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釈明記者会見(2)

 第三代皇帝の顔をして、空席になっていた彗依の隣の椅子に美雪が優雅に着席すると、自然とそれに倣って彗依もナディーヤ・ワカコを抱いたまま腰を降ろした。


「え、えぇー、と、それでは、記者会見の方を続けさせていただきます」


 動揺を隠せない声で、司会を務める宮内省が差し回した式部官が会見の再開を宣言したのに合わせて、美雪が欠けら程も動揺を見せずにマイクを取る。


「初めまして。(わたくし)、勝柄・美雪――正確には、秋桜(コスモス)(・ノ・)(タチバナ)(・ノ・)朝臣(アソン)・勝柄・美雪と申します。

 所謂、「ご先祖様に初代皇帝陛下がいらっしゃるけれども、原初の四宮家には括られない」という、広義の方の皇族です。

 皆さまが既に各種報道でご存じの通り、こちらの都鴇宮・彗依殿下と、結婚を前提とした真剣な交際をさせていただいております」


 そう一息に言い切った美雪に、司会の許可を待たずして報道陣から怒涛のように質問が浴びせかけられる。


「交際は何時ごろから!?」

「そちらの娘さんはお幾つなのですか!?」

「いつお産みになられたのですか!?」


 その余りの勢いに、あれ程人懐っこくカメラに手を振っていた膝上のナディが、目を丸くして身体に力が入ったのを感じ取り、彗依は脳裏の、


「いつかこいつらは社会的に抹殺するリスト」


 にこの会場の報道陣を書き加えることを決めた。

 が、美雪は気にした風でもなく、微笑を浮かべて片手を挙げただけで、報道陣の質問攻勢を静まり返らせる。

 それは、生まれながらにして、王の中の王たるべき教育を受けた者だけが醸し出せる、王者の威徳だった。


「――順を追って、お話しさせていただきますね。

 私と殿下が交際を始めたのは、この一週間の間のことです。

 私はこれまでの人生で、この「こすもす」の外に出たことはなく、また殿下がこちらにお住まいになられるようになったのも、つい先日のことで、それまで私と殿下の間に、面識はありませんでした。

 私と殿下を結び付けてくれたのは、この娘――名前を第四代皇帝陛下と同じく、ナディーヤ・ワカコと申しまして、私が大学構内で佇んでいた所に突然現れて、私をマーマと呼ぶものですから、私はとっても吃驚(びっくり)いたしました。

 そうしましたら、この娘を追って殿下がお出ましになられて、殿下のことをパーパと呼びました。

 そこで初めて、私は殿下の御意を得まして、私達のことを親として慕うこの娘の事情などを知ることになり、その話を通じ、互いに男女として深く惹かれ合うのを感じまして、結婚を前提とした真摯で真剣な交際を始めましょう、ということになりました。

 それで、この娘の事情なのですけれども、」


 と、そこで、緊張している(ナディ)を安心させるように一瞬目を配ってから、美雪は端的に事実だけを述べた。


「遺伝子検査や指紋などの各種科学的な鑑定の結果、そして皇室の記録などから、この()は三歳時分の、第四代皇帝ムリーヤ・ノ・ナディーヤ・ワカコ陛下その人が、この時代にタイムリープした存在である、と結論せざるを得ない状態に至っております。

 そしてそれ故に、恐れ多くも、その母君であらせられる第三代皇帝アタナシア・コスミカ・リコ陛下に似た容姿の私と、その父君である皇配ムリーヤ・ノ・コメート・ホシヒト殿下に似た容姿の殿下を、親と慕っておられる、という状況にあります。

 恐らくですが、皇室の記録に鑑みて、こちらのナディーヤ・ワカコ陛下がこの時代に居られる時間は、そう長くはないものと推察されますが、その間、私と殿下は、ナディーヤ・ワカコ陛下のこの時代に於ける代親として、精一杯努めさせていただく旨、こうして皆様にご報告するため、此の度の会見の場を設けさせていただきました」


 美雪が大真面目にそう宣ったものだから、会見場はシン……と静まり返った。

 それは、


「こいつは一体何を言っているんだ」


 的な沈黙だったが、美雪は意に介さずに微笑を浮かべたまま、言葉を続けた。


「後程、御本人であることの証明に必要な、指紋を取る機会を設けさせていただきますので、皆様、気が済むまでじっくりくっきり好きな様に鑑定なさってくださいませ。

 私からは以上になりますが、殿下の方から、何か付け加えることはございますか?」


 笑顔の起源は威嚇である、という話を美雪の自信満々な笑みに思い出しながら、彗依もマイクを手に取った。


「この会見でお伝えしたかったことの殆どは、彼女が言ってくれましたが、私の方からも二つほど。

 一つ目は、私達は、突拍子もない妄言の類で皆さんを煙に撒こうとしているのではなく、ありのままの事実をお話ししたという事。

 それを今すぐに認めてくれ、とは申しません。

 俄には肯んじ難い事象を、皆さんにお伝えした自覚はあります。

 ただ、その真偽は別にして、今、私達の腕の中に在るこの愛おしい小さな温もりが、私達を親と慕い、またそれに対し、私達が親として応えたいという気持ちを、どうか尊重して、そっと見守っていただきたい。というのが二つ目。

 以上です」


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