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今世の両親(1)

 勝柄・美雪という人間が、第三代皇帝アタナシア・コスミカ・リコの生まれ変わりにして、初代皇帝チカコ一世陛下の血を引く人間であることは、既に述べた。

 彼女は正式な本名を、秋桜(コスモス)(・ノ・)(タチバナ)(・ノ・)朝臣(アソン)勝柄(カツラ)美雪(ミユキ)と言う。

 その名乗りは、「ムリーヤ国の宇宙領土である「こすもす」に移住し・臣籍降下し橘姓を名乗るようになった皇族の血を正しく引く・勝柄家の・美雪」という意味になり、詰まる所、彼女もまた由緒正しい皇室の血を引く御家柄の人間である。

 尤も、皇族以外の王侯貴族という身分制を、国家的功労者に与えられる一代名誉称号以外で徹底的に排しているムリーヤ国では、()()()()皇族の定義を外れている美雪は、単に由緒正しい血統書付きの、ムリーヤ国内では()()()()()()な家庭の人間である、という以上の法的地位を今までは持たなかったし、本人も四六時中誰かに傅かれる九九〇〇年以上前の生活よりは、今の生活の方が性に合っている、と思っていた。


 今までは、であるが。


 極めて当たり前のことだが、皇位継承権を持つ相手(都鴇宮・彗依)と結婚を前提としたお付き合いを始め、しかも現代にタイムリープしてきた第四代皇帝陛下その人と擬似家族(当人らの主観的には実家族)を形成している。とあっては、本人らに侍従なり侍女なり護衛なりをつけない訳にはいかなかったし、その家族にも身辺警護をつけない訳にはいかなかった。

 そして、美雪と彗依とナディーヤ・ワカコの、第一種接近遭遇から記者会見に至るまでの時間は一日にも足らず、しかも予期されたものではなかったので、それまで彗依が美雪の身辺に配置していた身辺警護を、急遽大っぴらに物々しく配置し直したものだから、美雪の家族は仰天し、恐縮することになった。


「あっ」


 斯様な措置について、美雪が自分の今世の家族に説明する必要があることを思い出したのは、かなり薄情なことに、記者会見が終わった日の夜のことだった。

 その頃にもなれば、腕時計型携帯電話の通知も収まっており、彗依が「こすもす」に構えている邸宅に帰り、「愛娘と一緒に入る初めてのお風呂」という貴重な体験を終えて、リビングで寛いでいた美雪は、漸くその事を気付いた。

 主観的に見て初めて両親が揃った状態に、一日中興奮していた疲れもあって、ウトウトし始めたナディを撫でながら、美雪は同じく寛いでいた彗依に声をかける。


「ねえ、私、これから今世の両親に電話しようと思うのだけれど、この娘と一緒に挨拶しない?」

「ああ……そう言えば順序が完全に逆になってるな。

 同じ「こすもす」に住んでいるのに、電話越しだと失礼に当たらないか?」

「これ以上先延ばしにする方がいけないと思うわ。

 私も貴方の今世の御両親に御挨拶しないと」


 と言えば、頷いた彗依は世界時計を確認し、


「京都はまだ未明だから、こっちは一眠りして、明日の朝でも構わないと思う。服がラフだが、着替えて来ようか?」

「そんなに気を遣わないで。あっちもそんな準備万端だとは思えないし、この娘がちょっともたないわ。

――ナディ、これから私の今のパーパとマーマにお電話するの。もう少し起きていられるかしら?」

「……う? おじーちゃま(ジージ)おばーちゃま(バーバ)?」

「そう。大丈夫?」

「あい。わたち、だいじょーぶよ?」


 昼間よりも幾分パワーが落ちた声で言うので、やはりこのまま電話するしかなさそうだ、と判断した美雪は、即座にビデオ通話の画面を呼び出して発信した。


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