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腕時計が指し示すもの

 ところで読者諸氏は、「腕時計型携帯電話(スマートウォッチ)」という単語が何度も出現していることにお気付きだと思う。

 勿論、これがこの話の鍵の一つだから、小道具として頻出している。

 皇紀九九九九年のムリーヤ国に於いて、腕時計型携帯電話は概ね、以下の機能を兼ねている。


・腕時計

・スマートフォン

・キャッシュカード兼クレジットカード

・所有者の健康状態管理

・各種電子式生体認証鍵

・公的身分証明証


 要するに、某林檎マークの会社が作ったウェアラブル・デバイスの延長線上にある、発展型と思ってもらって良い。

 このような多機能ウェアラブル・デバイスは、国民一人一人に対し最低一つ、国が供与(厳密には相当額を補助)し、また外出時は必ず装着することが義務付けられている。

 それは、国民一人一人の行動を監視するという目的がゼロではないが、基本的には国民一人一人が情報の入手や各種決済・手続きに不自由しないという、ムリーヤ国が憲法上に定義するところの「現代的で、健康的で、文化的な最低限度の生活」を送るのに必要なユニバーサル・サービスを、全国民にその全領域で提供することを目的としている。

 そして前述の通り、腕時計型携帯電話には、各種決済に必要な本人確認のための生体認証機構が組み込まれていて、それと音声認識、位置情報、健康状態、装着者本人の公的身分などを組み合わせることにより、都鴇宮・彗依という皇族と、勝柄・美雪という皇族(の末端)が接触し、()()()()()()()()()()()、と腕時計型携帯電話の接続先の皇族専用認証システムは認識した。


 それだけならまだ比較的どうということは無かったのだが、非常に間が悪かった。


 なんとなれば、今上皇帝夫妻には、子供(相続人)が居ない。

 年齢的にも、医学的にも、倫理的にも、また本人らの意向的にも、残念ながら、今後授かる見込みはない。

 従って一応秘されているが、大体こうだろうと巷でもほぼ正確に予想されている皇位継承法に従えば、「原初の四宮家」の者で、既に世子を授かっている者が次の皇位を襲うことになる。

 が、その「原初の四宮家」の者で、皇帝になっても何ら問題ない年齢で、尚且つ世子を授かっていて、しかも皇帝たるべき資質を兼ね備えた人間、となると、途端に数が絞られる。

 と言うか、ぶっちゃけ居なかった。

 宮中席次がダントツに高く、凡そのことに不自由しないという自負のある彗依でさえ、既婚者ではなく、世子もなく、本人が「心に決めた相手とでなければ結婚もしないし子も作らない」と公言して憚らないので、見込み無しとして、次の皇帝候補から外されつつあるぐらいだった。

 皇紀九九九九年のムリーヤ皇室は、血の継承と言う点では、危機に瀕していたと言っても過言ではなかった。

 そこへ来て突然、彗依と美雪が接触し、その間に娘が居るものとシステムは認識した。

 特に、再会記念に写真を撮ったのが、いけなかった。

 システムは「皇族」という巨大な括りの「家族」内に成員が増えたものとして、自動的に二人の家族全員に宛てて、写真付きで通知を行った。


【都鴇宮・彗依さんと、勝柄・美雪さんが家族(パートナー)になりました】


 システムの早とちり、または完全なお節介だったのだが、その効果は絶大だった。


 中々特定の相手を作らないどころか、女っ気一つ見当たらない(心配して親が差し向けたハニートラップにも目も呉れない)息子に隠し子が居て、しかもそれを受け容れて仲良くしている嫁(推定)が居る!? と、都鴇宮家では大パニックが起きた。

 野星の宮内省に出仕していた某皇族が、これはもう次の皇帝陛下は都鴇宮・彗依様以外にあるまい! と当人らの身辺警護を強化しようと、越権を承知で「こすもす」に駐屯する禁軍に出動を要請したため、事態は政府も知るところとなった。

 当人らへの確認が行くより前に、事態は坂道を転げ落ちるように大事になっており、しかも当人らの腕時計型携帯電話の側は、後から後から殺到する通知を前に処理(表示)能力が飽和してしまい、当人らの操作を受け付けない状態になってしまった。


 皇紀九九九九年の世界に、幼き日の第四代皇帝とその(精神的)両親が居ることを知識的に知っている面々が、制止を試みたが、既に後の祭りだった。


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