今世の両親(2)
美雪が自宅の固定電話へ発信したビデオ通話は、ツーコール目で受け取られた。
『ちょっと美雪!? 一体何がどうなっているの!?』
「それは、色々と心配をかけることになっていて、本当に御免なさい、お母さん」
開口一番、そうムリーヤ語で捲し立てたのは美雪の母だった。
横で通話の画面を覗き込んでいた彗依は、事前に美雪を調べた際の資料で既に目にしていたけれど、アンチエイジング技術が格段に進歩した現代の視点から言っても、彼女の母の見た目は格段に若い。美雪と年子の姉妹だ、と言われても通用しそうだった。
その隣には、典型的コーカソイド系の見た目をした男性が、難しそうな顔をして控えている。美雪の父だ。
美雪は確かに第三代皇帝アタナシア・コスミカ・リコに生き写しだけれども、細かい所、例えば黒子の位置や耳の形を見れば、彼女が両親の遺伝子を掛け合わせた結果であることが分かるな、と彗依は改めて思った。
オニール型宇宙島である「こすもす」の比較的端の方に彼女の生家はあり、シリンダーの反対側に位置する大学への進学を口実に、美雪は一人暮らしをする形で距離を置いているのを、彗依は家庭環境の調査で知っていた。
「お父さんも。順序が色々と逆になっていて、御免なさい」
『――それは、いい。お前も私達に連絡を取る暇がなかったんだろう』
意外にも、堅苦しい表情をした父親の方が、美雪に対して理解を示したので、母親の方も口をつぐんで、一旦喧騒は落ち着いた。
『それで、そちらの男性と子供を、紹介してくれるんだろう?』
「はい。こちらの男性が、私と結婚を前提にお付き合いを始めました、都鴇宮・彗依殿下です。
そしてこの娘が、私達をこの時代の親と慕ってくれている、第四代皇帝ナディーヤ・ワカコ陛下です」
「あい。わたち、ナディーヤでしゅっ」
彗依が挨拶するより先に、美雪の言葉が終わるのが早いか、シュタッと手を挙げ身を乗り出したナディが、画面に向かって愛らしく挨拶をしたので、母親の方が、
『まあ……まぁ……』
と手を口に当てて目を丸くして驚いた。
「――画面越しに、また遅い時間に、順序を逆にした御挨拶となりまして、申し訳ございません。
私、都鴇宮・彗依と申します。
この度、お嬢様と真剣なお付き合いをさせていただくことになりました。
御両親の了解を得ないまま、この度の記者会見へと話が進行してしまいましたが、どうかよろしくお願いいたします」
「お願いします」
「おねがいしまちゅっ」
彗依が画面に向かって挨拶をして頭を下げ、美雪もそれに続き、ナディがそれを真似して「お願い」すると、美雪の両親は大層恐縮した様子になり、
『いや、もう美雪は、この娘は、反抗期もなくあっという間に自分で成長して、もう成人資格も得た、きちんとした一人の大人ですから。
ちゃんと結婚を前提とした大人と大人の付き合いであるならば、画面越しだとかで、とやかく言うことはありません』
『ただ、美雪よ。報告・連絡・相談はもっときちんと、忘れず、早めにしなさい。
危うくこちらは肝を潰すところだった』
「はい。それはもう、本当に反省しています。
御心配をおかけして申し訳ありませんでした」
今一歩、一線を画した距離感なのが、やはり彗依は少し気になったが、いい加減ナディが寝落ちしかねないので、
「これからの予定なのですが、」
と話を纏めにかかった。
「ナディーヤ・ワカコ陛下が何時、下の時代に戻られるのかはまだ理解りませんし、また戻られたとしても、記録上では、また再び私達の傍に現れる可能性が否定できません。
それだけが理由ではありませんが、美雪さんは当面の間、私の家に暮らしていただき、然るべき身辺警護をつけることになりますし、また御両親にも、警護の者がつくことになることをお許し下さい。
ですが、仮に陛下が、私達の傍に現れなくなったとしても、私は美雪さんと、一つの家庭を築きたいと思っております。
まだその時ではありませんが、何れ、その時が来ましたら、改めて御挨拶に伺わせていただきますので、どうかそれまでも、そしてそれからも、よろしくお願いいたします」




