皇紀九九九九年の世界(5)
感極まった美雪が抱き着いた、今は都鴇宮・彗依と名乗っている彼に促され、取り敢えず場所を、大学近くにある個室がある高級喫茶店に移し、兎にも角にも情報共有をした。
「えぇー……、そんなこと、あるの?????」
と、彼女は言い、彼もまた、
「マーマとパーパが一緒で嬉しい!」
という満面の笑みを彼女の膝の上で浮かべる娘を見遣りながら、頭痛が痛いという風に額を抑えながら頷いた。
生まれながらにして第四代皇帝に践祚することになった我が子、ナディーヤ・ワカコは、アタナシア・コスミカ・リコの母であり上皇である第二代皇帝アレクサンドラ・エリコを摂政として、成人までの間、後見を受けることになり、未亡人(?)となった皇配コメート・ホシヒトは公務から退いて、慣れない子育てに取り組むことになった。
その間に共和制への道は主に、
「我らが奉じる皇帝陛下の言うことだから」
と共和制論に渋々是認していたのを帝政存続にジョブチェンジした国民世論を原因として、法的手続きをきちんと執行して撤回され、崩御した自分は「不滅の」と名付けられた割にはあっさり早逝した悲劇の皇帝扱いされているのは、何か釈然としないものを美雪は感じたが、それは取り敢えず傍に置いておくことにしよう。
ともあれ、ナディーヤ・ワカコはそういう環境で育てられることになったのだが。
この娘、親馬鹿を差し引いても非常に出来の良い天才児だったのだが、困ったことに脱走癖があったのだ。
「どんなに注意していても、意識が逸れることってあるだろう?
この娘はそういう隙を見出す、若しくは作り出すのが上手で。
どうやって監視カメラの死角を見つけるのか未だに理解らないんだが、死角に入り込んだら最後、城内総出で探しても見つからなくて。
関係者全員青くなった頃にひょっこり戻ってきては、「マーマに会ってきたの!」と言うもんだから、てっきりお前が守護霊的な何かになってナディーヤに憑いてるんじゃないかと思ってたんだ」
そう零す彼からは、心底苦労したというのが伝わってきて、美雪は産むだけ産んで後始末を任せることになったのを申し訳なく思った。
思わずそう告げると、彼は首を振った。
「子供を作るのは、お互いに責任があることだが、どうしたって妊娠・出産は女性の方が負担が大きいんだ。俺がした苦労なんて、お前が負っていた苦労の何分の一にもならないさ」
サラリとそう言ってのけた彼に、(主観的通算年齢的に)柄にもなく彼女は赤面することになった。
話を元に戻すと、割と頻繁に脱走したナディーヤ・ワカコから聞き取り調査をしている内に、結論から言うと彼女は皇紀九九九九年の時間軸へ、超自然的現象によりタイムリープしていることが判明した。
そして皇紀九九九九年という遥か未来に、アタナシア・コスミカ・リコとコメート・ホシヒトが転生していることも分かった。
実際、主観的に見てアタナシア・コスミカ・リコは勝柄・美雪として、コメート・ホシヒトは都鴇宮・彗依として存在しているので、美雪の膝上で子供サイズのパフェに舌鼓を打っているナディーヤ・ワカコちゃんが、タイムリープにより過去からやってきた自分の娘であると、美雪自身も信じる他無かった。




