今世の両親(5)
そんな話をしている内に、一同は朝食を食べ終えた。
「ごちしょーたまでちた!」
と舌足らずに言うナディを微笑ましく思いながら、さて、と彗依と美雪は意識を切り替える。
これから少し改まった服装に着替えて、京都の都鴇宮家本邸の彗依の両親とビデオ通話をするのだ。
美雪は彗依が用意した、釈明記者会見の時とは異なるフォーマルスーツ――必要があって機会毎に異なる服を仕立てたり、仕立て直したりしていた皇帝時代とは異なり、今世では皇統に属する以外は比較的一般的な家庭に生まれ育った美雪は遠慮したが、彗依が「これは俺の甲斐性を見せるべき所だから」で押し切った――、ナディも華美ではないが、見る者が見れば良い作りと分かる子供用ドレスで着飾り、二人の長い髪については、彗依が手ずから結い上げた。
記者会見の時は、ホテルに入居していた美容室と化粧品販売員にメイクを施してもらっていたが、彗依は前世が美容師だったので、実はこの手の事は一通り出来るし、そのための道具も一式持っている。
そもそも、彗依の前世は「帝都一の腕前のイケメン美容師」で、その評判を聞きつけた皇女殿下時代の美雪が、偽名で予約を入れて微行で彼の店を訪ったというのが、二人の出会いだったりするので、殊にこの母娘を着飾らせることについて、自分の右に出るものは居ない、というのが彼の自負だった。
ちなみに結婚と同時に、彼は公務に専念すべく店を閉めることになったので、帝都の女性からは、
「あんなイケメンを捕まえるなんて、流石は殿下!」
と讃える声と、
「あの名店を閉めさせるなんて、殿下の横暴!」
という怨嗟の声の、両方が上がった。
閑話休題。
見事に彼に髪を梳かれ結い上げられ、飽く迄もナチュラルに徹しているが、彼女の美しさを引き立てるメイクを施された美雪を見て、ナディは興奮して、
「しゅごーい! マーマ、お姫様!」
とはしゃぎ、彗依にも、
「流石は俺の美神」
と称えられたので、美雪は(主観的な)年甲斐もなく照れてしまった。
「も、もう、それはいいから、早く京都の御両親に御挨拶しましょう?」
「あいっ」
「まだ言い足りないんだが」
「後で幾らでも聞くから、今は我慢して頂戴」
「……その台詞、ちゃんと覚えてろよ」
そこはかとなく嫌な予感を覚えつつも、美雪は彗依が表示させた京都への発信ボタンを押した。
『――……はい、都鴇宮家京都本邸でございます』
最初に電話に出たのは、見るからに仕立ての良いスーツを着た、彗依にとっては馴染みのある本邸の男性使用人だった。
「摩耶か。両親に繋いでくれ」
『畏まりました。陛下、並びに彗依様、勝柄様。皆様お待ちかねです』
慇懃に彼が一礼すると、画面はすぐに切り替わり、襖を外して二間続きにした和室に詰めかけた大勢の人々が映ったので、美雪とナディは目を丸くした。
『こっちちゃんと映ってるー?』
『兄ちゃんの嫁さんすげえ美人ー!』
『まだ嫁じゃ無いわよ!』
『いい加減諦めなさい、馬鹿娘』
『四代皇帝陛下ぁー、あなたの子孫ですよイェーイ!』
『コラっ、もっとちゃんと挨拶せんか!』
あ、控え目に言っても濃いな、と美雪は思った。
モンゴロイドもコーカソイドもネグロイドも、多種多様な顔付きに肌、髪の色をした人々が騒めく姿は、現在のムリーヤ国の人種構成の縮図でもあった。
「……頼むから、先に、というか、普通に、挨拶、させて、くれないか」
頭痛が痛い、と言わんばかりに額を抑えながら、一言一言区切りつつ彗依が言うと、画面中央に座して彗依と同じ仕草をしていた男女の後ろに、一同がサッと整列して座布団に座った。
やれば出来るじゃないかマジで地球に行った日には連中絶対ブン殴る。と彗依は固く決意しながら、画面中央の両親に挨拶する。
「父上、母上。お久し振りです。
色々と順番を飛ばすことになってしまい、申し訳ありません。
こちらが、結婚を前提に交際をしております、勝柄・美雪さんと、私達を親と慕ってくださっておられます、第四代皇帝ナディーヤ・ワカコ陛下です」
「初めて御目文字いたします、秋桜・橘・朝臣・勝柄・美雪と申します。
御挨拶が遅くなりまして、誠に申し訳ございません」
「よろちくおねがいちましゅっ」
こちらの三人が親子揃って深々と一礼すると、画面の向こうの両親はとんでもないとでも言う風に手を振りながら、
『いやいや、そんなに畏まらなくても構いません。
こちらこそ、愚息が大変貴女方にお世話になっております。
私が彗依の父、都鴇宮・夢玲和・泰時です。こちらが妻の里伽子。
後ろは京都に住む親族一同です』
『里伽子です。ウチの馬鹿息子がこの度は本当に……』
「ちょっと待て御袋。何で俺が何かやらかした前提なんだ」
『アンタ何を言ってるの! ここまで事が大きくなって、断れる御嬢さんなんて居るわけないでしょうがっ! アンタときたら本当にもうこんな無茶苦茶を……』
まあそれは普通の肝っ玉の持ち主ならせやな。と美雪は思いながらも、「あの、」と声を掛けた。
「それは本当に、大丈夫です。
記者会見をすることになっても、ならなくても。
事が大きくなっても、ならなくても。
或いは、私達を直接結びつけてくださった、第四代皇帝陛下が居られなくても。
殿下と出逢ったら、私は、誰のものでもない、私自身の自由意志で、殿下と結婚を前提にしたお付き合いを始めたと思います」
美雪はそこで、「物事の考え方が、私と同じ方向を向いているところも魅力なのですけれども、その……、」と一瞬詰まってから、顔を真っ赤にして、
「私、殿下には、一目惚れ、でしたので」
と直截に惚気たものだから、場に居合わせた一同も真っ赤になってしまった。




