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「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!  作者: 大鏡路地
「玲和」四年、日本国はウクライナにジョブチェンジしました!
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その頃、ウクライナとロシアでは

※フィクションです(令和四年六月一日修正)。

 一方的に現状変更を宣言して、ウクライナへの編入とロシアへの攻撃を始めた日本国であったが、では編入した側(当局発表)のウクライナと、攻撃を受けたロシアはどうだったのか。

 西暦二〇二二年三月五日時点では、ウクライナ首都キーウ前面にロシア軍が迫り、包囲を試みるロシア軍と、それを分断して逆包囲・解囲を試みるウクライナ軍との間で激しい戦闘が行われ、市街地では主にロシア軍による非戦闘員を巻き込むことも厭わない攻撃が行われていた。

 また東部ハルキウ、東南部マリウポリなどは包囲され、市民らの激しい抵抗に対して虐殺に等しい殺戮劇が繰り広げられていた。またザポリージャ原子力発電所をロシア軍に制圧され、ウクライナ全土の発電力の五分の一の生殺与奪を握られた。

 ウクライナ軍は各地で善戦し、事前の予想に反しロシア軍の兵站の破綻もあって、兵力で圧倒するロシア軍に対し多大な出血を強いてはいたが、ジリジリと占領地域を拡大するロシア軍に対し、大勢としては劣勢にあったと言える。

 一方、当初の予定(特別軍事作戦)に反して想定外の甚大な被害をウクライナから被ったロシアは、屋台骨が揺らいでいた。

 ロシアの言うところの「西側」主導の世界経済から締め出しを受け、一九九八年のロシア財政危機ほどの水準ではないものの、デフォルトさえ視野に入るほど通貨(ルーブル)の価値の下落が進み、また輸出入が途絶え、民需品を配給制に移行して経済の統制を図るなどという、どこかで聞いたような光景が繰り広げられていた。

 そこへ来て日本国の熱い掌返しがあり、旧式装備さえ現役復帰させて戦力がウクライナへ引き抜かれて弱体化していた東部軍管区は、日本軍ーー彼ら(ロシア)は自衛隊とは呼ばないーーに対し一方的に敗北を喫した。

 ロシアは民意(当局発表)の表現手続きである大統領選挙で選ばれた、ヴラディミール・プッティン氏がロシア大統領に就いていたが、詰まるところ彼がその座に就いているのは、彼がチェチェンで、シリアで、クリミアで、「西側」諸国に対し勝利を収めてきた「勝てる」皇帝(ツァーリ)だったからであった。

 然し乍らウクライナでの躓きから、予想だにしない日本の変節(ジョブチェンジ)と極東地域の軍事力の激減、クリル諸島(千島列島)サハリン(樺太島)を失陥するに至り、彼が「勝てない」皇帝なのではないか、という深刻な疑念を、ロシア国民に生じさせることになった。

 ロシア当局はインターネットの遮断や、反戦デモ参加者の拘束、各種メディアや学校教育でのプロパガンダ配布などで、ウクライナや極東での失敗を糊塗することに躍起になっていたが、ロシア国民の方もVPNアプリや各種暗号化メッセンジャーアプリ、匿名化通信ブラウザなどで対抗し、細波のようにプッティン氏への反意が広がっていくことになる。

 話をウクライナに戻すと、日本国のウクライナ編入という奇手を生み出した張本人の一人であるチェレンコフスキー大統領は、ロシア軍が前面に迫ってもなお、首都キーウに踏み止まって前線指揮を執り、史上最大の国難に見舞われたウクライナを良く支えていたが、日本国が極東地域で火事場泥棒以外に表現しようのない戦争を始めると、国民向け演説で、


「サムライの国が過去の恩讐(第二次世界大戦)を乗り越えて我が国に助太刀してくれた。

 これは我が国の戦いが一片の誤りもないことの証左であり、我が国はけっして国際社会から見捨てられた孤独な存在ではないのだ」


 と語りかけ、懇切丁寧に日本国のロシアに対する国際法違反は無視した。

 極東の、世界で最も旧き国がウクライナのために立ち上がったことで、ウクライナの軍民の士気は頂点に達した。

 極東で戦端が開かれたことにより、元より半壊していた兵站や指揮が破綻し、当初から士気が低く一種の自暴自棄に陥りつつあったロシア兵を、各地で押し返した。

 これに対しロシア軍は、低出力戦術核兵器の前線使用を本気で検討したが、ウクライナを前面に立たせたまま戦線限定での国家総力戦に留めたい「西側」諸国の、全面報復核攻撃を招きかねないとして、そのプランは破棄された。

 代替措置として、


「軍国主義国家にジョブチェンジした日本相手なら許されるだろう」


 という発想の下、高出力(戦略)核兵器を日本へ撃ち込んだが、前述の通りミサイル防衛システム(BMD戦)対応イージス艦という盾に弾かれ、逆に国際社会からの批難と、日本国への支持を集める結果となった。

 日本が攻勢限界に達するまでの二十五日の間に、ウクライナを打倒することしかロシアに勝ち目は無かったのだが、ウクライナで攻勢を強めつつ、面子の問題から極東で日本に懲罰を加えるという戦力分散を強要されたロシア軍(空軍)のウクライナ爆撃は不徹底に終わり、却って非戦闘員の死傷者を増やして敵愾心を煽る結果に終わった。

 そして日本国国会が日本国のウクライナへの編入を正式に議決し、またウクライナ最高議会でも日本の編入を承認し、法人格としては日本国を存続法人とし、国号を「ウクライナ日本国」に改め、国家統合の細部交渉に当たることを宣言すると、事態はロシアにとって更に加速度的に悪化した。


「人道支援」の物資を搭載して欧州に飛来した日本軍機多数から降機したのは、支援物資だけではなかったからである。


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