばかりか、各種人権監視団体まで丁重に前線まで招いて監視させており、それらからの一分の隙も無い「日本国が極めて理性的に戦闘行為を抑制し、如何に敵軍や敵国民に対しても人道的に振る舞ったか」という報告と、日本からの如何にロシアがウクライナの主権を侵害し、現下如何にウクライナで悲惨な戦闘行為が行われているかという反論ーー日本側はロシア極東地域への侵攻については一切釈明しなかったーーを前に、限界まで血圧を上げる羽目になった。

 誰しも、いけしゃあしゃあと自分の非を「それは置いといて」とされたら、キレるのも無理はない。

 しかし国際社会(グレート・ゲーム)に於いては先にキレた方が負けであり、如何に自国の面子を潰さずに我を通すかこそが重要であるという点を、ロシア国連大使は拒否権付きの常任理事国という立場に胡座をかいて、都合よく忘れていた。

 果たして、ロシアと中華人民共和国が連名で、


「日本とウクライナの主権の存在を疑問視する」


 という旨の発言を述べていると、日本国国連大使、松尾(まつお)陸佑(りくすけ)は発言を遮り、


「そこまで我が国の主権の存在を疑問視するのであれば、最早是非も無し。

 我が国はウクライナと国家統合を宣言したので、これ以上国連安全保障理事会にも国連総会にも参加しない。

 問題の討議はウクライナ国連大使と図ってほしい」


 と宣言し、安保理の議場から退出した。

 その行動は旧枢軸国でありながら国際社会に於いて、平和国家であるという確固たる地位を築き上げてきたものを、無に帰しかねない行為だったが、国内のマスメディアからは、


「我が代表堂々と退場す(八十九年ぶり二回目)」


 と絶賛された。

 一応、「それは国家的死亡フラグなんじゃないか」という声もあるにはあったが、それよりも自我を持った、歴とした独立国家である()()()()()()()()()()()()()()()()の主権の存在を否定されたことで、完全に腹が据わったとも言える。


 松尾が宣言したその瞬間から、在ロシア・在中華人民共和国の両日本国大使館から日章旗が降ろされ、邦人脱出が始まった。日本国警察庁がマークしていた在日工作員の類の一斉検挙が始まり、在日ロシア大使館へは東京地検特捜部による家宅捜索が始まった。

 他国の大使館を家宅捜索するなど、国際法を知らぬ蛮族の行いに等しかったが、吉田総理などの政権閣僚は、


「奴らが我々に主権などないと言うのなら、こちらも奴らの主権などないと見做す」


 などと、とても近現代の国際法に習熟した国家の政府首班とは思えない発言をして、国民から拍手喝采を受けた。

 日本国憲法前文や第九条の解釈や国内法については、丁重に無視され(超法規的措置が執られ)た。

 事態は(ロシアにとって)加速度的に悪化し、慌てたロシアや中華人民共和国が主権の存在を疑問視する発言を撤回しても、日本側のエスカレーションは留まることを知らなかった。

 在外邦人の脱出に目処がついた玲和四年五月一日、日本国防衛省は対露開戦時に撃沈したと発表していたロシア太平洋艦隊のボレイ型戦略ミサイル原子力潜水艦「アレクサンドル・ネルノスキー」「ウラジーミル・モノマーフ」について、実際には二隻とも軽微な戦闘の末に拿捕しており、()()()軽傷で択捉島に一旦抑留していることを発表した。


 ここで「乗員は」と書いたのには当然、理由がある。


 日本国防衛省は、自衛隊が拿捕した二隻の潜水艦の行方については、一切言及しなかったからだ。

 各種偵察衛星や諜報活動から、日本の主要な港湾や泊地には二隻の姿がないことから、ロシアや中華人民共和国、そして北朝鮮は「拿捕された二隻は日本の手により既に運用されており、日本に核攻撃を行えば報復に核攻撃を受けるのではないか」という深刻な疑念に取り憑かれることになった。

 勿論、平和を愛し非核三原則を掲げる日本国は、そんなことは()()()()()()考えては居なかったし、そもそも原子力潜水艦のような高度な兵器を拿捕してすぐ任務に就かせられるかと言えば、そんなことは無かったのだが、恐慌に陥った国々を見て、その疑問を解消させることは敢えてしなかった。


 翌日に迫ったウクライナ戦線での攻撃の、良い欺瞞になったからである。


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