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都鴇宮という御家について

 都鴇宮(トトキノミヤ)を名乗る皇族は、日本地方は近畿道京都府京都に本拠を構える、由緒正しい御家である。

 どれ程由緒正しいかというと、ムリーヤ国初代皇帝ムリーヤ・ノ・チカコ一世陛下の第一皇子、スヴャトスラフ・ミツヒト殿下による宮家創設以来、一度も途切れることなくその血を繋いでいる世襲皇族であり、現当主は今上皇帝の実弟である(※都鴇宮家の女相続人の入婿になった)、という位である。

 或いは、「都に在りし(ニッポニア・ニッポン)の宮」という、これ以上なくムリーヤ国の前身の一つである日本国を象徴するかのような名乗りを許されている、と言えば、より想像し易いかもしれない。


 ちなみに、チカコ一世陛下はその生涯で五人の御子をお産みになり、その内、二代皇帝となったアレクサンドラ・エリコ一世陛下を除いた四人の御子方が、日本地方、ウクライナ地方、モスクワ地方、東シベリア地方にそれぞれ居を構え、都鴇宮家、ドニプロ・ノ・宮家、ルーシ・ノ・宮家、シベリア・ノ・宮家の、「原初の四宮家」と呼ばれる宮家を建てている。

 ムリーヤ国の法律上、皇帝はチカコ一世陛下の皇統から長子相続で選出することになっており、もし相続人を授からなかった場合には、遡って血統の近い順に皇位継承が行われるのが原則である。


 が、血統が近いからと言って、それが必ずしも皇帝の資質が備わっているとは限らない。


 例えば、()()()()()()()()()()()()()、などといった野心溢れるような人物を皇帝に据えれば、如何にムリーヤ国が象徴皇帝制を採っているとは言えども、碌なことにならないのは歴史が証明している。

 であるからして、直系相続が叶わなくなった場合は、皇室会議がムリーヤ国議会に皇室会議の決の承認を求め、皇位継承権を有する人物の中から、新たな皇帝を選出するのが通例である。

 そして、その選出基準は、「皇帝としての政治的・人間的な資質を兼ね備えているか」という条件のみならず、何らかの「儀式」を終えて「()()()皇位継承権を有していること」が必要だと言われている。


 言われている、というのはつまり、飽く迄もそれは当事者以外からの推測である、ということである。


 理由は簡単で、皇帝の推戴は、ムリーヤ国で最も神聖にして不可侵たるべき儀式であるから、その選出基準は門外不出として、外部からの干渉を排除しなくてはならない、という理屈で秘密にされているからだ。

 そして過去に何度かあった皇帝の選出は、一例の例外を除いて、下馬評を大きく覆して「原初の四宮家」から選ばれている。

 より正確を期するなら、「原初の四宮家」の者を配偶者とし、既に世子を授かっている者が、皇帝に立っている。

 そこに、何がしかの作為は無い、とする方が無理があるだろう。


 そして、美雪は、()()()()()()()()()()()()()()、元夫と娘と近接遭遇した時点で、その条件を満たしてしまった。


「だからって、これはないわ」

「パーパ、めーよっ」

「正直すまんかった」


 彗依を床に正座させ、その前で仁王立ちした美雪は、懇々と説教する羽目になっていた。

 ピコリン、ピコリン、と腕時計型携帯電話から通知が鳴り止まない中で、美雪の足にしがみ付いて、事情がよく分からないなりに美雪の真似をして笑う、ナディーヤ・ワカコだけが癒しだった。

 はぁ、と美雪は溜息を吐いた。

 経緯がどうあれ、既定路線として走り出してしまった物事を止めるのは容易ではない。

 況してや、相手が国家システムそのものであっては、尚更の事。


「まあ良いわ、どう収拾つけるのか知らないけど。

 貴方と一緒なら、何にでもなってあげる」


 それが、惚れた弱みというものだった。


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